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夢は見るもの叶えるもの  作者: タケヒロ
第三章  予知夢の存在意義
9/13

3 僕の独り相撲

 今日も眞山翔が復活する夢は見れなかった……。


 最近の僕は抜け殻のような生活を送っている。何の抜け殻なのかはわからないけれど、無気力のままに周りの流れに合わせて登校し、机にもたれかかりながら授業が進み、どこをキレイにするともなくホウキを動かし、終礼が終われば眞山翔非難ルートを一人で帰宅する。そんな毎日を過ごしているのだ。

「行ってきます」

「気をつけて、行ってらっしゃい」

 そして今日も無表情の僕は、学校へ向かう大通りを右に出て、少し歩くとそこには駄菓子屋と電柱、その前には屋根のかかったバス停。そして習慣となっている電柱の陰に篤人の姿を探すのだ。

 するとそこには篤人の姿が……、えっ?


 篤人!


 紺と黒のツートンカラーに赤ラインのジャンパー、間違いなく篤人だ。しかもこっちを見て手まで上げている……。

 でも「眞山翔君の病気回復の夢を見ろ」と言ってくるのだろう。ちょうどいい、予知夢をコントロールできるようになったことも含めて、眞山翔が野球ができないくらいの大ケガをする予知夢を見たことを言おう。

 それともう一つ、僕も最近わかったこととして、一度見た予知夢をくつがえすような予知夢を見ることはできない、ということも説明することにしよう。

 というか、言わなければいけないという気持ちが僕を責め立てる。


「よっ、慎司!」

 どうしたんだ篤人「よっ」だなんて……、この前と全然違うぞ今日の篤人。それどころか、気持ち悪いほどニヤニヤしている。それでも警戒心しかない僕は、周りを見渡して通勤通学の人たちや散歩をしている人に目を凝らしてガン見してみる。その僕の姿に、呆れ顔して篤人が話しかけてきた。

「何やってんだよ、早く来いよ」

「う……、うん」

 とても明るい篤人の表情や声ではあるけれど、やっぱり僕はキョロキョロと周囲に気を配りながら近付いていく。

「相変わらずの心配性だな慎司は。誰もいないよ」

「だって篤人は眞山翔の手下でしょ……?」

 恐る恐る篤人の顔を覗き込む僕に、ハチキレんばかりの笑顔を見せてくる篤人。

「ついこの前まではな。でも、もう自由になったんだ!」

「自由……?」

 思い当たる節はある。それが僕の今のダークな心境の原因でもあるのだ。

「実はさ、眞山翔君は学校にほとんど来ていない、ってことは知ってるよね?」

「うん、まぁ……」

「いいかい慎司、これから俺が見て聞いてきたことを話すよ。誰もが信じられないくらいに、裏の裏まで、練りに練られた長編ドラマだ!」

「えっ、長編ドラマ?」

「そう。題して、眞山翔君とその手下たちの真実。の、始まりだ!」

 篤人が、知ったかぶりをするときや自慢をするときの、エッヘン顔そのものだ。

「驚くぞぉ、聞いてビックリ間違いなしだぞぉー」

「わかったから早く話してよ」


 話し出すのを待つ僕に、もったいぶるように少しの間をおいてから、ゆっくりと話し始めた篤人。

「実はさ、学校中のみんなが眞山翔君にビビっていたけどさ、その影で糸を引いていたヤツがいるんだ。本当のクロマクってヤツだ!」

「クロマク? 眞山翔がボスなんじゃないの?」

「誰もがそう思うよね。俺も始めはそう思ってた。でもさ、実はそのクロマクが別にいて、ソイツが眞山翔君を利用していたんだ!」

 いきなり核心を突く話しが始まった。にわかには信じられない内容ではあるけれど、篤人の表情が真剣そのものになっている。こういう表情をしているときの篤人は、嘘を言わないことを僕は知っている。

