俺だけじゃない
第6話です!
もはや、俺の昼休みは、完全に、安息でなくなりました……ってなばかりに、邪魔者だらけになってしまった。
そう、あの男武志までもが昼休みのゲームに加わることになってしまったのだ…。まあこいつは吉野と違って毎日来る気は無いようだが…それでも昨日に引き続き今日も厚かましく俺の席に集まっている。
「ふふん。今日も一緒にやろうじゃないか」
「いよっし、やるぞぉ」
「お前ら俺の意見は?」
「じゃあとりあえず適当になんかやろ」
俺の言葉を無視して吉野はストストを起動する。
「おい」
「ほぇ?」
「お前らさぁ…いいか?座れ?」
「はい」
武志はぴしりと背筋を伸ばす。
「ふにゃ~」
吉野は身体をぐにゃりと机の上に伸ばす。
「座れ?」
「ぴし」
ようやく居直る。
「吉野には何度も言ったが、武志」
「はいっ!」
「俺たちはなんだ?」
「…友達…かね?」
武志が恥ずかしそうに呟く。
「いや、そういう意味じゃないんだ…。こう…なんだ…もっと切羽詰まるものがあるだろ…」
「ああ、受験生だってことか」
あっさりとそう言う。
「わかってるじゃん」
「それが?」
「え?」
「なに?」
「いや、こんなことしてる場合か?」
「ふっ…ふはは…。おいおい天太クン。君はどうやら随分心配症らしい。暦を見たまえ。まだ4月だぞ?」
「いやいやいや!4月だからこそ!俺たち3年は気合を入れ直すんだろが!いいか?青春は確かに1度きりかもしれないが、進学できなかった場合はその後の青春を失うんだぞ。ここは頑張る場であって最後の青春を楽しむ場じゃないんだ!」
「熱くなるなよ…」
「んー。でもどうかなぁ。まいはそうは思わないけどなぁ」
「お前はそうだろうな」
呆けた顔の吉野には何もかもどうでもいいに違いない。
「んーん。頭が良いとか悪いとかじゃないと思うの。まいだって進学するかどうかよりも離れちゃうみんなと色々つながっておこうって思ってるもん」
「はは。吉野はまず進学が厳しいんじゃないか?」
「えへへ~」
吉野は頭をぽりぽりとかく。
「はっはっは。君は吉野くんのことを知らないからそんな風に言えるんだろうな」
「なんだよ?」
「…余計なこと言わないで?」
武志の腕を吉野が掴んだ。
「ひっ」
「どうしたんだよ?」
「いや、なんでもないよ、うん」
武志は引き攣った顔でぎこちなく笑った。
「ね~」
相反して吉野はいつもの様にふんわりと笑うのだった。
「とにかくだ、お前らも勉強をした方がいいぞ」
「まあ君がそこまで言うなら僕たちも邪魔するわけにいかないか…」
「じゃあねぇ、武志くん」
吉野が武志に手を振る。
「あれッ?!」
「さて、それじゃあどうする?」
そうしてまだここに居座るつもりらしい。
「こいつ…」
「この子がどうなってもいいの~?」
吉野は俺の弁当を持っていた…。
「いや、なんやかんやいつもお前がメインを攫っていくじゃないか…」
「うん…だってもう武志くんのメインはないもの…」
「あっっ!」
武志が鞄の中を見て大きく口を開けた。
「お前こういう時だけははやいよな…」
「能ある鷹はなんとやら…まいはこの緩急で4倍のスピードを出してるような気分にさせるんだよ~」
「わけがわからん」
「それではやろうか」
「だぁからぁ!もうやらないって!」
俺は音が響くくらい机を叩いた。
「…ケチ」
吉野は口を尖らせて席を立った。
「あ、吉野くん…待って」
「ついてこないでいいよ~」
2人は席に戻っていった。
「……これでいいんだよ。俺にはまだやることがある」
『よくないよー!!』
携帯からいきなり声が響く。
「うわっ!な、なんだ?」
『どうしてせっかく仲良くなった子たちを突き放すようなことするの!成長したと思ったのにやっぱり冷たいんだから!』
「え?ちょ…は?携帯…は鳴ってないし…」
『ふふふ…驚いてるね…!そう、私は進化したのだ!なんと念話でまーくんを呼び出せるようになったよ!ちなみに呼び出し用なのであと3秒で強制的に会話は途絶えてしま…』
言った通り会話は強制的に途絶えてしまった。
「こいつ…また厄介なことを覚えやがった…」
ピロロロロリロリロ!
