捨て犬
直孝は、老害の為の老人ホームを建設した。
女性の獣人たちを使い、介護をお願いして、給金を与えた。
直孝は、仕事にいきた。
地球と異世界を行き来しながら、たくさんの事業を、並行して行った。
一つは、異世界に、老人ホームを作った。
これは、影村会長の立案で。8人の元政界人を、異世界に招き、生活させるモノだった。
日本の高度経済成長を、裏で支えた人々だ。
時代が変わり、目の上のタンコブに成り代わった人々で。
欲の塊に成り下り、家族から敬遠されている。
このわがままな年寄り共が、家族の輪を乱し、不条理、理不尽、八つ当たりは、当たり前で孫たちにも嫌われていた。
この半年で、小さな家を12棟建てた。
建てたと言っても、日本の家では無く。ログハウス的な小さな家だ。
異世界の入り口近くの林を使い、勝手に異世界の老人ホームを作った。
林を開墾して、真ん中に大きな道を作り。
道の左右に、それぞれの広い土地を確保して、ログハウス的な家を作った。
いきなり、日本家屋は獣人たちには、ハードルが高く。
ログハウスの動画を見せると、獣人たちは、勝手に作業を始めた。
チェーンソーや、木材を整える機械を中古で買い揃え、真新しい木材は、エルフが乾燥させた。
「本当に、この家が貰えるのか」
「コンビニって、何だ」
「あの、デッカイ風車は、意味があるのか」
あれよ、あれよと、半年が過ぎ。12棟の建物が出来上り。
地球の人々を招き入れた。
待ち合わせ場所は、熱海の温泉で。1泊してもらった。
「最初の方々は、19∶00にお迎えに来ますので、ご準備を宜しくお願いします」
直孝は、向きを変えて。
「続きまして、2陣の方々も、2300迄には、お迎えに上がりますので、最後の地球を堪能されてて下さい。2陣の方々は、抽選ございますので、アルコールの方は、程々にお願い致します」
老害達は、思い思いの時間を過ごし。僕も、温泉を堪能した。
移住の手続きは、影村会長が終えていて。
大まか荷物も届け終わっている。
問題は、これからだ。
この日の為に、エルグランドを2台レンタルしている。
大型バス1台で移動させようとしたが、老害達がゴネた。
「同じ空気を吸いたくない。狭い車など、言語道断だ」
「奴とは、ここで縁を切りたい。 車は別にしてくれ」
「任せる、好きにしてくれ」
僕は、色々と悩みながら、席を決めて。二組に別れてもらった。
最初に、人目のつかない所に、軽トラを止めて。
荷台から、ママチャリを下ろし。
ホテルまでママチャリをこいだ。
体力不足を感じながら、一生懸命にこいだ。
汗をかき、太ももはパンパンなんだが。
「遅すぎる。何分待たすつもりだ」
「早くしろ。これだから、今の若者は」
「どうなっているんだ、儂を誰だと思っている」
直孝は、汗をタオルで拭きながら。
「お待たせして、申し訳ございません。もう少しお待ち下さい。車を回してきます」
直孝は、何度も頭を下げて、相手の機嫌を取り。腕時計に目をやると、18∶50を指している。
ペットボトルの水を、半分くらい飲み干して、エルグランドに乗り込んだ。
少し汗臭いが、直ぐに済む。
異世界に行ったら、獣人たちに任せよう。
「大変、長らくお待たせしました。お好きなところへ、お座り下さい」
「何だ、席が足りないじゃないか」
皆、秘書を連れて行こうとしていた。
秘書たちは、さっさと手荷物を乗せて。
「私たちは、最後の便で参りますので、先に楽しんでらして下さい」
これが、秘書の行動なのか。渾身の別れなのか。
最後まで、表情に出さず。主人を見送り届けた。
「それでは、出発致します」
老害達は、期待と不安になりながらも、シートベルトを締めて、『ざわざわ』と話し始めた。
人気の無い山奥に辿り着き。僕は、エルグランドから降りた。
「そのまま、待機してて下さいね。直ぐに済みますから」
『バタン』
「おい。自由過ぎないか」
「バカにするな」
車の中から、怒号が聞こえた。
後ろのドアは、子供の飛び出しを防止する為の機能が付いていて、運転席にスイッチが付いている。
一人の老害が、シートベルトを外して、僕を怒鳴りつけようとした時に。
僕は、牽引ロープでエルグランドと繋ぎ。指で確認しながら、軽トラに乗り込み。
異世界ドライブのスイッチを入れた。
夜だった景色が、異世界に着くと明るくなり。
僕は、軽トラから降りて、牽引ロープを綺麗に外して、軽トラのロールバーにかけた。
エルグランドに乗り込むと、質問が飛んできた。
「ここは何処だ」
「どうやったんだ」
「我々を、どうするつもりだ」
直孝は、ゆっくりと後部座席の人々を、バックミラーで確認しながら、驚いている表情を確かめ。
「異世界です」
エルグランドのエンジンをかけた。
そこから、貸切の映画館へと向かい。
老害たちを監禁した。
「これから、3時間ほど留守にします。絶対にこの建物から、出ないでください。外は、貴族社会ですし。村には、盗賊も出ます。この建物と入り口で説明をした、林の中のニュータウンだけが、治外法権なのです。お分かりいただけましたか」
静まり返る場内に、追随する形で。
「売店では、ビールと発泡酒、安物のワインが販売され、多少の乾き物も置いてございますので、御ゆるりとなされて下さい。失礼いたします」
「3時間は、待たせ過ぎだろ」
「2陣の奴らが来る前に、抽選を終わらせろ」
「スーリピちゃんは、俺の女だ」
散々怒号が飛んだが。
「貴方がたが、同じ車に乗るのを拒んだせいです。自業自得です。我慢して下さい」
直孝は、間を置いて。
「抽選は、必須です。色々な、介護をする獣人の方がいますので、チャンスを分け与えて下さい」
一通りの獣人たちが、映画館の壁ずたいを通り、老害たちを誘惑した。
「私、ソーセージパンが食べたい。太いのが、挟まっている奴を、いただけますか」
「私、ワインが入ると、淫らに熱くなるの」
「アイスを下さい。何でもしますから」
僕は、次の上映アナウンスをした。
「それでは、デカプリオの出世作を、放映いたします」
次の瞬間、劇場の照明が落ち。プロジェクターが、光を放った。
老害たちは、売店へと急ぎ。
直孝は、ゆっくりと映画館を離れた。
僕が、仕事に集中しているのは、お祖父ちゃんが、僕を捨てようとしているからだ。
僕が地球で、免許を取っている間に、マユタナさんが、家に上がりこんでいた。
僕の荷物を、土間の玄関口に放置してあり。
お祖父ちゃんは、何も語らず。
「直孝くん、ごめんね」
マユタナさんは、それだけ言い残して。台所で料理を続けた。
僕は、リュックを担ぎ、ガラクタの入った段ボールを抱いて家を出た。
ポツポツと雨が降り出し。
僕は、ずぶ濡れのまま、映画館へ向かった。
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