運転免許証
権蔵爺さんが、元に戻った。
お祖母ちゃんのお墓に線香を立てて、お祖父ちゃんは、お祖母ちゃんと別れを済ませた。
「直孝、JAに行くぞ。マユタナさんの畑に使う鶏糞と牛糞が必要だ。車を出せ」
「ごめん、お祖父ちゃん。今、向こうは夜中で。夕方にならないと、向こうには行けないんだ」
お祖父ちゃんに、昼夜逆転の説明してなかった。
「もう少しバイトしてて。ここが、終わったら、バイト変わるから」
僕は、トラクターのギアを変えて、スピードを上げて。
お祖父ちゃんは、渋々うなだれながら、映画館へと戻った。
あっという間の一年だ。
今では、お祖父ちゃんの貯金を戻し。プラスも出ている。順調、順調。
怖いくらい、事が運んでいる。
発泡酒を販売して、ビールの売り上げが落ち。
ビールの値段を、少しづつ下げている。
それよりも、トイレットペーパーが、大量に売れる。
週2で、40fのコンテナ分を仕入れているが。
商人たちが、馬車3台で来て。奪い合いをしながら消える。
香り付きは、争奪戦になる。
ほんの一部が、柔らかさを求めて。
更にマイナーな、キャラクター物を欲しがる客もいる。
比率は9∶07∶03ってな、ぐわいだ。
圧倒的に、香り付きが選ばれる。
そして、何故か領主の元に大量に流れる。
貴族は、垂れ流さないはずだったのに。
トイレットペーパー12ロールが、銀貨1枚で売れて。
ヘイリス男爵領を抜けると、6ロールが、銀貨一枚になり。更に、辺境伯領を抜けると、2ロールで銀貨一枚になる。
その向こうは、1ロール幾らの世界線だ。
検問や関税も、発泡酒が有れば、列の先頭に回れて、融通も効くらしい。
ビールが失くなる度に、『無益の書』が増えて。
現在、71冊を保有している。
「お祖父ちゃん、畑仕事終わったから。夕方まで寝てていいよ」
時計は、12時前を指していた。
カップ麺と、オニギリを取り出して。売店を見ながら、昼食を取った。
「何が、足りない気がする。何だ」
売店はある、トイレも綺麗。パイプ椅子なのは、申し訳ないが、不満は聞こえて来ない。
「パンフレットだ」
チラシ、パンフレット、グッズ。等身大パネルに、次回予告の広告。
色々と忘れている。
地球に戻ったら、色々と古い映画のチラシとか調べてみよう。たくさん購入できるかもしれない。
「あっ。カラーコピー機を買わないと」
直孝は、チラシを両面コピーするつもりだ。
グッズな。やたら、変身する小物が、売れるんだよ。衣装も。
Tシャツ類も、漁ってみようかな。
直孝が、昼食を取りながら、白昼夢を見ていると。上映が終わり、観客が中から出てきた。
トイレへ駆け込む者と、売店に来る者に分かれる。
目当ては、サツマイモだ。
ホクホクの焼き芋を買うのは、帰るお客さんで。
飲み物を買う人は、次の上映を待つお客さんだ。
中の清掃は、獣人たちにお願いして。
映画の切り替えは、売店の中で出来るようにしている。
「ソーセージパンを2つ下さい」
「こっちも、ソーセージパン」
「焼き芋を、3つ持ち帰りで」
※ホットドッグと、呼んではいけない。
10分の予定が、4分も延長してスタートした。
僕は、5時まで仕事をこなし。ラグマべと、仕事を交代した。
ラグマべは、ハルルの住人で。商人の経験もあり、計算もできる。
レジを任せられる人間だ。
僕は、お祖父ちゃんを迎えに、異世界の家へと向かった。
「お祖父ちゃん、地球へ行くよ。準備して」
直孝は、地球の服に着替えて、お祖父ちゃんの準備を手伝った。
「なぁ、直孝。儂は、どのくらい、お前に迷惑をかけた」
