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【コミカライズ決定】夫に顧みられない伯爵夫人は、夫の本性を知らない。 〜え? ただのコミュ障でしたの!?〜

掲載日:2024/06/03




「クライド様、息子でしたよ!」

「…………ん」


 待望の子どもが産まれたときの夫の言葉。それは『ん』だけ。そして、足早に部屋から出て行く始末。

 

 ――――あぁ、イライラする。




 相手から望まれて婚約し、結婚しました。


 とある夜会で五歳年上の王城騎士でもある伯爵様に見初められて、婚約の申し込み。

 交際期間は半年。

 なかなか子どもに恵まれず悩む妻を、寡黙な夫は責めることもなく、「気にしなくていい」と返す。

 結婚三年目にして待望の男児を出産。

 

 傍から見れば、順風満帆で幸せな家庭なのでしょう。


「ケッ」

「おおお奥様っ」

「なによ?」

「きっとご主人様なりのお考えが――――」

「唐変木にそんな考えとか、ないでしょ」


 そもそも普通は、必死こいて出産を終えた妻に一言くらい声かけるでしょ? 『頑張ったな』とか、『疲れただろう』とか。

 友達のところはそうだったらしいわよ!?

 キラキラ頭でキラキラ瞳の美丈夫のくせに、ずっと黙ってむっすり顔の唐変木は、『ん』しか言わない。

 何か話し掛けても『ん』!

 子どもの誕生にまで『ん』で返してきたら、離婚してやろうと考えていたら、案の定『ん』!


「イザベル様、離婚の理由がそれは…………ちょっと」

「わかっているわよ。貴族がそう簡単に離婚できないのも、傍から見ればあの人に非がないのも」


 ただ、寡黙なだけ。

 ただ、無表情なだけ。

 ただ、素っ気ないだけ。

 ただ、不必要に触れてこないだけ。

 ただ、側にいるだけ。


 執事や侍女たちに止められて、この時はグッと我慢しました。




 子どもが産まれて半年。

 クライド様は相変わらずというか、ただ黙ってじっとりとこっちを見てくるだけ。正直、気持ち悪い。


「あぁぁぁぁぁ! もぉ! イライラする!」

「おおぉ落ち着かれてくださぃぃぃ」

「いやよっ!」


 一緒にいた乳母に息子を預け、子ども部屋の隅に佇んていたクライド様の前まで行きました。

 彼の前で仁王立ちになり、腹の底から声を出し、本心をぶちまけました。


「離婚してっ!」

「…………え……」

「ずっと黙って見られているの、気持ち悪いです! 話しかけてもほぼ無視。普段は食事のときしか顔を合わせられない。なのに食事中の会話もない。お休みの日は同室にいてもほぼ別行動。たまに近くに来たと思ったら、部屋の隅にいるだけ! 夜はこちらから言わないと来ない。こんなにも顧みられない妻が、どこにいますか!? ここにいますけどね!? 私、なんのためにいるんですかね? 愛されてませんよね? 貴族の結婚に愛など期待するな? でも、貴方が求婚してきたじゃないですか! 結婚式で愛を誓ったじゃないですか! 愛っ…………あ……い…………されてないのなら……もうここにいたくない……もういやよ…………」


 感情が昂り、爆発して、泣いて、鼻をすすって。

 二十三歳にもなって、子どももいる母親なのに、恥ずかしい。でも、私の心はもう限界でした――――。




 □□□□□




「クライド様、おはようございます」

「ん」


 おはよう、今日も綺麗だよ――そう言えたらどんなにいいか。


「クライド様、おやすみなさい」

「ん」


 イザベル、よかったら今夜――そう誘えたら、どんなにいいか。




 見た目が少しよかったせいで、幼い頃からちやほやとされていた。ベタベタと体中を触られていた。にこにこして近づいてこられては、誘拐されていた。


 いつしか、他人が怖くなった。

 いつしか、人と話すのが億劫になった。

 いつしか、何を話せばいいのかもわからなくなった。

 

 とにかく強くなって、自分自身はもちろん、弱い立場の人々を守りたい、そんな思いから騎士になった。


 そうして数年が経ったある日のことだった――――。


 警備をしていた王城での夜会で彼女を見かけた。

 根元は赤いのに毛先に行くほど金色になっていく不思議な髪色をした彼女。人々は陰で気持ち悪いなどと言っていたが、彼女は気にする素振りもなく、笑顔で友人たちと話していた。

 

 酔った男が、彼女にニタニタと笑いながら近寄っていった。そうして言った言葉は、「どうやって染めているんだ? そうやって奇抜な格好とその乳で男を誘ってるんだろう?」という最低なもの。

 少し前に見かけたとき、ずいぶんと飲んでいるなと思ってはいたが……。

 すぐに捕まえなければと男の後ろに立ったところで、ビシャリ。

 酔いどれの男とともに、顔面と胸元に赤ワインを浴びせられた。


「あら? ワインでも髪は赤く染まりませんでしたね? 私も不思議なんですよね。良い染め粉があれば教えてくださいませね? そうそう、お胸は赤ちゃんのためのものですよ? あぁ、貴方、とても良い年齢ですが、そういうプレイがお好きなんですね? まぁ、特殊性癖とは業が深いですわね。だから毛髪も赤ちゃんに近づいていっているのですね。うふふ…………あ"」


