関東老虎組へ
直孝は、組員に連行されながら眠りについた。
老虎組は、チンケな組ではなかった。
大きな門を抜けても、門が続いていた。
僕は、一人で後部座席に座り、くだらないやり取りを聞きながら、恐怖を忘れて眠っていた。
高速道路から見える変わらぬ景色に、疲労が溜まった体が重なり、ウトウトと睡魔が勝り、恐怖が負けた。
僕は、関東老虎組の本部で起こされた。
大きなお寺や、葬儀場みたいな造りで、大きな入り口の戸には、虎が描かれていて、額に老虎と彫られている。
そこに現れたのは、大勢のヤクザとマロウ。一人の老人と、老人の補佐役だった。
「直孝、ごめん捕まった」
マロウは裸足で、外出用のスウェットの上下を着用している。頭は、フルフェイスのヘルメットを被されて、バイザーが上がり本人確認が出来た。
「大丈夫か。変な事されてないか」
そこへ、影村会長が割って入った。
「マロウちゃんは、ちゃんと客人扱いしているよ。今の内は…な」
「拘束もされて無ければ、部屋も与えてもらっている。食事もアイスも出て来た、問題無い」
「聞いての通りだ」
南川は、マロウの側に立ち。マロウの言葉を、さえぎる。
獣人だから、この場から逃げるのは容易いと思うが、彼女にとってここは異世界だ。
顔や体を見せて、逃げるのは不利だ。
せめて、夜の闇夜に隠れて逃げるチャンスが欲しいし。
土地勘もないはずだ、右も左も分からない世界で、静岡の田舎に辿り着けないだろう。
困った。ピンチ。
「1つ聞きたい。お前が着てから、マロウちゃんと、会話が出来た。お前何をした」
影村会長は、マロウを見て驚いている。
「サッサと答えんか。オヤジが質問しているんだぞ」
南川の声で、周りのヤクザが上着のボタンを外し、威嚇を始めた。
「何方か、信用できる方はおられますか」
直孝は、『無益の書』を懐から出した。
漫画や映画でやるのを何度か見ている。
実弾や刃物を止める為に、雑誌を懐に入れてガードするみたいな事を、実際に『無益の書』でしようとしていた。
「これは、『無益の書』と言いまして。翻訳機です。半径約200mなら、どんな言語も翻訳できます。現にマロウと会話ができています」
「おい。誰か、町内一周して来い」
南川が、周りのヤクザに指示を出した。
「はい、行ってきます」
一番門の近くにいた男が、何も持たずに走った。
影村会長は、南川を睨みつけ。
南川も、額から汗を流して。もう一度指示を出した。
『影村会長は、稼げない組員を一手に扱っている』
「そこの北条さんが持っている、『無益の書』を丁重に抱えて、200m以上離れて戻ってこい」
「ぁ゙、それか」
「な、何やってんだ、あいつは」
「わ、分かっていましたけど」
皆、分かってました。みたいな顔をして、1人が『無益の書』を受け取り。懐に入れて走った。
直線で200mだから、住宅街で1分ほどで、会話が途切れた。
これで、『無益の書』の立証ができ。
『無益の書』は、数億円の価値がある事が、立証された。
いや、年間一億で貸し出しできるかもしれない。
世界平和に、使うも良いが。考古学にも使える。
ビジネスにおいても、話が合えば発展するだろうし。逆に崩れるかもしれない。
国連、首相官邸、国同士の契約に置いては、必須のアイテムだが。
僕は、ビール6缶で買えてしまう。
そこが、異世界の金銭感覚がバグる所なんだよ。
今のように、獣人やエルフだけでなく、ツーバルさん達とも話せなくなるから、予備は持っている。
いや、ビール欲しさに、異世界の商人が置いて行くのが現状で。
異世界の家には、37冊の『無益の書』が、保管されている。
「すみません。マロウをどのように扱う予定ですか」
マロウと、会話が出来なくなり。重たい空気が流れて。
マロウを、どうすんのか訪ねた。
「奉る」
求めていない答えが返ってきた。
更に、着物の袖から腕を抜き、上半身を裸にして。影村会長は、背中の烏天狗を披露した。
なるほどね。奉る訳ね。
マロウほど可愛くないが、烏天狗が彫られている。
「いや~。私の口は鳥さんじゃない。お面のように、赤くも無いし、あんなデカい鼻もない」
今は、山伏の格好をしていないが。
異世界では、山伏の格好をしていて、錫杖と兜巾は、自由に出し入れ出来るらしい。
背中の黒い羽根は、出し入れ出来ずに、少し膨らんでいて、鳥のように飛ぶことも可能だが。
『カラスの割に、方向音痴です』
パムサが言っていたっけ。
「それだけの為に、誘拐したのですか」
僕の言葉に、疑問を持った影村会長は、部下を怒鳴りつけた。
「何、誘拐してきたのか」
影村会長は、杖を両手で持ち、曲げようとしている。
「オヤジ、仕込み入ってますので危険です。預からせて下さい」
『フン』
南川が、影村会長から、強引に杖を奪い取った。
「丁重に、扱えと言ったはずだが」
南川が、オヤジの怒りを代弁した。
「しかし、ですね~。なかなか家から出てこないんですよ」
「出てくる時は、置き配の荷物を家に入れる時だけで。ゴミ出しもしませんでした」
「最初は、丁寧にチャイムを鳴らしたのですが。出て来ないもので、つい…」
2人で、張り込みをしていた奴らが、言い訳を始めた。
「つい、何だ。何をした」
影村会長は、倒れて。
南川は、仕込みを抜き放った。
二人組の背の高い方が、スタンガンを高々と上げて。
身長の低い小太りは、土下座をした。
「違います。あっし等は、『マロウを引っ張って来い』って、言われただけです。本当です、頭」
土下座している奴が、言い訳をした。
「誰に、言われた」
伝言ゲームのように、数人が指を差され。最後に南川が指された。
「お前ら、簡単な伝言ゲームも、できねぇ〜のか」
40人の兵隊が一斉に土下座をした。
「誰に対して、頭を下げているんだ。マロウ嬢に対して、深く謝罪して。エンコ詰めろ」
皆、小指を失っていて。中には、薬指が無いものもいる。
「それは、辞めてください。指を貰っても、約にはたちません。僕やマロウが、逆恨みされても困りますから。勘弁してください。お願いします」
マロウは、何かの儀式が始まると思って、興味を示していた。
「お互いに、誤解が有ったのかもしれませんが、不問と言う訳には行きませんか」
「宜しいんですか。この馬鹿たちを、許して下さるのですか」
南川が、即聞き返した。
「おう。お前ら、北条さんに感謝を伝えろ」
南川さんは、許して貰えるのを、見越しての発言だった。
そこから、『リアル過ぎる』は、復活して。
お祖父ちゃんの家に、24時間駐在の用心棒が居座った。
影村会長と南川さんは、異世界に別荘を構えて。
月1で、獣人たちとハーレムパーティをして、異世界にお金を落としている。
読んでいただき有難うございます。
あらすじが変わらないように努めます。
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