「僕は、迷惑だなんて、思ってないよ。僕の方が、いっぱい迷惑かけたから。恩返しが出来て、嬉しいんだ」
「ありがとう」
お祖父ちゃんは、着替えながら泣いていた。
2人が、軽トラに乗り込むと。直ぐに転移して。
お祖父ちゃんの畑に着いた。
まだ、薄暗く。お祖父ちゃんは、エンジンをかけたまま、軽トラから降りた。
お祖父ちゃんの畑は、無尽蔵に雑草が生え、細い木が伸びようとしている。
違った。ショットコーンの茎だ。
そう思った瞬間。コーンの皮が剥けて、中の種が弾けた。
物凄い勢いで、種が飛び出している。
何故だ。ショットコーンなんて、植えた記憶も、捨てた記憶も無いぞ。
ある仮説が浮かんだ。
T-Rexだ。お腹はグチャグチャにしたが、コーンを食べた奴を、食したのかもしれない。
コーンの種は、最後まで残るからな。
T-Rexの栄養で延びたのかもしれない。
待て、隣の畑にも、ショットコーンの実がなっているぞ。
ハルルベリーの会社の売り上げが落ちてしまう。
ショットコーンは、静岡の田舎で栽培され始めた。
「直孝、お祖母ちゃんの墓へ行きたい」
僕は、泣くお祖父ちゃんと、運転を交代して。お墓まで走らせた。
ダッシュボードから、お線香とライターを取り出して。お祖母ちゃんのお墓に供えた。
「すまん。時間かかってしまった」
お祖父ちゃんは、お祖母ちゃんのお墓に、深く頭を下げた。
僕は、本当に戻ってきたのだと信じた。
しばらく、実家で仮眠を取り。
『リアル過ぎる』のメンバーを励まして。
助手席に乗り込んだ。
「何やってんだ、直孝。久しぶりの公道は、少し自信がない。お前が運転しろ」
「やだよ。お祖父ちゃんがしてよ。交番の前通るし」
「何で」
「免許、持ってないもん」
「お前。二十歳にもなって、免許持ってないのか。静岡で生きていけんぞ」
「だから、全てネットで購入している」
「今の若い者は、全てネットで買い物するのか」
「便利だよ」
「根本的に間違っている。18になったら、免許を取る。お前は、頭は良いんだから、大型免許も、特殊もついでに取ってこい」
「18の時、そんな事一言も出ませんでしたけど」
「ばぁーさんに、止められたんだよ」
軽トラの中が静まり返った。
「儂が運転する。馬鹿たれ、泣くな」
お祖母ちゃんの優しさが、僕の心を締め付けた。
お祖父ちゃんは、JAへ行かず。教習所の駐車場に車を止めた。
「嫌だよ。ヤンキーがいっぱいるから、ヤダ。降りない」
お祖父ちゃんがまともになり。直孝も、昔に戻った。
「いいから、行くぞ」
お祖父ちゃんが、僕の袖を引っ張って、教習所の門をくぐった。
まだ4月だが、バイクに乗るヤンキーはいる。
そこで、直孝は、不思議な光景を目にした。
「何度も、言っているだろう。後方確認が、抜けているんだよ。こんなんじゃ、印鑑は押せない。来週、もう1回やるぞ」
僕よりも、差が低く、ハゲ散らかしたオジサンが、バインダーでヤンキーの頭を、何度も叩いている。
「先生、頼むよ。このままだと、ゴールデンウイークまでに、免許取れないよ。ツーリングする予定だから」
「後方確認もできない奴が、公道を走るな。安全に走っている方が迷惑する」
教官は、強気の姿勢を見せていた。
それが、なんだか、かっこよく見えた。
僕は、異世界の仕事をこなしながら、半年間、教習所似通い。
普通自動車、大型自動車、特殊自動車の免許を習得した。
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