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私のパパは世界一!  作者: 長谷川凸蔵


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第11話 帝国からの使者(アルベルト視点)

 東部諸国の一部が魔王によって支配されて三年。

 アルベルト率いるパーティーが、遂に魔王城へと潜入した。

 魔王軍の幹部たる四天王は既に三体討ち滅ぼし、残るは魔女ガルフォーネと首魁たる魔王のみ。

 王子であるアルベルトが魔王討伐に参加したのは、功績が必要だからだ。


 帝国との婚姻。

 国力に差がある国同士で、五分の婚姻に持ち込むため、武功を上げる。

 それがアルベルトの目的だった。


 そして──悲劇は起きた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「クソ、転移トラップとは⋯⋯」


 魔王城に入ってしばらく、アルベルトは罠にかかってしまった。

 強制的に別の座標に跳ばされる、転移の罠。

 敵の本拠地で孤立。

 これは──死を覚悟しなければならない。


 通常転移トラップの先には、大勢のモンスターが待ちかまえている。

 剣の腕に覚えがあっても、魔法が使えないアルベルトに、多数の敵を一度に相手をする殲滅力はない。


「敵の数は⋯⋯」


 気配を探る⋯⋯が。


「おかしいな、何も気配がしない」


 いや、と。

 直前の独白を脳内で否定する。

 足音がした。

 相手は気配を隠す様子もなく──こちらに歩み寄ってきている。

 しばらくして、曲がり角から接近者の姿が見えると同時に、相手から声をかけてきた。


「あら、アナタだったの。ヴァン・イスミールが良かったのだけど」


 最悪の相手だった。

 不死の魔女、ガルフォーネ。

 他の四天王との戦いを思い返すが──その誰もがアルベルト単独で倒せる相手ではなかった。

 それでも、おめおめとやられる訳にはいかない。

 剣を抜こうとした、瞬間。

 気が付けは、ガルフォーネはアルベルトの眼前まで接近しており、こちらの顔を覗き込んできていた。


「あら、そんなに緊張しないで? 何も取って食べようって訳じゃないんだから」


 そのままガルフォーネは、アルベルトの頬を手でさすってきた。


「ねぇ、ぼうや」

「な、なんだ⋯⋯」

「アナタ⋯⋯女を知ってるの?」

「ば、バカに、するな⋯⋯」

「ふうん?」


 頬にあったガルフォーネの手が、首、胸と下がっていき、腹を這い、そして──。


 ギュッと、掴まれた。


「本当に?」

「や、やめろ⋯⋯」

「やめていいの?」

「あ、当たり前だ⋯⋯」

「ふふふ⋯⋯じゃあやめてあげる」


 ガルフォーネが手を離す。

 そして、再度握りなおして来た──今度は、アルベルトの手を。


「ねぇ。アッチに良いところがあるの。一緒にいきましょう?」


 噂には聞いていた。

 これが魔女の『籠絡』だ。


 恐らく今、自分に対して魅了系の魔法を使用しているはずだ。

 危なかった。

 バーンズ老によって作成された、魅了対策のアクセサリーを身に付けていなければ骨抜きにされるところだった。


(魔女め。不死だかなんだか知らんが、誘いに乗ったフリをして、油断したところを斬り捨てやろう)