「ソイツの名前は、多賀橋拓!」

「タガハシ……タク……。聞いたことないなぁ……」

「でしょうね。そいつは慎司よりも目立なたないヤツだからね」

 ゆっくりと歩きながらも話に飲み込まれ、気付くと少し先にある杜野神社の木々が見えてきた。このペースで話をしていたら学校に着いてしまう……。


 篤人が真剣に語ってくれた多賀橋拓というヤツ。僕たちと同学年でかなり目立たないソイツは、眞山翔とは幼稚園のときからの幼馴染。

 その多賀橋拓は、小学生の頃に同級生たちからのイジメに合っていた。しかし、親友の眞山翔は小学校低学年から野球を始めて没頭するほど夢中になっていたことや、小学校時代に二人は同じクラスになったことがなく、仲良しの多賀橋拓がイジメられていたことは眞山翔も全く気付かなかったらしい。


「ところが、状況が大きく変わったのが中学生になってからなんだ」

「大きく変った?」

「ああ、多賀橋拓は中学になってからもそのときの連中にイジメられていたんだけど、その他にも出身小学校は違うのに、中学で同級生になったヤツらからまでイジメられるようになっていたんだ」

「イジメをする人数が増えたってことか……」

「そう。そしてその新たなイジメを始めた連中が多賀橋拓に絡んでいるところを、眞山翔君に見つかったんだ」

「確かに、一年生のときにイカツイ体格のヤツが、何人かの生徒に文句を言ってるところを見た記憶があるぞ……」

「でしょ。面白いことに、そのときの連中が、今、眞山翔君と一緒にいる連中なんだ」

「えっ……、僕たちが手下と呼んでいる七、八人のヤツら?」

「そう!」

「中学になってから多賀橋拓をイジメ始めたヤツらってこと?」

「そう。眞山翔君の手下グループは、実は多賀橋拓が眞山翔君を使って組織されたんだ。そして眞山翔君が命令していることにして、手下たちをこき使っていた。それが本当のクロマク、多賀橋拓だったんだ!」

 てっきり眞山翔が脅してこき使っているものとばかり思っていから、今の篤人の言葉は意外以外の何物でもなかった。

「だけど、多賀橋拓はどうして自分をイジメた連中を味方になんて?」

「それはこれから……。まずは眞山翔君と手下の成り立ちはわかったでしょ?」

「うん」


 すでに杜野神社の前を通過し、学校の正門も通過したけれど、篤人の口はまだまだ止まらない。

「そしてここからは、グループ組織の真相に入っていくよ!」

「組織の真相って、大きくでたね」

 ドヤ顔の篤人は、身振り手振りも大げさなくらいに話を続ける。

「眞山翔君に助けてもらった多賀橋拓は、実は、というこで話をしたのが小学校時代にイジメられていた話。それを聞いた眞山翔君は……」

「当然怒った、ということだよね」

「そう。そして集めた手下たちを使って、小学校時代に多賀橋拓をイジメていたヤツに成りすまして犯罪を起こし、成りすまされたヤツを犯人に仕立てる。という嫌がらせをするようになったんだ!」

「成りすましか……、僕のときと同じだ」

「そう、慎司がやられたようなことを、多賀橋拓は小学校時代に自分をイジメていた連中にやっていたんだ。しかも、一人に対して何度もだ!」


 中学生になってから多賀橋拓が受けたイジメは「チビ、カス、ウザイ、消えろ!」などの言葉の暴力だった。というかその段階で眞山翔に見つかったからそこで止まった、というのが正解だろう。

 それに対して小学校時代のイジメは、百円ショップやショッピングモールに行ってお菓子や小物などの万引きを指示され、持ってこないと「自分の小遣いで買ってこい!」と強要された。

 また、大通りの交差点では背中を押されて車道に飛び出すようなことも度々あったという。

 更に、イジメ連中と数名でバスに乗って杜野駅前の停留所で降りるときに「最後の人が払います」と言ってみんなが先に降り、多賀橋拓が最後に降りるときにはお金が足りずに運転手さんに怒られたことも。

 他にも、保護者同伴でないと入れないことになっいるゲームセンターで騒ぎ過ぎて怒られ、学校に通報されたときには「多賀橋拓にむりやり連れて行かれた!」と口裏を合わせられた。