そしてしっかりと電話を仕掛けてきたのだった。
「きた…!」
俺は電話に出た。
「やっほー!ユーリちゃんだよ!」
「はいはい…」
「む…何その反応!私の大魔術を前にして!」
「いやあの…もしかしてなんだけどさ。こっちの映像見えてる?」
「………見えてないよ」
「嘘つけ!なんだ今の間は!あとあの2人のことなんでわかったんだ!答えてみろ!」
電話はそっと切れた。
「ぬぁあーっ!!」
「ちょっ…ちょっとちょっと天太~。どしたの?」
頭を抱える俺を心配してか吉野が俺の席までやって来た。
「いや、ユーリが…」
「きかせて?」
「こっちの映像を見ながら携帯を介さずに俺に話しかけられるようになったらしいんだ…」
「それは便利だね~」
「いやプライバシー!あっちはいつでもみられるんだぞ!」
「それはほんとう?」
「え?だってそういうことだろ?」
「ちゃんときいたの?」
「…いや…きいてないけど…」
「決めつけはよくないよぉ。もしかすると何か条件があるかもしれないし」
「うぅむ…たしかにそうかもしれない。わかった。もう一度きいてみよう」
優梨にリダイアルした。
「あ、もしもしぃ?まーくん?どうしたの?」
「いや何事も無かったかのようだな…。さっきの件についてだ」
「な…なにかな~?」
「その…根拠もないのに疑って悪い」
「ううん!いいのいいの!私も勝手なことしてごめん…。あのね、今回の通信は窓みたいなものなの。声は直接届けられるようになったけど映像はノーフとまーくんの携帯のディスプレイをつなげたみたいな…。だからね、まーくんの携帯の画面が私の世界を映してもいるんだよ」
「じゃあもしかして2人のことは声しか聞こえてなかったのか?」
「その通り!でもまーくんの許可なしに数秒間画面をつなげちゃうから確かにプライバシー的にはよくないかも…ごめんね」
「いやまあ…いいよ。せっかく覚えたみたいだし」
「ありがとう~!」
「まあ映像繋げるのは声で確認してからにして欲しいけどな…」
「すぐ返事がなかったら画面もつなげることにするよ!」
「…逆にそういう時って取り込み中なんじゃないかな…」
「この会話中にも映像をつなげられるように修行しておくからね!」
「別にいいんだが…」
「……ご、ごめんね。私…1人で舞い上がってたみたい…。じゃあね…」
電話は切れた。
「…ん?何が言いたかったんだ」
「天太って、時々ヒドイよね」
吉野はため息をつきながらそう言った。
「は?」
「ん~今日はもういいや。またね」
吉野はまた席に帰っていった。
「…なんだよ」
俺には再び訪れた、望んでいたはずの静寂がやけに居心地悪く感じた。
放課後になっても、吉野からもユーリからも声はかけられなかった。今日こそはゆっくりと勉強できるはず。俺は図書室に向かった。
「げ…」
ここに来てさらに嫌なことに1番会いたくない人間を見つけてしまった…。
「……」
こちらには気づいていない様子で本のページを捲る彼女は、西陽を浴びた丸眼鏡がその表情を隠しどんな物語をどんな感情で読んでいるのかまるで伺うことはできなかった。ただ、俺は陽の光を反射した眼鏡の奥から向けられる視線が、どうか俺でなく本に向いていて欲しいと願う他なかった。
「はぁ…」
不意にため息が聞こえた。俺に対してなのか、本に対してなのか、それすらもわからない。正直俺がこうまでこいつのことを気にしなければならないという状況は非常に癪なのだからここにいてやろうと思ったわけだが、俺の身体はそれを許さないらしい。早鐘を打つ心臓を抑えることは叶わず、冷や汗が頬を伝い始めた。ここにいてはならない。俺はようやく座り込んだ席を立ち図書室を離れようとした。