 彼女がたおやかに笑った次の瞬間、目が合った。

 白い騎士服が赤紫に染まっているのを見て焦っているようだったので、人差し指を立て、自身の唇にあてて『何も言わなくて良い』と合図した。

 すると彼女は、先ほどとは違う柔らかな微笑みを零した。そして、『ありがとうございます』と唇を動かした。

 

 それは紛れもなく一目惚れだった。

 見た目は関係ない。

 地位など知らない。

 ただ、強い人だと思った。

 力強く生きている人。

 

 上司に聞くと、すぐに身元は分かった。やはり見た目のせいで有名なのだとか。


「どえらい相手に惚れたな」

「有名なんですか?」

「逆に知らなかったお前が凄いよ」


 同じ伯爵家ではあるものの、歴史も財力も違う遥か上である王族に連なる一族だった。


「宰相閣下のお孫さんですよね?」


 話を聞いていた部下も知っていたようだ。

 それならばもう相手はいるのだろうと思っていたら、婚約者も恋人もいないらしい。彼女の性格ではなかなか厳しいと言われたが良く分からなかった。


「ま、ダメ元で申し込んでみればいいさ」

「はい」


 何がどうなったのか、快諾された。

 様々なことが順調に進んでいき、結婚して、子どもも産まれた。

 

 ――――本当に、幸せだったんだ。

 

「離婚してっ!」

「…………え……」

 

 ――――え?




 ◇◆◇◆◇




 言いたいことの半分くらいは叫んだと思います。袖口で涙を拭い、肩で息をしながら呼吸を整えていました。相変わらず何も言わないクライド様を睨むと、彼がへちょりと床に座り込んでしまいました。


「い……………………嫌だ」

「はぁ? なんでよ!?」


 今更なにを言われても許せそうに――――。


「嫌だ」


 クライド様の蜂蜜のような金色の瞳からボロリと雫がこぼれ落ちてきました。

 透明なそれは、ボタボタと落ち続けています。


 ――――え、泣いてる?

 

「っ…………嫌だ」

「……なんで嫌なんですか」


 つい。つい、聞いてしまいました。

 クライド様がいったい何を考えているのか、知りたくて。


「っ……二人で」


 ヨタヨタと立ち上がったクライド様が、私の手首をガシッと掴むと、子ども部屋から出て廊下を歩き始めました。

 向かっているのは…………え? 主寝室に行くの!?


 ほぼ使うことのない、夫婦の寝室。

 基本的には、各々の部屋で眠っていますので、ほぼ、使うことはないのです。


「えっと、なぜここに?」

「っ……あ…………の………………二人で……話したいから」


 なにやらハクハクと頑張って息をするようにして紡ぎ出されたのは、その言葉。


「はぁ。まぁ、いいですが」

「っ! ん」


 了承の返事をすると、ぱぁぁぁっと春のような笑顔を向けられました。え? この人、こんな顔できるの? と驚いている間に手を引かれて主寝室へと入っていました。

 ソファに座るような雰囲気を出されたので、素直に応じると、クライド様が思いのほかリーチゼロな感じで真横に座ってきました。


「近いんですが?」

「っ……ごめん」

 

 しょんぼりとしながら、五センチほど隙間を空けられたのですが、大差なくないですかね? 五十センチくらい空けてほしかったのですが?


「…………」

「お話しがないのなら、出ていきたいのですが?」

「っ! あ……………………の。ごめん。…………私…………上手く、話せない…………んだ。ごめん」

「はい?」

「その…………言葉が、出ない……………………上手く」

「はい。それで?」


 続きを促すと、ぽつりぽつりと話してくださいました。生い立ちや言葉が出ない理由。


「ずっと…………君と上手に……話したかった」

「気にせず話しかければいいじゃないですか。ちゃんと聞きますよ?」


 話しかけられれば、ちゃんと話は聞きます。どんなにゆっくりでも、拙くても。相手を知るためにも、ちゃんと。


「っ……ん。…………嫌われたくなかった」

「え?」

「…………っ、あ…………すき、だ」


 真っ赤な顔でぽつりとこぼされた『すき』があまりにも可愛くて、脳内はパニックです。


 え、まって、まって、まって! この人ってもしかしてただのコミュ障で、緊張すればするほど話せなくなるタイプ!? 好きな人や異性相手だと特に酷くなるとかいう? このもごもごするのもそれ? ってか、めちゃくちゃ可愛いいんですけど。この人、自分の顔の破壊力ってちゃんと理解してるの!? イケメンだとは思ってたけど、なるほど。ってか、ワインぶちまけたのってこの人だったっけ。まずいわ、日常茶飯事すぎて覚えてない。ってか、ワイン掛けられて惚れたの? え? 頭、大丈夫!?


