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私のパパは世界一!  作者: 長谷川凸蔵


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第14話 五年前の思い出

本日2話目です。

 皇帝陛下とお会いした日から、陛下の勧めで別宅に逗留している。

 陛下は聖杯とやらの準備や政務をこなす為に城に戻った。

 別宅には俺、カルナック、マリアベルと数人の護衛がいるのみだ。

 婚約したとはいえ、若い娘さん──この言い回しだと俺がオッサンみたいだけど──と一つ屋根の下ってのはなんか落ち着かない。

 今日もマリアベルの朝の日課であるランニングに付き合った。

 彼女はなんと一時間近くランニングをする。

 なかなかの体力だ。

 走り終えてから、一緒にお茶を飲むのもまた日課となりつつある。


「先ほど御父様から、正式にアルベルト様へと婚約破棄を通達した、と連絡がありました」

「そっか」

「ええ。これで私達の結婚に何の障害もありません」

「そう、だね」


 二人と最初に話した時からも感じていたが⋯⋯マリアベルはかなり積極的だ。

 俺の自意識過剰じゃなければ、どうもこちらを憎からず思ってもらえてるみたいだ。

 勘違いだと恥ずかしいのでなかなか聞けなかったが、ここ数日で確信めいた物を感じている。


「マリアベル」

「はい」

「その⋯⋯なんて聞けばいいのか」

「私に遠慮せず、ハッキリ聞いて頂いて結構ですよ?」

「⋯⋯君から、俺に対しての好意を感じている」

「はい、五年前にお会いした時からお慕い申しあげております」

「そう⋯⋯なの?」

「はい」


 五年前といえば、アルベルトとの顔合わせをするために彼女が王国を訪問してきた時だ。

 確か十日間の滞在で、国王陛下から依頼されその間の護衛は俺が勤めた。


「当時、私とても太っていましたでしょう?」

「あー、うん」

「ふふふ、気を使わなくて結構です。過食が止まらなかったのです、日々のストレスで」

「確か当時もそんな話をしてたね」

「ええ⋯⋯皇女として産まれ、周囲から色々な期待をされて、それを裏切りそうになるのがストレスで、過食が止まらず、それが周囲の期待を裏切っているようで、また過食⋯⋯と悪循環にありました」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アルベルト王子と初対面。

 彼は私を見て、表に出さないよう努めながらも、明らかにがっかりしていた。

 当然だろう。


 貴族同士の結婚では、相手を選べない。

 彼からすれば、こんな醜く太った女をあてがわれるのだ。

 彼の冷え切った目が、将来の冷え切った夫婦生活を連想させた。

 また私は、人の期待を裏切ってしまった。


 それがまたストレスで⋯⋯私は夕食を食べたあとだというのに、持参したクッキーを貪っていた。

 メイド達がうるさいので、部屋から抜け出し、廊下の陰で。

 そこを、ヴァン様に見られてしまった。


 夕食が終わったばかりだというのに、人目を盗んでお菓子を貪る女。

 恥ずかしくて死にそうだった。


「あの、これは⋯⋯」

「お、美味しそうなクッキーですね。一枚頂いても?」

「あ、はい、どうぞ⋯⋯」


 私がクッキーを手渡すと、ヴァン様はパクッと頬張ったのち、笑顔を浮かべた。


「うん、美味しいですね! もしやこれは皇女様のお手製ですか?」

「はい、メイド達からはその、間食が禁止されているのですが⋯⋯厨房に忍び込んで、自ら作っております」

「そうですか、凄いですね! おっとそうだ、こんな所にいるのもなんなので、アッチの部屋に行きましょう。使ってない部屋があるのです」


 ヴァン様に案内された部屋は、元々使用人の為の部屋のようだった。


「じゃあ、ここで待っていてください」

「でも、私、部屋に戻らないと」

「大丈夫ですよ。メイドさんたちにはあとで俺から言いますから」


 ヴァン様は一度退出したのち、どこから用意したのかお茶のセットを運んできた。


「こんなに美味しいクッキーなんだから、それだけじゃもったいない。お茶も一緒に飲みましょう」

「はい、その、ありがとうございます」

「お茶を確保してきた褒美を頂いてもよろしいですか?」

「褒美? 何を⋯⋯」


 ヴァン様はイタズラっぽい笑顔を浮かべながら、褒美の品を所望してきた。


「もう一枚、クッキーをください」

「くすっ⋯⋯はい」


 彼が淹れたお茶を飲みながら、クッキーを食べる。

 貪るようにではなく、ゆっくりと。


◇◆◇◆◇◆


 ヴァン様との会話は新鮮だった。

 