「イジメにあっていた多賀橋拓は、中学生になって眞山翔君を後ろ盾にして、小学校時代に自分をイジメていた連中に仕返しをすることを思い付いたんだ。それも、小学生のときに自分がやられたことを真似た形でね!」

「なるほど。小学校時代にイジメていた連中と、中学校で新たに自分をイジメた連中の全員に一石二鳥的に仕返しをしていた、ということだ」

「そういうこと!」


 以前、先生が言っていた「同様の事件が数件ある」とはこういうことだったんだ。


「ここまでの話はわかったけど、どうして僕にまでそんなことをしてきの?」

 僕と篤人は僕の机と前の席の机を借りて向い合せにし、お弁当を口に運びながら話を続けた。以前にもこんな光景があったけれど、今日は美奈子ちゃんの姿はない。

「イメージなんだけど、眞山翔君って、ワル、怖い、っていうレッテルが貼られてるでしょう。その眞山翔君を抑えるために、先生たちは成績の悪さを指摘しておとなしくさせようとしたのは知ってるよね?」

 モグモグ……

「うん」

 モグモグ……

「先生の言葉をまともに受けた眞山翔君と多賀橋拓は、眞山翔君の成績を上げるために家庭教師を探そうとして、それであのとき俺に声をかけてきた、ってことだったみたい」

「一番初めに僕がヤツらに絡まれた原因となった話?」

 モグモグ……

「そう」

 モグモグ……

「まあ、家庭教師の考えはわかるけど、何でまた篤人が?」

「俺って小学校の頃に飯坂尚史と結構遊んだりしてたからさ、そこからの話で白羽の矢が立ったんだと思う」

「なるほど。それがどうして僕にきたのかな?」

 モグモグ……

「そ、そ、それは……」

 モグモグモグモグ…………


 眞山翔たちに突然詰め寄られた篤人は、何か脅迫でもされるのではないかと思い「友達の慎司なら予知夢を見れるから俺よりは確実だよ」と言ってしまった。

 まさか予知夢なんて言葉をまともに受けることもなかったヤツらだったけれど「自分を助けてくれた眞山翔君が進学できなかったどうしよう。今度は自分が眞山翔君を助けてやらなければいけない」と強く思った多賀橋拓。嘘か真か一か八かの勢いで、僕の予知夢で試験問題を見るということを思い付いた。それこそ、溺れる者ワラをも掴む、の心境だったのだろう。

 しかし、半信半疑ながらもこれでうまくいくと安心していた矢先に「試験問題の夢は見れませんでした」という返事が来たものだから逆ギレ。そのため多賀橋拓は「海藤慎司に罰を与える! ……と、眞山翔君が言っている」ということで嫌がらせを始めたのだった。

「なるほど、そういうことだったのか。それで僕に繋がるわけなんだ」

 ドヤ顔をしたかと思ったら、今度は両手を併せて顔をクシャクシャにして謝る篤人。

「ホント、ゴメン」

「しょうがないよ、過ぎたことだし。それよりも早く弁当食べちゃいなよ。休み時間がなくなるよ」

「あぁ、悪い。話はまだ続くからね」


 モグモグ……

 モグモグ……


 謝った直後には、大急ぎでご飯を口に頬張る篤人。いくら僕がそう言ったからといってそこまでコロッと変われるものなのか……。やっぱり篤人は篤人だ。

「それにしても、悪者はてっきり眞山翔だと思ってたけど、そういうことだったんだ」

「あぁ。まさかまさかの展開でょう?」

「うん。でも、友達思いにもホドがある……、では済まされないぞ多賀橋拓。なんてヤツだ!」

「手下たちもさ、実は眞山翔君の命令じゃなくて、多賀橋拓が本当のクロマクなんじゃないかって薄々気付いてはいたんだ。それが、慎司をターゲットにして嫌がらせを始めたあたりでさ、やっぱり多賀橋拓がやってることだ、って確信したらしい」


 手下たちの中でも多賀橋拓に疑いを持つヤツが出始めてきた。けれども、そのようなことを話すことができない組織作りがなされていたのだ。

 それは、誰かが誰かを見張り、その誰かを別の誰かが見張る。というように、自分は誰に見張られているのかがわからない状況で見張り見張られている。そしてミスをすれば嫌がらせのターゲットにされるという恐怖の中で、指示されたことを確実に実行する、という組織を作っていたのだ。