「イザベル…………ごめん」

「へ?」

「私が…………気持ち悪い男だと……その…………見つめてごめん」

「えっ、あっ…………いえ、見つめてくださってありがとうございます」


 ――――って、なんだその返事は。


 パニックが極まりすぎています。ちょっと深呼吸して落ち着きたいです。


「愛してる」


 うるっとした瞳でこちらを見つめながら、そんなことを言ってくるクライド様。


「ひょっ!? ふぁい!」


 お願いだから、ちょっと落ち着かせて! 追撃は止めて!


「イザベル、離婚したくない」

「はひっ」

「その…………私から誘っても……………………許してくれるのだろうか?」

「え……なにが?」

「誘わないと来ないって…………」

「ぬわっ!? そこピックアップします!? いや、そうですけどっ!」

「イザベル――――」


 ゆっくりと近付いてくるクライド様にドキドキとしていた。初夜のとき以来の心臓が破裂するような感覚。


「――――キスしたい」

「………………………………どうぞ?」


 ――――純粋か!


 そこは許可取らずにブチュッと男らしくかましてぇ!? いえ、きっとこの人は自発的にする行動の全てが怖いんだろうけど。

 

 ゆっくりと重なる唇は、ありえないほどに震えていて、まるで初めてしたような気分。

 純情少年を襲っているような気持ちにもさせられました。

 なんで真っ赤な顔で嬉しそうに微笑むかな? 私たち、既に子どもがいますよね?


「ふぅ…………はぁ……………………ん」

「っあぁぁぁぁもぉっ!」


 クライド様の本性を今更知って、悶え苦しんだ結果、叫び声が出ました。

 クライド様がクッッッッソカワイイです!


「クライド様!」

「ん?」

「毎日話しましょう。つたなくても、途切れ途切れでも構いません。もっといっぱいおしゃべりしましょう。私からも話しかけます」

「んっ!」

「それから! その『ん』という短い返事っ!」

「ぅ…………はいっ!」


 ――――あ、我慢した。


「可愛いから継続でお願いします!」

「ん? うん」


 反応が可愛いかったので、アリです!


 


 クライド様に意を決して離婚の申し出をして、仲直りして、いろんなことがわかりました。


「え? そんなこと考えてこっち見てたんですか」


 クライド様がコクコクと頷いて返事をしています。相変わらず言葉はあまり出ませんが、にこにことした笑顔などは良く出されるようになりました。


 今まで陰鬱なお顔をされていたのは、同僚の騎士様たちの話でにやけた顔より凛々しい顔のほうがモテるとか、おしゃべりな男より寡黙な男がモテるとか言われたせいなのだとか。

 そして、そんな顔で考えていたのは『息子があくびした! イザベルが笑った! 可愛い! あっ、ハイハイした! 凄いっ! どうしようどうしようどうしよう絨毯を貼り替えるか!?』とかなのだそう。

 なんですかそれ。可愛いが過ぎるでしょうが!


「まず、たぶんそれがモテるのは、夜会やお茶会とかです! 騎士様は、そういう属性です!」

「属性…………」

「あと、夫婦間では適応されません!」

「…………されない」


 クライド様が衝撃を受けています。

 どうしましょう。最近、クライド様のひとつひとつの反応が全て可愛く見えます。頭を撫でてあげたいような気分になります。 

 というか、撫でてますけどね。

 この人、これでも王国騎士団で大隊長やってるんですよね? 部下が百名以上いるとか前に聞きました。

 

「私は……………………君に、甘えすぎ……ている」

「構いませんよ。可愛いクライド様は好きです」

「っ、ん」

 

 


 夫に顧みられないと嘆いて離婚を切り出したら、夫がただのコミュ障だったと発覚。

 もっと早くに意思疎通するべきでしたが、これはこれでとてもいい結果になりました。


「っ…………その、今夜も……………………いい?」

「ええ、もちろんですわ」


 今は、ちょっと遅めの新婚夫婦気分を味わっています。




 ―― fin ――




読んでいただきありがとうございます!

ブクマや評価などしていただけますと、作者のモチベーションにつながりますので、じぇひ!

なにより、笛路が嬉しくて小躍りしますですヽ(=´▽`=)ノ


ではでは、また何かの作品で。


※あ! ↓下に過去作等のリンクおいてますのでそちらもぜひぜひ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 気風がよく懐の深いイザベルにはこういうチワワみたいな可愛げがある相手の方が合ってるんでしょうね(笑)
[一言] 「旦那さま、言葉が出ないなら、お手紙を書きましょう」「プレゼントもアリです」 とかアドバイスする執事とか従者とか侍女とかいなかったのでしょうか?
[一言] わりとコミュ障のヒーローが、主人公の現状に対応できず愛情を伝えられないと、捨てられる作品を見たので、ちゃんと交流出来て良かったです。 そもそもヒーローが愛情を伝えるのが前提で、話し合おうとし…
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