「ヴァン様は⋯⋯周囲をガッカリさせたりしないんでしょうね」

「どうしてそう思われるんですか?」

「だって、周囲の期待にしっかり応え、魔王と戦い、それを打ち倒したり⋯⋯」

「ひとりでやった事じゃないですよ。それよりも、一つよろしいですか?」

「はい」

「勘違いなら申し訳ありませんが⋯⋯誰かをガッカリさせてしまったと思い悩んだりされてますか?」


 この返しに私は驚いた。

 それまでお話させていただいた殿方は、私が相手を褒めるような話題を振ると、いかに自分が優れているかをアピールしてきた。


 さっきのような質問を投げかければ⋯⋯。


『ははは、私ひとりの手柄ではありませんよ。ただ、それなりに役に立ったのは自負しておりますが』


 みたいな感じだ。

 だけど、ヴァン様は控え目に謙遜されたうえ、私の話を聞こうとしてくれる。

 気が付けば、私は自分の悩みを吐露していた。


「いつも悩んでいます⋯⋯今日のアルベルト王子との顔合わせでもそうです。お顔には出さないようにしていたとは思いますが、明らかに私の容姿にガッカリされている御様子でした」

「なるほど⋯⋯」

「ヴァン様の奥様はとてもお美しいと伺っております。やはり男性は、伴侶の見目が麗しい方が嬉しいですよね?」

「それだけが全てとは思いませんが、やはり好ましい外見だと嬉しいでしょうね」

「ですよね⋯⋯」

「ただ、その点に関して皇女様は恵まれております」

「私が⋯⋯?」

「はい。なぜなら悩み事というのは、二種類になります。悩んでも仕方ない事と、悩む価値があるものです」

「と、仰いますと⋯⋯?」

「身長を高くしたい、といった悩みは解決が難しいですよね? つまり、悩んでも答えがでません。ただ、痩せたいという悩みは困難であれ、解決の余地があります。悩む価値がある問題ですね」

