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第4話 王城

 ガルフォーネの討伐は、予定より短期間で終了した。

 まあ、ヤツなりに必殺の罠を仕掛けたつもりだったのだろう。

 実際、呪い無効という特殊体質の俺じゃなければ、必殺の布陣だったと言っていい。

 つまり、単に相性が良かっただけ、とも言える。


 おかげで予定を大幅に短縮し、王都には三日で帰ってくることができた。


 このあと、ガルフォーネ討伐の報告に城に向かう予定だ。

 依頼主は王子、つまり元パーティーメンバーのアルベルトだからな。

 だが、その前に家に寄ることにした。

 予定よりかなり早いし、焦る事も無いだろう。


「ただいま」


 家に入ると⋯⋯リビングには誰もいなかった。

 カミラは買い物にでも出掛けてるのだろうか?


 他の部屋を確認すると⋯⋯子供部屋からは人の気配がした。

 ノックすると「何?」と中から返事があった。


「パパだよ、仕事が終わったから帰ってきた」

「えっ⋯⋯は、早いね」

「うん、予定より早く終わって」

「ふーん、そう」


 ⋯⋯出てくる気配が無い。

 どうにかしてここを開けて欲しいものだが。


 俺は少し思案して話題を選ぶ。

 ──と、ちょうど良さそうなものがあった。


「今回の仕事、ちょっと変わった魔法を二つほど見たんだけど、知りたくないか?」


 俺の問いに、バタバタと慌てたような音がする。

 あまり間をあけずドアノブが『ガチャ』と音を鳴らしたが、そのまま開かれる事はなく⋯⋯。

 「ンッンー」と咳払いが聞こえたのち、ドアは押押され、中が見えない程度の隙間ができた。


 娘の顔はやや上気していたが、どうやら平静を装おうとしているみたいだ。


「ふーん、珍しい魔法? 勉強になるしちょっと聞いてみようかな?」

「うん、じゃあ中に⋯⋯」

「ダメ、リビングで待ってて。あと着替えてくれる? 旅帰りだと、消臭魔法じゃ間に合わないくらい服が臭うから。いつも言ってるよね?」

「⋯⋯はい」


 この一年、俺は娘の部屋には『出入り禁止』だ。

 トラブルの種になるので、言い付けを守っている。


 命じられた通りに服を着替え、リビングで待っていると、ノートと鉛筆を持った娘がやってきた。

 そのままエミリアは、無言で俺に消臭魔法をかけた。

 ⋯⋯まあ、体を洗ったわけじゃないからな。

 服が新品でも念の為って事だろう。

 それについては特に会話も交わさず、エミリアは対面に腰掛け、本題を切り出した。


「じゃあパパ、その珍しい魔法の事教えて?」

「ああ」


 魔法の事に関しては、今もこうしてコミュニケーションが取れる。

 その事に感謝しなければな。


 ⋯⋯いきなり消臭されるくらいは許容しよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「んー、じゃあこの『自己蘇生魔法』は、人間だと実用化できない、って事?」