「多賀橋拓がクロマクだという確信……、それはどういうこと?」

 僕と篤人は掃除班が違うにも関わらず、中庭掃除をしている僕のすぐ脇で教室掃除の篤人が話を続けていた。

「さっきさ、試験問題の夢を見れなかった慎司に罰を与える話をしたでしょ。あれは慎司からの白い紙を多賀橋拓が見た瞬間に言ったらしいんだ。その段階で眞山翔君は慎司からの紙を見ていないにも関わらずね!」


 僕たちは既に学校を後にしていた。二人で学校の正門を左に出て杜野神社の前を通りながら帰る。正門を正規の通学路通り左に出るのは四ヶ月ぶりだ。今さら新鮮とは言わないけれど、懐かしい気持ちで杜野神社や立ち並ぶ店、街路樹などの街並みに気が向いていた。

「わかった、慎司?」

「あ、ああ……。眞山翔が見てもいないのに、ゴーサインを出すのは変だってことでしょ?」

「そういうこと。どっかを見てるくせによく答えられるな……。でも、それが慎司の頭の良さなんだよな」

「ところでさ、多賀橋拓がクロマクだとか、イジメをしていたヤツラに仕返しをしているとかいう話は、あの手下たちが教えてくれたの?」

「そうだよ。核心にもつながる話なんだけどさ、手下の一人が偶然入手した情報だったんだ」


 それについては、その日、体調が優れなくて一時限目の授業が終わってから、保健室のベッドで休む手下の一人がいた。そして二時限目の始業を知らせるチャイムが鳴った後、保健室の扉が開いて無言のまま入って来た人がいた。すると、カーテンの向こうで保健師さんが「おはよー、眞山君」と声をかけたことで眞山翔だということがわかった。

 手下は、まさかの眞山翔の出現に毛布で全身を隠し「どうか見つかりませんように」と心の中で唱えながら自分を消していたという。しかしながら眞山翔の存在感はなく、保健師さんが一方的に雑談をする程度。

 そのうち二時限目終業のチャイムが鳴ったと思ったら、まるでそのときを狙っていたように保健室にやってきた人がいる。


 そう、多賀橋拓だ!


 そのタイミングで保健師さんは「眞山君の心のリハビリにもなるし、自由に話をしていいから」と言って、保健室を出て行った。

 まさかカーテンの陰に手下がいるとは思いもしない多賀橋拓は、眞山翔を気遣う言葉に加えて「早く元気になって、また仕返しに力を貸してね」などと、いかにもクロマクとしての多賀橋拓、威圧感だけの眞山翔という役目がわかるようなことを沢山話したという。

 それはほんの五分くらいの出来事だったけれど、白いカーテンの影でとんでもない情報を掴んだことになる手下!

 そして後日、そのネタをもとに、篤人も含めた手下連中みんなで多賀橋拓に問い詰めたのだ。始めのうちはシラを切っていた多賀橋拓だったけれど「眞山翔はもうリーダーとして戻ってくることはない。グループを解散して縁を切るなら今までのことを先生に言わない」ということを条件に、眞山翔との関係や数々の嫌がらせについての全部を話たのだという。