「そう言われると、そうかも知れません」

「さて、解決になるかはわかりませんが⋯⋯城にいると塞ぎ込んでしまいませんか? もしよろしければ明日、一緒に運動してみませんか?」


 その申し出自体にはあまり気乗りしなかったが、もう少しヴァン様とお話ししたかったので、了承した。

 楽しかった茶会もお開きとなり、ヴァン様に部屋まで送っていただいた。


「皇女様、招かれている身であまり勝手に城内を散策されますのは⋯⋯」


 メイド長のロアナは、部屋を抜け出した私に小言を言おうとしたが、そこにヴァン様が割って入った。


「ロアナ様、大変申し訳ありません。護衛の手持ち無沙汰から、私が無理にお誘いしたのです」


 ヴァン様が頭を下げると、ロアナは慌てたように言い繕った。


「いえ、そんな、勇者様に頭を下げられてしまっては⋯⋯また、私ごときにロアナ様などと。ロアナと呼びつけにして頂いても⋯⋯」

「ありがとうございます。あと、もう一つわがままを言わせていただければ、話の流れでダイエットの話になりまして」

「まあ、皇女様が?」

「はい。そこで私の鍛錬する姿を皇女様にみていただきたいと思いまして。明日午前中、御時間いただければ嬉しいのですが」

「それは⋯⋯大丈夫だと思いますが。明日は夜会まで予定は入っておりませんし」

「ロアナさん、ありがとうございます。もし皇女様が鍛錬に興味を持っていただけた時のために、動きやすい格好が好ましいのですが」

「それなら⋯⋯乗馬服などはいかがでしょうか?」

「はい、結構です。では皇女様、また明日お迎えにあがります」


 ヴァン様は笑顔を振りまくと、頭を下げ、部屋を出て行った。

 ロアナはしばらく上気した表情でぼーっとしていたが、やがてボソッと言った。


「皇女様⋯⋯ヴァン様って、素敵ですよね⋯⋯」

「はい⋯⋯とても」


 ロアナはそのあともヴァン様の事を『あれほどの功績をお持ちなのに、驕らず、気さくで、飾らず、そのうえ気品がある』といった趣旨の言葉を何度も繰り返していた。

 その言葉にいちいち同意しながら、なんども頷いた。



◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、ヴァン様に誘われて、まずは王城の庭を散策した。

 一通り歩くだけで、じんわりと汗ばむ。

 途中、ふうふうと息があがってしまった自分がちょっと情けなかった。


 しばらく歩くと、大きな池があった。


「皇女様、もしよろしければこの池の周りを一緒に走りませんか?」

「えっ⋯⋯? はい」


 せっかくの提案だが、やはり気乗りしない。

 だけど、ヴァン様の期待を裏切りたくなくて、同意してしまった。


「では目標を決めましょう。皇女様なら、五周ほどがよろしいかと」

「わかりました、頑張ります」


 と言って走り始めたものの、私は一周で()を上げそうになった。

 なんとか二周、三周と頑張ったが⋯⋯ついに四周目を走りきった時に立ち止まってしまった。


「はあ、はあ、はあ、はあ⋯⋯」

「もう限界ですか?」

「はあ、はあ、はあ、はい⋯⋯」


 ああ、やっぱり私はダメだ。

 ヴァン様に提示された、たった五周も走れない。

 不甲斐ない自分を情けなく思っていると⋯⋯。


「皇女様。私から見て⋯⋯二周目には、もうお辛そうでしたが」

「はい、情けない、はあ、はあ、話ですが」

「情けなくなどありません。あなたは頑張りました」

「でも、ヴァン様は五周と」

「それは私が勝手に申し上げただけです。でも、あなたは私をガッカリさせまいと、限界を超えて頑張った」

「それは⋯⋯でも」

「皇女様」

「はい」


 彼は私の言葉を遮ると、微笑みながら言った。


「昨日悩まれていたように、周囲はアナタに色々と期待するでしょう。皇女様ほどではありませんが、私にも経験があります」

「ヴァン様も⋯⋯?」

「はい。ただ戦いが上手いだけの私が、何の因果か『救国の勇者』などと呼ばれ、人は私にそれに相応しい振る舞いを求めます。ただ、私はその全てに応えられるとは思っていません」

「そうなのですね」

「はい。でも皇女様、あなたは私を、周囲をガッカリさせないように、限界を超えて頑張れる方です。そんな自分をもっと誇ってください。それはきっと、ただ外見が美しい事なんかよりも、余程大事な事なのです」

「⋯⋯はい、ありがとうございます」

「だからと言って、あまり頑張りすぎてもダメですよ? 期待に応えようとしすぎて、自分を追い込み過ぎてはいけません」

「わかりました」

「では、頑張ったご褒美を差し上げましょう」

「ご褒美ですか?」




◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんと、ヴァン様は王城を抜け出し、私を城下に誘いだした。

 彼が案内してくれたのは、喫茶店と呼ばれる商業施設だ。

 もちろん私にとって、初めての経験。


「ここのケーキは美味しいんだ。皇⋯⋯マリアの口に合うといいんだが」


 お忍びという事で、皇女という呼び方はおろかマリアベルと言う名前も、あと敬語も避けた。

 二人分のお茶が用意され、次にケーキが運ばれてくる⋯⋯私の前だけに。


「あの、ヴァン様の分は?」

「あ、いえ。ちょっと情けない話なんだが⋯⋯今月は出費が嵩んでね、ひとり分しか持ち合わせがないんだ」

「それは、悪いですわ」

「遠慮しなくていいよ」

「では、こうしましょう。せっかく走ったのに、ケーキを全部食べては台無しです。私のためにも、半分お召し上がりください」

「君がそう言うのなら」


 お店の方にお皿を用意してもらい、半分こにする。

 ヴァン様とシェアしたケーキは、これまでで一番美味しかった。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あのあと帰国してから、私は走るのが日課になりました。あの日の思い出を、ヴァン様を側に感じるために⋯⋯そして再びお会いする時に、少しでも美しくなった私をお見せしたい、そう思って今日まで過ごして来たのです⋯⋯」


 ウットリとした表情で話すマリアベルを見ながら、俺は少し混乱していた。


 なんか、俺の記憶と細部がちょっと違う⋯⋯。

 これ、結構あるあるなんだ。


 人の記憶っては、わりと都合よく改変される。

 俺が事件の証言を集めた上で『場所の記憶を覗く魔法』で確認したら全然違ったり。


 ただ⋯⋯十代の乙女なんてそういうものなのかも知れない。

 いわゆる『恋に恋する』って奴だろう。


 それに──彼女が俺を想い、この五年間頑張った。

 大事なのは、その事実だろう。

 ならばその気持ちに、少しでも酬いる言葉をかけるべきだろう。


「マリアベル」

「はい」

「本当に──綺麗になったね」

「はい⋯⋯はいっ!」


 彼女はとても嬉しそうで──その笑顔は、俺の目にとても魅力的に映った。

 

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