 そう。

 アルベルトは誘い乗ったふりをした──ハズだった。



 ──魔女と過ごして3日。

 アルベルトはパーティーに再度合流した。

 奇跡の生還を、誰もが喜んでくれた。


「本当に⋯⋯本当に、良かった!」


 一番喜んでくれたのは、ヴァンだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇



 ガルフォーネに言わせれば、アルベルトは『保険』だった。

 魔王との戦いにおいて、アルベルトは流石に裏切ったりはしなかった。


 だが、本当の苦悩は戦いを終えた後にやってきた。


 性を覚えたアルベルトはあれ以来、色々な女を抱いてきた。

 だが、あの3日間を超えるものはない。

 むしろ、他の女を抱けば抱くほど、ガルフォーネの素晴らしさがわかった。


 そんなアルベルトの心境を確信していたのだろう。

 しばらくして、ガルフォーネが姿を見せた。


「あなたが私のために動いてくれたら、また同じ事してあげるわ」


 アルベルトは逆らえなかった。

 彼女から時折届く指示通りに、アルベルトは動いた。

 年に一度は姿を見せてくれた。

 ただ、ギュッと握るだけで立ち去ってしまう。


 十年。

 十年も焦らされている。


 彼女の指示は明快だ。

 ヴァン・イスミールを排除し、アルベルトが国を受け継ぎ、魔王復活の暁には国を献上する。


 ガルフォーネに言われた通りヴァンに依頼し、罠に嵌めて殺そうとするも、あの男は切り抜けてしまう。


 ただ、排除の方法はそれだけではない。


 カミラが打算的で、パーティーを組んでいた頃からアルベルトを利用しようとしている事には気付いていた。

 ヴァンの弱点とするため、自分の女とした上であてがう。

 これもガルフォーネの指示だ。


 間違いない形で心理的なダメージを与えるために、子供まで産ませた。

 それを知ったガルフォーネは「アルベルト、良くやったわ」と大層喜び、その時はただ握るだけではなく口付けまでしてくれた。


 十年も要したが、計画は想像以上の効果があった。

 アルベルトの部屋で嘔吐し、気絶するヴァンを見た時に、勝ちを確信した。

 ヴァンは弱っている。


 あの場で殺す事も考えた。

 だが、万が一があってはいけない。


 ガルフォーネが出した条件は二つ。


『この国を、復活した魔王に献上すること』


 ヴァン殺しの罪で廃嫡、なんて事になれば目も当てられない。

 これまでの十年が無為になってしまうのだ。


 弱らせて国を追い出せば、さすがのヴァンもガルフォーネに殺されるだろう。

 あとは魔王さえ復活し、この国を献上すれば──また、ガルフォーネを抱く事ができる。


 そんな期待に、胸と身体の一部を膨らませる日々を過ごしていると⋯⋯。


「殿下、帝国より使者が参っております」

「わかった、俺が会おう」


 帝国からの使者の到来が告げられた。

 現在病気で伏せている父に成り代わり、政務はアルベルトが担当している。


 帝国の使者との会談場所に向かっていると、肩越しに声を掛けられた。


「アルベルト、帝国から使者との事だが」


 アルベルトは急いで振り返った。

 城内で彼を呼び捨てできる人物は一人だけだ。


「父上、どうされました?」

「今日は体調が良い⋯⋯私も会談に同席しようと思ってな」

「左様ですか、是非」


 体調が良い、と言いながらも王の顔色は優れなかった。

 少し無理しているのだろう。

 それは、まだまだ自分が子供扱いされているようで不満だった。

 とはいえ、使者の対応くらい自分ひとりでできる、と強がって、父の機嫌を損ねるつもりもない。


 父と歩く道中、使者の用事をあれこれと想像する。

 恐らく、なかなか日取りが決まらない皇女の輿入れに関してだろう。

 王国側からは、いつでも受け入れる態勢にあると何度か打診している。

 だがその都度、今しばらくと返答が来ていた。


 ただ、皇女ももう少しで二十歳。

 貴族同士の結婚だとやや遅いくらいだ。

 流石にこれ以上延長される事はないだろう。


 アルベルト本人が前向きか? と問われれば別に、だ。

 皇女とは二度対面しただけだが、やや痩身でありながらも胸が大きく魅力的なガルフォーネとは違い、全体が太ましい女だ。

 いや、ガルフォーネに比べれば、あらゆる女が見劣りするのは仕方ない事ではある。


 もともと皇女と結婚するのも、国の為を思えばだった。

 王族として、結婚相手が自由に選べない事なんて子供の頃から理解している。

 貴族同士の結婚など、結局の所権力基盤の強化だ。

 だからこそ、先々帝国を自分の後ろ盾とするためにも、危険な魔王討伐に参加し、武功を立てたのだ。

 のちに、帝国に対して皇女との婚姻を打診した際、元々武門の出であるジャミラット帝は「英雄と縁がもてるのなら是非にも」と、二つ返事で承認したという。

 こちらの思惑通りだ。


 そして仮に魔王が復活し、この国を献上するとなれば、皇女は帝国に対して有効な人質となるだろう。

 きっとガルフォーネも喜んでくれるはずだ。


「アルベルト、どうした? 上の空のようだが」


 今後について夢想していると、会談場所に着いていたようだ。


「も、申し訳ございません。少し考え事を」

「全く。そんな事だから任せられんのだ」

「⋯⋯申し訳ございません」


 ちっ、と心の中で舌打ちしながら中に入る。

 そもそもこの縁談自体、アルベルトが命懸けで勝ち取ったものだというのに、感謝された覚えもない。

 まあ、それももう少しの我慢だ。

 

