1 お姫様は日なたがお好き①
団地の屋上に通じる鉄扉は、ぎいい、といやにきしんで開いた。
「あのう……ど、どなたか……いらっしゃい……ますか?」
一メートル先ではもう聞き取れないにちがいない、あきれるほど弱気な小声とともに、小柄で色白な少女が、おっかなびっくり外をのぞく。
左右にわけて丁寧に編み、輪にまとめた巻き毛が揺れた。大ぶりな眼鏡の向こうで、大きな瞳がなお大きく、たよりなげにまたたく。セーラー服姿で鞄を持っているのは学校を早退して来たからだが、そうでなくても彼女を見て、警察庁零課課員だと思う者はまずいないだろう。
本人だって全然、そんな気分ではなかった。
メイ、こと神納五月。
数ヶ月前、ある事件に巻きこまれるまで、メイは自分に霊力があることさえ知らなかった。
もちろんオバケや妖怪など見たこともなかったし、自他ともに認める内気で臆病な運動音痴──ときては、普通の警察官はもちろん妖怪専門の警察官など、どう考えても荷が重すぎる。
(でも……でも、なっちゃったんだから、が、がんばらなくっちゃ……)
メイはどきどきする胸に鞄を抱きしめ、日当たりのいい屋上へすべり出る。
最近この団地は、某社が定期発行する都内怪奇名所マップの、トップにランクインした。
昼間から天井裏で赤ん坊が泣く声がし、子どもの足音がにぎやかに走り回るのだという。さらに食器棚から皿が飛びだし、女の生首が空を飛び、テレビがひとりでについたり消えたり、と現象は多種多様。民間霊能者のお祓いも通じず、ついに零課に通報が来たのだった。
──「ポルターガイストですね。ええ、妖怪の遊びに、敏感な人たちが気づいてしまったのが原因です。妖怪にさえ気づかなければ電柱が倒れたって、ただの事故ですむんですけどね。集団の一割が〈見る〉と全体が見始めるから騒ぎになる……よくあるんですよ。関与妖怪レベルはEマイナス。危険度G、最低ラインです。ご安心ください、すぐ対処します」
零課の通報処理係は市松人形が大人になったような、黒髪に切れ長な目の和風美人だ。
古風な見かけによらずヘビースモーカーで、ずば抜けた千里眼の持ち主でもある。
メールで送られて来た不鮮明な写真をちらっと見ただけで、現場の住所からおもな事件の発生日時まですらすらとファイルに打ちこみ、
──「ハイ、新人さん、明日中に退去勧告に行って」
当然のように、たまたま研修レポートを出しに来ていたメイに、仕事をふった。
メイは仰天した。
夏休みいっぱいかかってやっと、研修をクリアしたばかりである。
肩書きは確かに、正課員になった。けれど実地研修も、農家と兼業だという年輩の非常勤課員の後ろであわあわうろうろ、迷惑ばかりかけているうちに終わってしまった。
自慢ではないが、ひとりではなんにもできない自信がある。
差し出された事件ファイルから思わず後ずさりするメイに、千里眼女性は怖い顔をした。
──「あんたねえ! AどころかSを五つつけても足りない超弩級の守護神がついてるくせに、ポルターガイストが怖い? バカやってないで、さっさと片づけてらっしゃい!」
(だって……だってスサノオったら、現場に出る時にかぎっていなくなっちゃうんだもの)
心細さのあまり涙ぐみながら、メイはありったけの勇気を奮い起こしてもう一度口を開く。
「あの! ど、どなたかいらっしゃいませんかあ?」
かろうじて、さっきよりは大きい声が出た。
しかし明るい屋上はがらんと静まりかえったまま、なんの反応もない。
ほんとうになにもいないのか、隠れているだけなのか、メイには見当もつかなかった。
(だ……大丈夫! 集団住宅からの退去勧告は、屋上で規定のセリフを言うだけでいいんだから……強制排除とかする必要はないし、いざとなったら……逃げればいいわ!)