「あら?もう行くの?」
唐突に背後から投げかけられた声に全身が総毛立った。
「……あぁ。そうだ」
「もしかして、私を見たから?」
「…だとしたら?」
「いえね、私は別にあなたがいたって構わないのよ?仲良くしましょうよ」
「バカにしてるのか…?俺に…俺たちにお前がしたことを憶えていないのか?」
「…あの時はごめんなさいね。私も幼かったから」
そう言うとその女は軽々しく頭を下げる。
「謝って済むことじゃないから。俺はお前とは関わりたくないしお前も俺には関わらないでほしい」
「そう…そうよね。許されることじゃなかったわ。ごめんなさい。私が消えるわね」
そう言うとその女、蛍は伏し目がちに肩を落とし図書室を出ていった。
「あぁくそっ…調子狂うな…。俺が悪いのか…?さっきから…」
胸の奥がもやもやとした薄気味悪い感情に包まれる。それは終始勉強の邪魔ばかりをして陽が落ち暗くなっても消えることはなかった。
学校を出る頃にはもう月が昇り星が見えていた。日中は暖かくなってきた頃だがやはりこの時間になるとまだ冷え込む。ぶるりと肩を震わせポケットに手を突っ込みながら歩いた。
「……寒いなぁ…」
薄暗い街角に呟いた一言は、誰に拾われることも無くただ冷たいコンクリートに吸い込まれていった。
「ただいま…」
「あら、遅かったわね」
「勉強してたから…」
「頑張ってるのね。でも頑張りすぎたらだめなのよ」
「そんなことない。…今が頑張りどきなんだから」
「まだ4月よ?」
ちょっとだけ吹き出すように言われたその一言が、やけに俺の神経を逆撫でした。
「もう4月なんだよ…っ!」
吐き捨てるように言って俺はさっさと自分の部屋に入ってしまった。
「ご飯いるのー?」
「いらない!」
もはや完全に意地だった。腹を鳴らしながら帰ったのに何も口に入れずに部屋にこもってしまった。そうしてまたノートを広げる。なんだか俺はとんでもなく虚しくなった。
延々と鳴り響くように感じた秒針の音を一際大きな腹の虫の声が遮った。勉強に費やしたエネルギーを補うことなくさらに浪費し続けては、流石にガス欠を起こすというものだ。
「腹…減ったなぁ」
全身の力を抜き椅子の背もたれに身体を預ける。もう俺には勉強を続ける気力もなかった。
「なんかあるかな…」
疲れた身体を奮い立たせ部屋の扉を開ける。
「ん?」
部屋の前にはラップに包まれた食事の乗せられたトレイが置いてあった。
「………ありがとう」
既に家族が寝静まった薄暗い廊下にそっと呟いた。
「おはよう」
登校中、吉野を見かけたので声をかける。
「んあ~…おはよ…。ねむいね…寝てもいい?」
相変わらず寝惚けた顔でふらふらと歩いている。
「いいわけないだろ…」
「背中を出してごらん?」
「出さないっての!」
「お、2人とも奇遇だね。どれ、僕が背を貸そう」
武志がやってきて吉野に背中を差し出す。
「しーん」
吉野は微動だにしない。
「はッ!?」
「昨日はなんか…ごめんな。よく考えたらわかった。俺って、自分のことばっかりだったんだろな」
「へぇ。天太、自分でわかるんだぁ~」
「全く、気づくのが遅いね…」
「いや…正直お前にだけは言われたくはないんだがな…」
武志は何食わぬ顔をしている。
「とにかく、他人に対する思いやりを持つことにしたから!…こんなこと言うのも恥ずいけどな」
「んーん、やっぱり言ってくれたのは嬉しいな」
「はっは。友達、だからな」
「…ありがとう」
「こちらこそ!ありがとうっ!」
「ありがとう!」
「…朝から何話してるんだって感じだよな。よし!行くか!」
「おーう!」
そう言って吉野は俺の背に飛び乗った。
「あれ?歩く気なし?」