 最初に『呪殺球』、次に『自己蘇生魔法』について娘に説明した。

 その間も、娘は面倒くさそうにする芝居を止めなかったが、明らかに食いついてきていた。

 ただ、それを指摘すればこの楽しい時間がなくなってしまう事くらいはわかっている。


「いや、再現できる可能性はある」

「どうやって?」

「それは⋯⋯おっと、もうこんな時間か。パパはちょっと用事がある。これは宿題にしよう」

「えー!? いいじゃん、教えてよ」

「いや、お前は自分で答えに辿り着ける。その喜びを奪ったりしないよ」

「⋯⋯むぅ」


 このセリフは、亡きバーンズ老によく言われた言葉だ。

 娘もそれを知っているので、抵抗はしない。


 ⋯⋯本当は教えてもいいのだが、これ教えちゃったらまたエミリアと話す時に話題を探さなければいけない。

 強いカードは取っておこう、そんな気持ちもある。


「だけどヒントを上げよう。『花を咲かせましょう』だ」

「えー? 漠然としてるね」

「ま、考えてみてくれ」

「わかった。用事って何?」

「ガルフォーネ討伐の報告に、城へ行くんだ」

「えっ⋯⋯お城?」


 エミリアの顔色が少し変わった。


「どうしたんだ?」

「えっ、んー⋯⋯ううん、わかった」

「いや、どうしたんだ」

「何でもないって。いいから行って来て」


 あー、これはあれだ。

 突っ込んでも答えは得られず、さらに不機嫌にさせるだけだ。


「よし、じゃあパパはさっと報告して、さっと帰ってくる。もしパパが帰ってくるまでに宿題が解けてたら、欲しがってた杖を買ってあげよう」

「⋯⋯うん」


 あれ? もう少し喜んで貰えると思ったのだが、エミリアのリアクションが薄い。

 まあ、実物を見せれば、もっと喜んでくれるだろう。

 物でご機嫌取りするのは気が引けるが、それくらいは許されるだろう。

 ⋯⋯カミラに財布を握られているから、少し節約が必要になるけども。

 

 家を出ようとすると、エミリアが珍しく玄関まで見送りに来てくれた。


「じゃあ行ってくる」

「⋯⋯うん」


 やはりあまり元気が無いな。

 ただ、聞いた所で答えてくれるとは思えない。

 そのまま俺が歩き出すと⋯⋯。


「パパッ!」


 エミリアに呼ばれ、振り向く。

 彼女は真剣な眼差しのまま、言った。


「私⋯⋯ちゃんと宿題、するから」

「ああ」

「じゃあね⋯⋯パパ、バイバイ」

「ああ、行ってくるよ」


 胸のあたりで控えめに手を振る娘に、手を振り返した。

 この様子だと、やはり何だかんだ言って、杖が欲しいみたいだ。

 ここは奮発するとしよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 王城を訪れるのは久しぶりだ。

 帝国皇女とアルベルトの婚約パーティー以来だから⋯⋯五年ぶりか?