情けない理屈でなんとか自分を落ちつかせ、思いっきり息を吸いこむ。
「わたしは、あの……ぜ……零課から……その……来ました神納です」
意気ごみのわりに弱々しく名乗った。それだけでもう、緊張のあまりくらくらしてくる。
「すみません、あの、た、退去勧告なんですけど、第二種……あ……一種……だったかも?」
暗記してきた勧告内容をど忘れし、メイはあわてて学生鞄の中のメモを探した。
研修で「周囲への警戒がおろそかになるので、現場では各種行政勧告、祭文、祈祷文、なんであれ、決して書面は見ないこと」と習ったことなどもう念頭にない。
「あっ……!」
焦りすぎて手がすべり、鞄を取り落としてしまった。
ぶちまけられた中味をひろおうとしゃがむ間もなく、吹きつけた風が紙類をさらう。
「!」
レポート用紙やレシートに混じって休み明け実力テストの答案が飛んでいくのが目に入り、メイは息をのんだ。
もともと成績はいい方ではない。なのに今回は夏休みじゅう零課の研修にかかりきりで、試験勉強どころか宿題もまともにできなかった。おかげで──
百点満点でひとケタしか点数がついていない悲惨な答案が、二枚もある。
(や……やだっ、屋上から落ちて誰かにひろわれたりしたら……!)
恥ずかしさのあまり耳たぶまで赤くなり、メイはひらひら舞う答案を必死で追った。
ここに来た目的など思い出す余裕もなく、転びそうになりながら一番遠くまで飛んだ一枚をつかまえ、二枚めをフェンスのすき間をすり抜ける寸前で危うく握りしめる。続いて、物干し台にひっかかってはためいている三枚めを拾おうとふりかえったとたん、
「!?」
なにか見えないものに激突し、目から火花が散った。
「いっ……たぁ!」
しりもちをつき、ぶつけた額に手をやりかけてやっと、目の前のそれに気づく。
ミントの溶けかけアイスクリームの山──にしか見えない不気味な肉塊が、メイと向かい合わせにしりもちをついていた。のっぺり大きい身体とは不釣り合いに小さく可愛い手で、痛そうに自分の額……のあたりを押さえている。
化け物はしゅうしゅうと、硫黄くさいため息をついた。
肉ひだになかば埋まったオレンジ色に光るひとつ目で、恨めしげにメイを見やる。
メイと、目と目が合った。
肉塊の化け物は、まだちゃんと姿を隠しているつもりだったらしい。
零課課員に発見されてしまったショックで目をまん丸に見開き、たちまちぶくぶくと黄色い湯気をあげて泡立ち始める。
「きゃ────っ!!」
メイと肉塊の化け物はほぼ同時に、仲良く恐怖の悲鳴をあげた。
◆
「クソっ、苦い!」
団地入り口に植えられた樹の茂みの中で、少年の声が低くうなった。
屋上の方から遠く、断続的に聞こえてくるメイの悲鳴に、不快そうに舌打ちする。
「あの筋金入りの腰抜けめ! ザコ相手にいちいち死ぬほどびくつきやがって……こんなに離れてててもまだ苦いじゃねえか……!」
「尊、メイさん、手伝ってあげた方がええんじゃありませんかのう」
砂利を揺するようながらがら声で答えたのは、樹上にどっしり腰をすえた大きな鬼だった。
朱色のいかつい顔に大きな角を二本生やしており、それで鬼だとわかる。
しかし腕の長い大きな身体は枯れ草色のふさふさした毛に覆われ、猿のよう。長い牙が上下ぶっちがいにはみ出した大きな口も、怖いというよりむしろ、愛嬌があった。
名を、しんらという。
数ヶ月前から成り行きでメイとその守護神に同行している鬼は、類人猿似の足をそわそわと器用に握ったり開いたりしながら、心配そうに続ける。
「そのう、お気を悪くせんでください。メイさんはそりゃあ、零課にスカウトされるほどのお方じゃけえ、そんなに弱いっちゅうこたァあるまいが……おひとりじゃ万一……」
「それがどうした! てめえまで俺のそばで、ぐちゃぐちゃ不安がるんじゃねえ!」
「あ」
鬼がバカ正直に、しまった、という表情を浮かべるより早く、どんっ、と重い打撃音がした。
