休日
直孝は、やり過ぎて、貴族を呼んでしまった。
ヘイリス男爵は、特別なものを注文してお帰りになった。
「直孝さん、問題が発生した。急いで映画館に戻ってくれ」
僕のトランシーバーに、グターニから連絡を受けた。
「グターニさん、何があったの」
「何もありませんが、これから起こります。ヘイリス男爵のバトラーが来てまして。ヘイリス男爵が、こちらに向かった来ています。どうしますか」
「分かりました。直ぐに、戻ります」
僕は、畑の主に相談をして。トラクターの仕事を明日にしてもらい。
トラクターのギアを変えて。スパーチャージャーをオンにした。
『キュィーン』
※インターセプターでもWILD・Sでもではない。
僕は、急いで映画館へと戻った。
トラクターを、映画館の正面へ止めて。中で、グターニさんとヘイリス男爵のバトラーと話している最中に、ヘイリス男爵の馬車が到着した。
「表のアレを、移動させてもらえませんか」
御者が、トラクターを退かすように、求めてきた。
「貴族って、事前に連絡してこないのですか」
僕は、ホール中に聞こえるように、叫んだ。
「申し訳ありません。庶民が貴族に合わすのが、世の常ですから」
バトラーが、ぼそっと呟いた。
僕が、御者と一緒に玄関を抜けると。ヘイリス男爵と思われる方が、馬車の窓から顔を出して抗議している。
「早く、馬を連れてきて、それを退かせ。私を、どれだけ待たせる。歩かせるつもりか。赤いカーペットも、用意しろ。これだから、庶民は」
御者が、乗車すると。ヘイリス男爵も、顔を車内へ入れて。静かになった。
僕は、トラクターを動かして、適当に止めると。驚かれた。
「ウマ無しで、どうやって動いている」
「うるさくて、変な匂いもします」
「馬より速い訳なかろう」
僕が、トラクターを片付けて、映画館のドアを開けて待っていると。
「アレは何だ。ウマ無しで、走るのか」
「はい。馬力が違います」
「あれで、馬車を引いたら、どうなると思う」
「全力出したら、馬車の車輪や本体が、壊れます。確実に」
直孝は、普通に会話をしている。
内申、怒っているが。押さえている。
「しばらく、こちらでお待ち願えますか」
適当に作った木製ベンチに、貴族の家族四人を案内した。
コーヒー3つと、オレンジジュースを2つ出して、次の作品のチラシを4枚渡した。
ヘイリス男爵、夫人と娘と幼い息子。バトラーに渡した。
「私を誰だと思っている、ヘイリス男爵だぞ。ここの領主だぞ。何故、私を待たせる」
「もう、まもなく、上映作品が終わりますので、しばらくお待ち下さい。でないと、ここで暴動が起こります。チラシを読んで、お待ち下さい」
貴族の男爵を、完全に下に見ていた。
紙が、貴重な時代に、カラー印刷された物を4部渡して。寸分の狂いもない、チラシに驚かれている。
貴族たちが、チラシを夢中で読んでいると。
上映が終わった。
次々に、感想を述べながら、出てくる観客。
売店に、長蛇の列が出来。トイレも込み合っている。
『ゴホン』
バトラーが、咳払いをした。
一斉にバトラーを見た後、貴族の存在を知った。
ヘイリス男爵も、自分の存在感の無さに、驚きを隠せていない。
皆が、膝をついている中、僕は掃除スタッフと一緒に、僕が寝起きに使っているソファーを、移動させた。
適当にパイプ椅子を退かして、真ん中辺りに、スペースを作った。
貴族を席に案内すると、外で騒ぎが起こった。
「連続で見る予定だったから、席に帽子を置いてきた」
皆、連続で見る予定で、チケットも、購入されていた。
「皆さんで、ご視聴したらいかがですか」
これは、僕だけの意見だった。
「貴族たちと、一緒になんて見れない」
「席の私物を、取りに行きたい」
「ビールのサービスをしろ」
様々な答えが返ってきて。
「お手数ですが、一度、先ほどのベンチへ出てもらえますか」
ヘイリス男爵たちを、劇場から出して。荷物を取らせた。
皆、一斉に荷物を取り。掃除を済ませて。
確認の後、再び、ヘイリス男爵を劇場へ招いた。
一つの問題が解決して、上映を開始した。
今度は、チケットを買った方と、連続で見ようとした方々だ。
ビールや飲み物、スナック。次回のチケットなどを配り、赤字となった。
※110円のレンタルで、赤字とは。
今、上映中のラブロマンスは、人気作でレンタルでは無く、DVDを常備してある作品だ。
1時間に渡り対応して、今は静粛が怖い。
嵐の前の静けさ、何事も無ければ良いのだが。
上映が終わり、5人が出てきた。
「面白かった」
「あの後は、どうなるのです」
「女王と庶民の恋など、あり得ない」
長男は、バトラーの背中で寝ている。
「あの庶民が、乗っていた乗り物は何」
ツンデレのアンノンが聞いた。
「確か、ベスパと言う名のバイクです」
「お父様、私アレが欲しい」
「君、アレを一つ所望したい」
「アレって、ベスパですか。かなり値が張りますし、維持費も大変です。何より、危険な乗り物です。お嬢様に、もしもの事が有れば、責任を取れません。却下すべきです」
「値段など問題ない。彼は、庶民なんだろ。庶民が買えて、貴族の私が、買えないはず無いだろ。あの姫様は、直ぐに、乗りこなしているように思えたが、気の所為か」
「バイクを乗るのに、それなりの許可証がいります。この国では、必要ありませんが、それなりの訓練は必要です。先程も、伝えましたが。アレは、馬より速く走ります、かなり危険だと思います。危険は、避けるべきです」
「危険ですって、アレは諦めなさい。アンノン」
「大丈夫ですわ、お母様。じゃじゃ馬のカーネギーを、乗りこなしたのよ。私は」
「カーネギーは、お父様と相性が悪かっただけです。ねぇ」
「どうだったかな。取り敢えず、アレを1つ頼む。アンノンに乗せるかどうかは、その後で決める。頼んだぞ」
「責任は、取りませんが。商品は届き次第、お渡しします。お色は、どうしますか」
「白ぽく見えましたが」
「白ぽく見えましたが、薄いグリーンです。グリーンでよろしいですか、赤でも、青でもピンクでも白も可能です」
「では、白で」
「分かりました、白ですね。塗装しだいお届けにあがります」
ヘイリス男爵家族は、ベスパを注文して。馬車に乗り込み、帰路についた。
「アンノン。貴女は、シナハーバー子爵に嫁ぐのですよ。わかってますか」
「分かっています。ヘイリス男爵家の名誉のために、ナヤット・シナハーバー様の側室に努めます」
「分かっていれば、良いのです。庶民などと」
僕は、翌日に休日を取った。
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