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第3話 廃城


 調査で判明したガルフォーネの潜伏先は、帝国との国境近くにある廃城だった。

 旧王国時代の物で、城の周辺に人が住まなくなってから数百年が経過している。

 かつては街道だった場所も今は木々によって塞がれ、外界から隔絶された──いわゆる陸の孤島だ。


 戦時の砦としての役目があったため、丘陵地や山岳が選ばれた旧時代と違い、今の城は王国も帝国も交通の便が優先され、平地に建設されている。


 ここも、そんな打ち捨てられた城の一つだ。

 追われる者が身を隠す場所としては、正にうってつけだろう。


 接近を気取られないように、城が目視できる場所から先では隠密(ステルス)の魔法を使う。

 魔法の効果で、今の俺は端から見れば背景と一体化している。

 姿を消すだけでなく、自らが発するあらゆる音も、足音から呼吸音まで周囲には漏れない。

 

 魔王を倒し、パーティーを解散して以降、調査で人を使うことはあっても、俺は単独で行動する事がほとんどだ。

 密偵じみた魔法もお手の物になりつつある。


 俺の事を誘ってくるパーティーは後を絶たない。

 だがハッキリ言って『四英雄』以外の人間だと、俺にとって足手まといになる。


 リーダーだった王子アルベルトは既に次期王として政務に携わっているし、妻は出産を機に家庭を守る事に専念して貰っている。


 魔法の師だったバーンズ老は既に他界してしまった。


「ふっ⋯⋯そう考えれば、変わらないのは俺だけって事か」


 隠密(ステルス)のせいで他に聞こえない安心感から、自嘲気味に独りごちる。

 

 俺だけが今も各地を駆けずり回って、戦いを続けている。


 魔王と戦った頃から何も変わらない。

 家での過ごし方、家族への接し方なんてろくにわからないクセに、相変わらず剣で敵を斬り、魔法をぶっ放すのだけは誰よりも上手い。

 敵をどうやって殺すか、それだけは自信がある。

 そして、それが楽しくて仕方がない。


 「救国の勇者」などと呼ばれているが、内実は返り血にまみれた殺し屋。


 娘に邪険にされても仕方無いってもんだ。


 頭の中でさらに自嘲を重ねながら、歩を進めると 廃城の門が見えた。

 門は朽ち果て、外界から城内を隔てるという本来の役割はほとんど機能していない。


 事前に見取り図で調べた限りでは、王族用の逃亡通路などは発見できなかった。

 そのため、ここを迂回して入城するのは難しいだろう。

 実際こうして現地を確認し、周囲の荒れ果て具合から考えるに、仮に隠し通路等があったとしても、探すとなればそれこそ一日二日では終わらないだろう。

 罠の可能性は排除できないが、正面から入城する事を選ぶ。

 妻はああいってくれたが、やはり俺はもう少し家族と過ごす時間を増やしたい。

 今回の件で、あまり時間をかけたくはない。


 主を失って数百年、古城の内部は荒れ果てていた。

 盗掘に晒されたのだろう、一見して価値がありそうな、めぼしい物は見当たらない。

 冒険者稼業だと、廃城などのお宝は貴重な臨時収入だが、今回は期待できなさそうだ。

 俺は床に残る、人が出入りしている痕跡を発見した。

 まだ新しい足跡だ──それも複数の。

 

 頻繁に出入りする場所に罠を仕掛ける事も無いだろう。

 床に堆積した埃に残る足跡を辿り、奥へと進む。


 頭の中で、事前に覚えた古城の見取り図と、現在の位置を一致させる。

 足跡はどうやら謁見の間へと向かっていた。

 そのまま中に入る。


 とうに主を失ったはずの玉座に、新たな主が座して周囲を睥睨していた。


 魔王軍四天王、ガルフォーネ。


 黒衣を纏い、病的に白い肌をした美女。

 絶世と評してよいが、酷薄な印象は拭えない。


 彼女の印象を後押しするかのように、まるで女王に(かしず)く家臣かの如く並べられた、二十を超える数の死体たち。


 膝をつき、身体をガルフォーネに向けて伏しているが、どれも首から上が無かった。

 老若男女が入り混じったそれは、最近ある村で集団失踪事件として報告された人々だろう。


 謁見の間には、むせかえるような血の匂いが漂う。


 隠密(ステルス)を解除し、相手に姿を見せる。

 離れていればともかく、この距離で通じる相手ではないだろう。

 実際ガルフォーネは俺を見ても慌てる様子は見せない。


「死体相手に女王気取りか? ガルフォーネ」


 俺の皮肉に、ガルフォーネは忌々しそうな表情を浮かべた。


「ふん。我が王はお前が奪ったではないか、ヴァン・イスミール」

「そうだな。お前もそろそろ──ちゃんと死ね」




 死ねという言葉に、ガルフォーネはその柳眉を歪ませながら訂正した。


「死ねだと? 忘れたのか? 王は封印されただけ、死んではおらんぞ?」

「永劫解けぬ封印なら、死んだも同然だ」

「そうだな、()()()()()()()


 ガルフォーネが魔王の封印を解くために、色々画策している事は知っている。

 封印の詳細は、施したバーンズ老にしかわからない。

 ただ高位の神と『取引』して行使した、強力な物だと聞いている。

 簡単に解けるとは思えないが⋯⋯。

 ガルフォーネの自信あり気な態度が引っかかる。

 単なる負け惜しみとも思えない。

 なら、ここでまた逃がす訳にはいかない。

 

