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【第一章完結】名もなき森の後砦   作者: フリィ
プロローグ 不完全な名前
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006 侮蔑と憐憫

「なっ、何!?」


少女の口から発せられた言葉に、その場にいた者たち全員が驚愕し、固まった。


「それは本当か!?」


「ほんとですっ!信じてください…!」


「ひ、ひとまず行きましょう!」


「ああ、そうだな… 君、案内できるか?」


「グスッ… はいっ… できます!」


その場にいた騎士たちは大慌てで装備を整え、少女を連れ、宿場を飛び出して行った。


──ナイフを刺された男はなんとか狭い路地裏に逃げ込み、物置の隅で息を潜めていた。未だ自分を探す、少女の主人の怒号が遠くから聞こえてくる。ひとたび見つかってしまえば、何も抵抗できないのは明らかだった。遠くから聞こえる声が、時折すぐ側から聞こえてくる気がしてくる。既に、意識は朦朧とし始めていた。


「ハハ… お前、こんなとこにいやがったか。」

突然、上の方から声が響いた。先程まで叫んでいたのにも関わらず、かなり冷静そうだった。その手には、男の脇腹に刺さっているのとまったく同じナイフが握られていた。


「随分と探したぞ。さあ、奴を返せ。」


「あの子は… 逃した。とにかく遠くへ逃げるようにとな… もう会えんだろう。」


「フッ、見え透いた嘘だ。お前の横の物置、その中にいるんだろ?」


「さあ…」


「…まあいい。死ね!」


「ダメッ…!!」

再び声が響く。しかしそれは、とてつもない恐怖と僅かばかりの勇気が混じった、掠れた叫びだった。


「ああ… そこにいたか。なんだ?戻る気になったか?」


「お前か!武器を手放せ!」

少女の後ろから二人の騎士が姿を現す。


「チッ… なんで…」


騎士たちは少女の主人へ徐々に詰め寄る。男は後退り、路地の反対側から逃げようとした。しかし、もう片方の出口を、回り込んだ騎士が塞ぐ。


「武器を手放せ!」


「ハハッ… ハァ… 奴隷ごときが…」

主人はだらんと腕を降ろす。それを見て、騎士たちは短剣をしまいかけた。しかし、次の瞬間…


「役に立たねぇんだよ!!!」

主人は振りかぶり、ナイフを少女めがけて投げようとする。


「だめだっ!!!」

男は、今まさにナイフを投げようとした腕に飛びかかった。そして… 腕の勢いそのままに、ナイフは男の肩に深く刺さった。


「ああっ…!!あああ!!!」


「う、動くなっ!!」


騎士たちは一斉に、少女の主人に飛び掛かる。その男は抵抗することなく、二人の騎士に連れて行かれた。残った若い騎士と少女は、ナイフを二度も刺された男に近寄る。


「大丈夫ですかっ!?」


「うぅっ… グスッ… ごめ、なさい… ごめんなさいっ…!」


男はもう立てそうになかった。どこにも力が入らない。力を入れようとする度に、鋭い痛みが、刺された場所から全身に広がる。


「これは… ウッ、毒だ… 力が、入らない…」


「喋らないで!さあ、背負います!近くの医者に!」


「こんな時間… 医者だって寝ているさ…」


「でも…!とりあえず行きますよ!」


「私なんかより… そこの、幼い子を… 保護してやってくれ… 頼む…」


騎士は少女に目をやる。その場にうずくまり、両手で顔を覆い、「ごめんなさい」と繰り返し口にしている。


「わ、分かりました…」

騎士は少女に近寄る。しかし、少女は突如立ち上がり、横たわった男の元へ走って近づいた。


「ダメですっ…!わたしなんかを助けたせいで死ぬなんて、絶対ダメッ…!お願い… 生きてくださいっ…!」


「ハハ… そんなことを、フゥ… 言うんじゃない。」


「でも… でもっ…!」

少女は男の手を握ったまま、騎士がどれほど声をかけようと離れようとしなかった。


「ハァ… 分かったよ。すまない。もう少し、頑張ってくれるかい…?」


「あっ… ああ… 頑張りますっ…!どこへ… お連れすれば、いいのですかっ…!」


「近くの… 孤児院だ… そこにいる、医者は… 少なくとも私に、恩があるはずだ…」


それを聞いた少女と騎士は、協力して男を支え、孤児院に連れていった。


──「ウッドワードの砦」


その孤児院は小さな町の少し外れにあり、木々に囲まれ、静まり返っていた。夜遅くまで仕事をしていたらしい院長は、男が運び込まれてくるのを見てすぐに駆け寄ってきた。


「これは…!旦那様!何があったのです!?大丈夫ですか!」


「すまない… 夜遅くに、迷惑をかける… オルフェを、呼んでくれないか…」


「承知しました…!」


しばらくして、オルフェという孤児院で住み込みで働いている医者は、すぐに男の手当てをした。寝起きにも関わらず、男を見るなり血相を変え、すぐさま手当てに取り組んでくれたのだった。

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