 いつもは王子や国王陛下からの依頼を携えた使者が、我が家までやってくる。

 冒険者の中でも特別待遇だ。

 なので城にも冒険者ギルドにもあまり顔を出す必要が無い。


 依頼達成の報告も、いつもは使者に伝えているが、今回は想定より早く終わった。

 ギルドを通して早めに使者を寄越してもらう手配も、その後に待つのも面倒だ。

 何より陛下は、ガルフォーネの犠牲になった村人たちの事で心を痛めていると聞いている。

 解決した事を早くお伝えした方が良いだろう。


 入城の手続きをしようと正門脇の通用口に向かった。

 通行を管理する門番が、俺の姿を見るや否や慌てて駆け寄ってくる。


「あ、イスミール様! わざわざお城へ何か御用でしょうか? 依頼関連のご連絡なら使者を向かわせますが?」

「いや、予定より早く終わってね。陛下に直接ご報告をと思い参ったのだが」

「なるほど⋯⋯ちょっとお待ちください」


 門番は通用口脇の詰め所でパラパラとノートをめくると、眉をしかめた。


「イスミール様、申し訳ありませんが陛下はご予定が詰まっておられるようです」

「そうか。なら王子でも⋯⋯」

「大変申し訳ありませんが、ご両名とも他国の貴賓と会談がございまして」

「なるほど。では城内で待たせて貰うとしよう」

「いえ、こちらから使者を手配致しますので、お引き取り頂けませんか?」

「⋯⋯了解した」


 門番の態度に、何か引っかかるものを感じる。

 俺は魔王封印の功績をかわれ、本来入城はフリーパスだ。

 だが、特権を笠に着るような真似は妻が嫌うのだ。

 いつも「英雄扱いされて尊大な振る舞いをするとエミリアに悪影響よ。権力とは一定の距離感を保ちましょう」と言われている。

 使者を介してやり取りするのも、妻の提案だ。

 なので、めったに城を訪れる事はない。

 来た場合もわざわざ今回のように手続きをしている。


 しかしこの門番は、本来ならフリーパスのハズなのに、やんわりとだが俺を追い返そうとしているように感じる。

 露骨に隠し事をしている、という雰囲気だ。


 考え過ぎかも知れないが、ガルフォーネの事が脳裏をよぎる。

 あの魔女は男をそそのかし、手駒に変える。

 もし王城内にヤツのシンパが残っていたら、魔王の封印解除の為に今後も動く可能性がある。

 その場合、俺を王城から遠ざけようとするだろう。

 何とかその辺の情報を収集したいが⋯⋯俺の勘違いだと判ればそれはそれでいい。


 来た道を途中まで引き返し、路地裏で隠密(ステルス)を使用し、また通用口に戻る。

 勝手に城に入ってやろう、そもそも許可は不要だしな。

 バレても何とかなるだろう。

 俺が戻ったタイミングで、交代要員らしい兵士が詰め所にやってきた。


「おい、交代だ」

「ああ、ちょうど良かったよ⋯⋯神経を使ったところだ」

「何かあったのか?」

「驚くなよ? イスミール様が入城の申請をしてきた」


 先任の兵士が言うと、引き継ぎに来た兵士が泡を食ったように詰め寄った。


「お前まさか入城させてないだろうな!?」

「ああ、何とかお引き取り願ったよ」


 兵士の言葉に、後任の男はホッとした顔になった。


「良かったよ、まあ大丈夫だとは思うが念には念ってやつだよな」

「中でカミラ様とバッタリ、なんて事になればなぁ。どんなとばっちりが飛んでくるかわからんぜ」

「だよなぁ、もうカミラ様は城に入って3日だぜ?」


 二人の会話に、なぜか妻の名前が出てきた。

 カミラがここに? しかも三日間も?

 じゃあ、その間エミリアはたった一人で家にいた、というのか?

 俺の困惑をよそに、二人はまだまだ会話を続けた。


「しかしイスミール様も可哀想なお方だよ。まさか殿下と奥様が⋯⋯デキてるなんてよ」


 ドクン、と心臓が跳ねた。

 動揺は隠密(ステルス)の解除を促す。

 何とか平静を保つ努力をする。


「おい、めったな事を言うな、あくまでも噂だろ?」

「はっ? お前知らねぇのか? 侍女たちが言うには、カミラ様が訪ねてくると、夜な夜な殿下の部屋から獣みたいな下品な声で喘ぐ女の声がするってよ」

「本当かよ、あんな美人が⋯⋯」

「ああ、貞淑ぶってるクセに『夜はとってもお楽しみでしたね』ってヤツさ」

「旦那が必死こいて魔王の残党狩りしてるのに、元パーティーメンバーとお楽しみってか。とんだ聖女がいたもんだ」


 蔑んだように言いながらも、二人はニヤニヤと笑っていた。


 アルベルトと、カミラが⋯⋯?

 いや、そんなはずは無い。

 きっと、誰かが面白がって流した噂だろう。


 俺は妻を⋯⋯カミラを信じる。

 あの貞淑な妻が、よりによってアルベルトとそんな事をするハズがない。


 ただ、この二人をここで問い詰めたところで仕方ないだろう。

 なんせ噂の域を出ない話だ。

 別の用事だとしても、城に三日間も滞在し、その間エミリアは一人で留守番というのは看過できない。

 ⋯⋯そう思えば、俺が城に向かうと言った時のエミリアの態度も気になる。

 なぜカミラが城にいる事を俺に伏せる必要があったのだ?

 エミリアは何かを知っていて、俺には言い出せない、としたらそれは何だ⋯⋯?

 

 事実を確認しなければならない。

 隠密(ステルス)を使用したまま、まだまだ噂話に興じる二人の脇をすり抜け、俺は城内に入った。



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