001 空腹と苦痛
「んん… あっ、あるじ、様… ど、どうでしょう、か?」
少女は全身を小刻みに震わせながら腕を伸ばし、バケツを差し出す。錆びたバケツの中には僅かばかりの、牛のミルクが揺れている。少女は目だけを動かし、目の前の主人の様子を伺う。
「…お前、ふざけてるのか?明らかに昨日より少ない!昨日は、一昨日よりも少なかっただろう!見てわかるだろうがっ!!」
バケツを受け取った男は、中身を見るなり声を荒げ、少女の腹を目がけて蹴り上げる。
「がはぁっ…!うぅ… はぁ… はぁ…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
少女は腹を抱えてうずくまり、呼吸を整えるよりも先に何度も謝罪の言葉を口にする。この後にされることは、少女には分かりきっていた。しかしそれは到底、受け入れられるものではなかった。ただひたすらに、祈るように謝り続ける。
「ごめんなさい!ごめんなさい… ごめ… グスッ… なさい… ああ…!」
男は身につけていた革のベルトを外し、見せつけるように垂れ下げる。
「お願いしますっ…!痛いのは… 痛いのは、やめてください!働き、ますからっ…!ずっとずっと、一生懸命、働きますからぁっ!痛いのだけは… イヤなのです…!許してください…!ごめんなさい…!ごめんなさいっ…!」
「バチッ!!」
鋭い音が空を切り、少女の背中に襲いかかる。
「ああああっ!!ああぁ… うぅ… グスッ… ううぅ…」
狭く薄暗い牛舎に、鋭い音と少女の呻く声が交互に響く。少女は体を震わせながら頭を抱え、ただ時間が過ぎ去るのを待つしかなかった。
──夕暮れが迫り、牛舎に薄暗い影が忍び込む。少女は昼間の暴行の痛みと恐怖に震えながら、わずかに残った藁の上で丸まり、たった一つ与えられた、土まみれの小さな芋を噛み砕いていた。
「お~い、君、大丈夫かい?」
不意に、背後の窓から主人とは違う男の声が聞こえた。少女はビクッとしながらも声の主の方に目を向ける。
「えぇ?だっ、誰、ですか?」
「ああ、この近くに住んでいるんだが… 昼間、女の子が泣いているような声がずっとしていたからね。今更なんだが… 心配になって見に来たんだ。大丈夫か?」
目の前の男は、ただ純粋に自分を心配してくれているように思えた。しかし同時に、どこか冷たいものを感じた。ただ、今の自分に、選択肢など残されていなかった。
今の主人に奴隷市場で買われ、この牛舎で働くように命じられて以来、ほぼ毎日が、振り下ろされる鞭の音と痛みに怯える日々だった。食事も酷いものだった。生の芋を与えられる日はまだ良い方で、何も口にしないまま1日を過ごすこともあった。喉の渇きと空腹が限界になった時、少女は絞った牛のミルクをそのまま飲み、藁を食べて凌いだ。その結果、ミルクの量が少ないと言われ、鞭打ちされ、食事を抜かれるという負のスパイラルに陥っていた。少女は震えながら両手を伸ばす。
「助けて… ください…。どうか… お願い、します…」