 部屋に入り、帝国使者と型通りの挨拶を交わしたのち、向こうが用件を切り出してきた。


「皇帝陛下は、アルベルト様とマリアベル様の婚姻を白紙に戻す、と仰せです」

「⋯⋯はっ?」

「ですから、婚約は解消させていただく、という事になります」

「な、なぜ?」

「理由は私も伺っておりません」

「そ、それは流石に⋯⋯」


 失礼だろう、という言葉が喉まで出掛かった。

 そんなアルベルトを、父が腕で制してきた。


「御用向きは確かに伺いました。皇帝陛下のお言葉となれば撤回も難しいとは存じますが⋯⋯アルベルトも皇女様との婚約を遵守するために、この年まで妾も側に置かず独身を貫いてきました。その誠意に免じて、こちらから陛下に使者を送る事を御容赦願いたい」

「わかりました。要望はお伝えしておきます」

「ありがとうございます」


 用件が済み、使者はさっさと退散した。

 アルベルトは慌てて王に聞いた。

 

「父上、い、いったいどういう事でしょうか?」

「わからん。皇帝陛下は筋を違える御方ではない。このような一方的なやり方は腑に落ちぬが⋯⋯まあ良い、私に良い考えがある」

「さ、流石は父上です。で、そのお考えとは?」

「うむ。ヴァン・イスミールをここに呼べ」

「⋯⋯え」

「惚けておる場合か、ヴァンを呼ぶのだ」


 突然出された名前に、アルベルトは驚く。

 ヴァンの事は、普段寝室に籠もりがちの父にはまだ報告していなかった。


「し、しかし」

「なんだ?」

「せめて、先にお考えを御教授頂きたく⋯⋯」

「⋯⋯仕方ない、他言は無用だぞ?」

「はい」

「ヴァンはな⋯⋯恐らく先代皇帝、ヴィルドレフト様の縁者だ。隠し子の可能性もある」

「な、なんと」


 できるだけ声に動揺を出さないようにしたが、それでも身体は震えた。

 内心の動揺はそれ以上だ。

 ヴァンが、ヴィルドレフト帝の子?


「ち、父上を疑う訳ではありませんが⋯⋯なぜ、そのように思われるのですか?」

「私は昔、ヴィルドレフト帝に一度拝謁しておる。ヴァンにはその面影がある。年齢もヴィルドレフト帝の崩御した年から逆算すればだいたい合っておる」

「それが理由と⋯⋯?」

「あほう。以上の理由から、以前バーンズ老に私の予想をぶつけたところ、明確な回答は無かったが、一言『そのお考えは、他言無用でお願いします』と請われたのだ。その時に確信した」

「な、なぜ今まで⋯⋯せめて私には⋯⋯」

「ふん、お主はまだ若い。ヴァンに対する態度などが変わってしまう可能性があるからな。あとこの様な切り札の切り方をするにも、経験が不足しておる。取っておきの手札というのは、身内だろうとできるだけ秘するのだ。よい勉強になったであろう?」


 ガラガラと、足元が崩れるような感覚がした。

 父の予想通りならば、この婚約破棄はまさしくヴァンの意向が働いているのではないか?

 身体が小刻みに震えた。

 アルベルトの様子を興奮だと捉えたのか、父はさらに続けた。


「つまり、ヴァンに使者として出向いて貰い、我が国が如何に彼を厚遇しているか、という感謝を語って貰う。ジャミラット帝もヴァンを一目見れば、その出自が気になるはずだ」

「⋯⋯」

「そして帝国には、血の繋がりを証明する神具があるという。もしそれでヴァンの出自が判明し、ジャミラット帝がこれまで先帝の子を庇護してきた我が国に感謝の念を抱けば、あるいは此度の婚約破棄も撤回なさるやもしれん」

「⋯⋯な、なるほど」

「よし、わかったな。ではヴァンを招聘せよ」


 話し終えたとばかりに、王はアルベルトの次の言葉を待った。

 だが、アルベルトは声が出せない。

 頭の中でなんとか打開策を考えるが──何も思い付かない。

 アルベルトは覚悟を決めた。


「何をグズグズしておる?」

「ち、父上⋯⋯大変申し上げにくい事が⋯⋯」






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新作です!

『レンタル魔王』は本日も大好評貸出中~婚約破棄騒ぎで話題の皇家令嬢に『1日恋人』を依頼されたので、連れ戻そうと追いかけてくる婚約者や騎士を追っ払いつつデートする事になりました~

その他の連載作品もよろしくお願いします!

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