「どう慎司? まさかまさかの、とんでもない話でしょ!」

「思いもしない展開だね!」


 この話が終わった頃には、僕と篤人は中央公園の池のほとりにあるベンチに腰を掛けていた。辺りは薄暗く一番星がメラメラと輝いている。

「篤人、多賀橋拓っていうヤツを僕に教えて!」

「どんなヤツか顔を見たくなった?」

「僕が仕返しをしてやる!」

「仕返し? 大きく出たな慎司。いろいろあったけど、もうこの話は終わったんだ。俺たちに平和が戻ったんだよ」

「いや、これで終わすわけにはいかない。多賀橋拓のせいで、僕たちはどんなに辛くて苦しい思いを強いられたか、僕がそれを思い知らせてやる!」

「気持ちはわかるけど……、えっ? 思い知らせるって、どうやって?」


「篤人、実はさ、僕……」


 金星の輝きが一層メラメラを増している。さっきよりも暗くなってきたからそう見えるのか、それとも火がついた僕の心がそう見えさせているのか……。

「冗談止めろよ慎司! そんなこと、できっこないじゃないか。今までだってそう言ってたでしょうよ?」

「自分でもビックリなんだけど、本当にできるようになったんだよ」

 僕は得意げに話した。これまで僕が現実化してきた予知夢のことを、篤人の顔にツバを飛ばす勢いで説明した。

「仮に、仮にだ、本当に仮にそうだとしても、どうしてそんなことができるようになったの?」

 困惑を浮かべる篤人の質問に、隠すつもりはなかったことも含めてこれまでのいきさつを話した。もちろん美奈子ちゃんや篤人を救うために予知夢を使おうとしたことも。

 そしてその能力は正義のために与えられたものであることも。

「だから、僕のこの力を使って、クロマクである多賀橋拓を懲らしめてやるんだ!」

「懲らしめるって言っても……、どんなふうに?」

「どんなふうにって……、何なら篤人に予知夢のストーリー、考えさせてあげるよ!」

「ストーリー……?」

「そう。多賀橋拓をどんなふうに懲らしめるか、篤人の思うような展開にしていいよ」

「…………」

 ドヤ顔でも困惑した顔でもない。怒りなのか悲しさなのか、長年付き合ってきても読み取れない表情の篤人。

「どうした、篤人?」

「慎司、それ……、本気で言ってんの?」

「もちろんだよ。僕のこの力はこのときのためにあるんだ。悪を懲らしめる役目が僕に与えられたんだ!」

「眞山翔君は悪じゃない。飯坂尚史も多賀橋拓に言われてあんな態度を取っていたんだ」


 暗くなった公園の街灯に映し出される篤人は、何とも言い表せないくらい、さげすむような雰囲気をかもし出している。それでも僕は、僕の正論をぶつけた。

「眞山翔のことは今、篤人の話を聞いたからわかったことだよ。でも、多賀橋拓はクロマクなんだから天罰が必要だろう?」

「多賀橋拓は、確かに仕返しのために嫌がらせをやっていた。やり方はマズイとは思うけどさ、よくよく考えてみれば、子供の頃からイジメに合っていたのは多賀橋拓だし、そう考えれば仕返しもわからなくはない。言ってみればさ……、言葉があっているかはわからないけど、お互い様ってことだよ」

「お互い様? 僕は多賀橋拓なんて知らないしイジメてもいない。それなのに!」

「慎司のことに関しては多賀橋拓の身勝手だと思うし、やり過ぎだと思う。けど……」

「けど……?」


 けどって何?

 篤人は、僕に備わった力を喜んでくれると思ったのに……。


「慎司の話が本当だとすれば、無実の眞山翔君はケガをして高校推薦も取消された、それは慎司のせいだ。ということになるんだぞ」

「まぁ、そういうことになるけど……。しょ、しょうがないよ」

「眞山翔君も、言ってみれば多賀橋拓に利用された被害者なんだ。学校に睨まれる羽目になって、それにプラスして将来を奪ったのは慎司だったなんて!」

「でも、そのお陰で篤人たちも眞山翔や多賀橋拓から逃れることができたじゃないか!」

「慎司!」

「なんだよ!」


 正直、眞山翔の将来を奪ったことについてのやり過ぎ感は否定しない……。そのもどかしさが残るうえに「眞山翔をあんな目に合わせたのは慎司だ!」と言い放った篤人の言葉にイラッとした僕は、心にもないことを言まった。これを逆ギレとか、開き直りっていうのだろう……。


 僕はただ、美奈子ちゃんや篤人を助けたかっただけなのに……。

 慎司のお陰で助かった。って、ひとこと言って欲しいだけなのに……。


 僕は篤人と別れて自分の家に向かって歩いていた。別れ際に、また明日と言ったのか、またどのタイミングで別れたのかなどは覚えていない。気付くと、一番星は沢山の星たちを呼んで、真っ暗な空にキレイに輝いていた。


 それはとても淋しく、そしてとても悲しく。


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