姿なき相手に横面をしたたか殴られ、鬼の重そうな身体が空高く吹っ飛ぶ。
空中で何回転かしてようやく踏みとどまると、鬼は立派な牙が一本欠けてしまった口もとを泣きそうな顔で押さえながら、見えない相手にぺこぺこ謝り出した。
「す、すんませんすんません、かんべんしてください。ワシゃどうもメイさん見てると……」
「謝るな、うっとうしい! 手伝いに行きたきゃ勝手に行きゃあいいだろう!」
投げやりな許可に、猿似の鬼はぱっと顔を輝かせた。
茂みにひそむ相手に神妙に一礼し、いそいそと宙を踏んで団地の屋上へ駆けあがっていく。
「けっ、おせっかいな鬼め! てめえが甘やかすから、あのバカが進歩しやがらねえんだ」
口汚く不平を鳴らす声のあたりで、木の葉が乱暴にはじかれて散った。
よく見るとその下の葉にちんまりと、一寸法師サイズの少年が寝そべっている。
極北の月よりつめたい銀の目が、剣呑な光をはらんで午後の空をにらんだ。磨いた鉄を思わせる暗色の肌の上で、白銀の長い髪が風にそよいでいる。黒っぽいズボンに裸足、裸の肩に大きなぼろ布を巻きつけて、その野獣めいて精悍な体つきには戦士の風格があった。
とはいえ、なんといっても人のてのひらに載る小ささだ。
こんなに小さな存在が大きな鬼を殴り飛ばせるとは、にわかには信じがたい。
「……見ィ、鬼は行った。尊ひとりになったぞ」
少し離れた駐輪場の陰で、ぱちり、と赤く光る目を開いた化け物も、そう思ったらしい。
「しかしなんと小さい……弱そうじゃ。まっことあれが素戔嗚尊か?」
もっともな感想に、ひしめきあってひそむ仲間が、気配を押し殺してざわめく。
「なんでも零課の課長に封印をかけられ、縮身されてしもうたらしいが……」
「こうして見てもまだ信じられん! あの鉄の名を持つ戦神……」
「五大陸に敵なしと謳われた暗黒神がなあ!」
「恐るべきは大谷野」
「いやいや、さしもの暗黒神も、あまりに飢えておったので力が出なんだらしいぞ」
「ほほう、で、いまだに小さいままということは、まだ力は戻っておらんのだな」
「だな。それならわしらでも殺せるな」
「殺せるな。大神の霊玉が食える……!」
力ある神のみが体内に宿し、死後に残す命の核──霊玉に話題がおよんだとたん、闇にひそむ化け物たちは興奮のあまり次々に、青や赤に光る目を開いた。ゆるんだ乱杭歯の間から蛍光色のよだれがしたたって、じゅっ、とアスファルトに穴をうがつ。
「素戔嗚尊の霊玉は、食ろうた者を不死にすると聞いておるが……」
「なんの、もう単なるうわさではないぞ。どこぞの龍が、まっこと不死になったそうな」
「われらも食いたい」
「食いたいな」
「そう思うんならとっととかかってこい、グズどもめ」
不意に、木の葉の上に寝そべる小さな破壊神が、めんどうくさそうに口をはさんだ。
ぎょっと口をつぐむ妖怪たちの方を見もせず、さも退屈そうに大あくびをする。そのまま頭の後ろで両手を組み、昼寝の体勢でぬくぬくと目を閉じてしまった。
「あのおせっかいなバカ鬼が戻ってきちまうだろ、そら、早くしろ」
その、心底バカにしきった口ぶりと態度に、妖怪たちの気配が憤りにふくれあがる。
高まる殺気に午後の陽射しがふと陰った。
瞬間。
駐輪場の陰から、胴に顔のついた首なしの鎧武者、丸々と太った手にばかでかい斧をひっさげた腹掛け姿の不気味な赤子、そして無数の鬼火が、爆発せんばかりの勢いで飛びだした。
首なしの鎧武者のふりあげた軍刀が陽光を反射してぎらつき、乱れ飛ぶ鬼火はそれぞれ人や獣に似た醜い顔に牙をむいて、飢狼の群れのように小さな獲物に殺到する。
腹掛け姿の妖童が、一歩仲間を先んじて飛んだ。にたりと、幼い口もとに生えそろったサメそっくりの鋭い歯並びをのぞかせ、風を割る勢いで大斧をふりおろす。
その時、なにかがきらっと目を射るまぶしさでひらめき──
「!?」