「仮に封印を解く算段があろうと、無駄だ。お前はここで死ぬ」

「やれやれ、しつこい男は嫌われるぞ? ⋯⋯まあ良い、今回は⋯⋯妾が勝つ!」


 玉座の上で、ガルフォーネが指を鳴らした。

 号令を受けて示し合わせたように、彼女の前に並べられた死体がピクリと動く。


 ガルフォーネが呪文を詠唱する。

 聞き覚えのない言語だが──発音の傾向から、おそらく古語に類する言葉だろう。


 彼女の詠唱に合わせ、首なし死体は上半身を起こし、それぞれ胸の前で指を組み合わせ、祈りを捧げ始めた。

 すると死体からは赤黒い霧が立ち昇り、一点へと集まり、成人男性の、身長程度の直径を持つ球体を形成した。


 まるで血で太陽を模したような、不気味な姿だ。

 ガルフォーネは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「呪殺球『ガボルドニアルド』。英霊王レシアンを殺した際には百を超える生け贄が必要だったというが、ヴァン、貴様ならこれで足りようぞ」


 罠もなく、この玉座まであっさり来れた理由がわかった。

 この並べられた死体こそがガルフォーネの罠、必殺の布陣ということだろう。

 生け贄を利用した禁忌の術。

 古い時代の魔法だ。

 こんなものを現代に甦らせるとは、流石は魔女と呼ばれるだけはある。


「まあ、神話と比較するほど、俺も不遜ではないな」

「減らず口を⋯⋯死ね!」


 ガルフォーネが俺に指を向ける。

 奴によれば『呪殺球』ということだが、それは一旦姿を消し、再び姿を現した時には俺の周囲に展開された。


 球体の中に取り込まれた、という形だ。

 粘り付くような不快感が全身を襲う。

 

 飛来する軌道もクソもなく展開された事から、恐らく回避不能型、つまり──必中。

 対象を確実に葬る為のものだろう。


 やはり罠はあった。


 ──この城に俺が来る事、それ自体が罠。



 だから、これはただの幸運(・・)でしかない。

 ガルフォーネが用意したのが違う罠なら、俺は破れていたかも知れない。

 やはり妻に心配されたように、焦ったりせず、もう少し気をつけるべきだった。



 呪殺球はしばらく俺の周囲で展開し⋯⋯唐突に消失した。


 ガルフォーネの表情が強張る。

 

「バカな⋯⋯貴様、なぜ生きておる」

「耐性がある。俺に呪いは効かん」

「呪いに対する耐性だと⋯⋯だとしても、半神すら殺した呪いに⋯⋯」

「生まれつきだ。詳しくは知らないが重宝してるよ」


 俺が肩を竦めて軽口を叩くと、切り札を失ったガルフォーネはワナワナと震えながら叫び声を上げた。


「呪いへの完全耐性だと⋯⋯お前、まさか」

「ん? 心当たりが?」


 もしかしたら俺の出自をコイツ知っているのか?

 なら興味があるが⋯⋯。


「あったとしても、敵に話す事などない! 次こそは⋯⋯!」


 まあそうだろうな。

 ただ、奴は勘違いしているな。


「次はないぞ」


 強力な術を行使し、疲れを見せる相手へと一気に間合いを詰め、負け惜しみを吐くガルフォーネの首を薙ぐ。

 美しい顔を怒りに醜く歪めたまま、彼女の頭部は宙を舞った。

 普通ならこれで終わりだが、コイツ相手にはまだ足りない。


 「よし、次の準備は⋯⋯」


 空間魔法を発動し、中に収納してあった『形代(かたしろ)』を数点取り出す。


 ここからは時間との戦いだ。

 ガルフォーネの死体、切断された首から流れる血に形代を押し付ける。


 魔女が何度殺しても復活する理由は解析済みだ。


 ──この女は残留魔力を利用し、【自己蘇生魔法】を発動している。

 並外れた魔力の持ち主にしかできない離れ業で、余程の条件を揃えない限り人間には無理だろう。


 必要な触媒は──自らの血が付着した形代だ。


 ガルフォーネの死体が霧散し、身に付けてあった服が地面に落下するのと同時に、俺の用意してあった形代が受肉を始めた。

 形代への受肉は、距離が近い物から優先される。

 本来なら安全圏に形代を保管し、そのまま逃げる算段だろう。

 復活したガルフォーネは、目の前に俺がいる事に気付くと驚愕の表情を浮かべた。


「ヴァ、ヴァン、なぜ⋯⋯」

「もう理解しているだろ? お前の手品はタネが割れている」


 地面に転がる形代を見て、ガルフォーネは追い込まれたような表情を浮かべた。

 目論見が外れた事を悟ったのだろう──すぐに切り替え、妖艶な笑みを浮かべた。


「ふっ、ヴァン、いいわ? 私の負けね」

「ああ。潔く死ね」


 俺が剣に手をかけると、彼女はクスクスと笑った。


「でも──死ぬ前に、私を好きにしてみたいと思わない? 高位魔族を抱けるなんて、めったにない機会よ?」


 ガルフォーネは笑みを崩す事なく()()を作り、俺を誘惑してきた。

 おそらくこの笑みも、仕草も、魔術的な効果を伴った『誘惑』だ。

 実際ガルフォーネに籠絡された男は数知れない。

 彼女の奥の手にして、最後の武器。

 おそらく今まで何度も成功させてきたのだろう、その顔には自信が窺えた。

 しかも形代に呪肉したばかりの彼女は、一糸纏わぬ姿なのだ。


 つまり⋯⋯まあ目の毒だな。

 特に、今の俺には。

 魔術的な効果自体は無効だが、なんせ妻と没交渉の身だ。

 美女の裸体など、俺には刺激が強すぎる。

 わずかに立ち上る情欲に蓋をし、返事をせず再び首を薙ぐ。





 同じように形代を使い、四度ほど作業を繰り返すと──ガルフォーネの復活は止んだ。


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