妖童は、斧を持つ自分の腕が、ひじのあたりで切断され頭上を飛んでいくのに気づいてあっと細い目をみはった。同時に、その首が後ろへずれる。
斬られたと理解する間もなく絶命し、血煙を噴き上げる妖童を置き去りに、血気にはやる残りの連中は、そのまま突っこんだ。が、その目の前に、
「よしよし、いい気合いだ。死ね」
いっそ明るく響くほど無慈悲なセリフとともに、小さな破壊神がすでに飛んでいる。その筋肉質の腕から、つめたい白銀に輝く三日月のような刃が伸びているのを、きちんと見届けられた者はいなかった。
刹那、銀の光が矢継ぎ早に陽光を断ち、
「!!」
首なしの鎧武者はとっさにその光を刀で受け止めようとした。が、たよりの刀が豆腐のようにあっさり三つに分断されたのに驚くより早く、本体もまた三つに斬り刻まれてのけぞる。
そのまわりで、余波を浴びただけの鬼火も身体を割られて吹き飛んだ。
飛び散った肉片と血しぶきが近くの茂みをたたき、ざあっとにわか雨のような音を立てる。
妖怪たちの死骸は見る間に黒い塵となって崩れ、破壊神の輝く刃に吸いこまれた。
刃は塵をのみほすと、生き物の触手のようにやわらかく縮んで体内に消える。
「味はまあまあだが……なんて食いでのねえ連中だ」
自分の体積の何千倍もの塵を吸収しておきながら、小さな破壊神はなにも食べた気がしないらしかった。不満げな顔で空中をてくてく歩き、日当たりのいい木の葉の上に戻る。
「やっぱりあの眼鏡野郎でも食うかな」
ごろりともとどおり寝そべりながらつぶやいたのは、零課の大谷野課長のことである。
初手合わせに敗れて縮身されたからといって、破壊神は大矢野課長を恐れてなどいなかった。現にずいぶん前から、かけられた封印術ぐらいいつでも破れる状態にある。
にもかかわらずあえて小さいままでいるのは力を節約できて楽なのと、たった今食われてくれたバカのように、弱いと勘違いして襲ってくれる獲物に事欠かないからだった。
というのも──
古来、鉄とも戦とも大いなる闇とも呼ばれて来た無敵の破壊神には、闘志を持って向かってくる者しか食うことができない、という、ある意味、致命的な弱点があった。
破壊神が強ければ強いほど、獲物は当然恐れおののく。しかし恐怖と絶望、そして悲しみは、破壊神には決して吸収できない毒なのだ。つまり、その恐るべき力を知られた時点で破壊神のまわりから、狩って食うことのできる獲物はいなくなってしまう理屈である。
そんなわけでもう忘れるほど長い間、ずっと飢えていた。最近、ついに餓死寸前まで行ったが──結果的には、零課の課長に封印されたおかげで生きのびたのであった。
その点は、破壊神もちゃんと理解している。
しかし夜叉神の心に、人並みの「感謝」とか「恩に着る」とかいう概念は存在しなかった。
零課課長の能力は、一度の立ち会いですでに見切っている。滅ぼせる時に滅ぼさなかった礼に、今度会ったら必ず斬ってやる──と手ぐすねひいて待ち受けているのだからたちが悪い。
とはいえ相手もさるもの。
大矢野課長はあれ以来一度も、破壊神の近くに姿をあらわしていなかった。
「……ちっ」
鬼が手伝いに行ったはずなのに、また団地の屋上からメイのか細い悲鳴があがるのを聞いて、小さな破壊神は猛々しく顔をしかめる。
メイの恐怖と不安が苦くて、どうにもかなわなかった。
生き霊状態のメイが身体に戻るのを助けたのは、あくまで消滅を防ぎ、その強い霊力を狩って食うためだ。身体に戻れば必ず自分と戦う、という言あげもちゃんとさせた。
ところが身体に戻してみるとあまりに弱く、霊力を発揮するどころか闘志をたもつ気力もない。それで、破壊神との約束を果たすため、零課に入って心身を鍛える、と決めたメイが、せめて正気で向かってこられる強さに育つまで、番をしてやることにしたのだが……。
(毎度毎度、どうでもいいザコども相手に、なんだってあそこまでおびえやがんだ!?)
もう生き霊ではなく、明日消える心配もない。五体満足でちゃんと動く身体に入っているくせに、生き霊だった時よりさらに、救いがたいほど臆病になって見える。
「…………」
あれがほんとうに、あとしばらくで食べられる強さにまで育つのだろうか。
うーん、と真顔で考えこみかけた時、
「あら、そこにいらっしゃるのは、もしかしてハディード様ではありません?」
ハスキーな少女の声に古い名を呼ばれ、破壊神はうるさそうに木の下に目をやった。
ヒマワリ模様の派手なサンドレスを着た、ひょろっと骨っぽい体つきの少女が、つば広の麦わら帽をかぶった頭を傾け、興味津々でこちらを見あげている。
日本人ではなかった。
陽射しにすがめられた瞳は明るい若草色。顔だちは端正だがそばかすだらけで、ニンジン色のおさげは左右とも船をつなぐ綱並みに太く、膝に届きそうに長々と垂れている。
やけに人間くさいヤツ、と怪しむ破壊神の視線を無視し、少女は明るく手を打った。
「あ、そうそう! この国ではスサノオノミコトと呼ばれておいでだってうかがったのに、すっかり忘れてましたわ! だって、ふふっ、とっても覚えにくいお名前なんですもの」
人さし指をくちびるに添え、麦わら帽のひさし越しに、不敵な上目遣いでほほ笑む。
「それに、昔語りで聞くよりずいぶんとおとなしい方ですこと。縮身なさっているのを差し引いても……それほどお強いようには見えませんわ」
大胆にも、私なら勝てます、と言わんばかりに優雅に、薄い胸に手をあてて見せた。
そのとたん少女の、日なたの香りのしそうなくつろいだ立ち姿から濃密な闇色の霊気がたちのぼり、時ならぬ夜風が巻き起こってざざ、と木々の梢をなでる。
「!」
強い。
確かに縮身したままでは負けるかもしれない──と評価して、破壊神の銀の双眸はたちまち獰猛な歓喜に燃えあがった。
すでに間合いに入られている以上、封印を破ってもとに戻るひまはない。
勝率は五分……一番楽しい頃合いだ。
少女の手にいつの間にか、黄金の柄に宝石をちりばめた細剣が出現しているのを見、暴虐の神は食欲にとろけそうな笑みを浮かべた。寝そべったまま、さらに敵をけしかけにかかる。
「くくっ、そのきんきらのオモチャでなにができるんだ、チャンバラごっこか」
「ま! 失礼な。オモチャかどうか、ためしてごらんになりまして?」
自慢の武器をくさされて、そばかすの少女の瞳に誇り高い殺気が宿ったが、その時、
「殿下! こ、ここにおいででしたかっ!」
男の声が割りこんだせいで衝突は不発に終わった。がっかりした顔をする破壊神をよそに、
「お……お探ししました!」
「おひとりで先に行ってしまわれては、我らの立場がないではありませんか!」
血相を変えて団地の敷地に駆けこんできたのは、重量級の大男ふたりだった。
ひとりは茶、ひとりは金の髪を海兵隊ふうに刈りこみ、スーツだけでなくネクタイも黒。そろいの黒のサングラスをかけており、いかにも要人警護のボディーガードだ。
が、殿下と呼ばれた少女は、見あげるような体格で迫るふたりを、うるさそうに制した。
「おまえたちが車を停めるのにあまり手間取るから、先に来ただけです。それになんなの? うかうかと妙なお客を案内して来たりして。恥ずかしいとお思いなさい」
「は?」
とっさになにを言われたかわからない大男ふたりのまわりで、瞬間、淡い金色の光が、妖精の群れが乱れ飛んだかのような無数の、華麗な軌跡を描き──
ちん、と涼しい音を立てて、そばかす少女の手もとで細剣がさやに戻った。
そのとたん、大男たちの背後で、風景に無数の亀裂が走る。
「!!」
1 お姫様は日なたがお好き②へ続く
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