若干張り付くような武志の視線を感じながらなんとか教室までたどり着いた。
「はぁ…はぁ…お前軽いのはいいけど長時間はやっぱきついわ…」
「僕がかわったものを…」
「武志くんには乗らないけどね」
「ぐぬ…」
「さて、じゃあ仲良しなお前らには朝の仕事を任せていいか?」
「え?」
気がつくと先生が近くに立っていた。
「え~?なんでなんで~?」
「いやなに、少し1人で持っていくには大変な量の提出物があってだな。良かったら手伝ってくれんか?」
「言っておきますけどぉ、まいに任せるなら往復した方が…」
「や、やりまーす!」
「うん、よろしい」
先生の顔に笑顔のまま殺気が滲み出たのを感じ取った俺は吉野の言葉を遮って承った。
「ふえぇ…なんでこんな重いものを持っていかなきゃならないの?」
「いや、お前…嘘だろ…?」
吉野が持っているのはプリント10枚だ…。
「俺たちはノート全員分を3種類…持ってるんだぞ?」
「それにだね吉野くん…君が持っていない残り22人分のプリントはきちんと僕らが分配して持っているのだよ…?」
「えへ」
「なんの笑いだ…」
「ごめんねの笑い」
「なんだそりゃ…」
「まいね…重いものを持てないの…あれはまいがまだ小さかった頃の話なんだけどね…みんなのお弁当を持つのを任されてたまいは、段差でつまづいて全部こぼしちゃったの…。あの時のみんなの顔を思い出すと怖くなっちゃって…」
吉野は遠い目をしながら切なそうに語り出す。
「そんな事情があったなんて…わかった吉野くん、そのままでいい」
「いや…多分嘘だぞ…」
「そんなわけないじゃないか!」
「…えへ」
「今のは?」
「バレちゃったの笑い」
そうしてようやく俺たちは教室から2階降りた職員室に着いた。
「あら、おはよう」
そこでまた…あの蛍に出会ってしまった。
「お…おはよう」
改めた考えを嘘にしないために俺はこの憎むべき女にさえも頭を垂れた。
「……許して欲しいと思える行動ではなかったと思っているわ。でも、いつかこんな日が来るのだと思ってもいた。あなたが許してくれる日。それが今日だったなんて…」
蛍の瞳から一筋の涙が零れたのを見たが、彼女はすぐにそれを隠してしまった。
「…ごめんなさい。挨拶だけして一刻も早く去りたいわよね。私は消えるわ」
「待てよ」
そう言ってそそくさと離れようとした蛍を、無意識に引き止めていた。
「…なにかしら?」
「確かに俺はお前とは絶対に関わりたくなかった。もう許してやらないと思ってた。…でもお前のことを考えてはいなかった。あの時のお前と今のお前が違うことはわかっていたのにな。だから、一言だけ言ってやってくれ。そうしたら許してやれる気がする」
「…そう。やはり許してもらえないのね…。伝えるべき言葉は、もう届きませんものね…」
「いいや、届く」
俺は携帯電話でユーリと通話を開始した。
「え?なになに?」
「ちょっと…この声…」
「そうだ。藍原 優梨。お前にとっては数日の顔見知りだろうが…俺にとっては親友だった」
「いや…そうじゃなくて…だって…」
「あぁ、その声…蛍ちゃん?だよね?ごめんね、まだあんまり声も覚えていないうちに…その…私…」
「無理もないよな。俺も驚いた。でもこいつは確かにその電話の先に生きている。こことは違う世界でな」
「か…からかってるの…?」
蛍は信じきれない様子で冷や汗をかいている。
「信じられないと思うけど、本当なんだ」
「えっと、2人とも何を言ってるんだね?」
武志も事情を知らないから困惑している。
「あ、武志くんはとりあえずいいよ」
「くっ…」
「あの、優梨さん?」
「は~い」
「私、3年前、あなたに不謹慎なことを言って、彼を傷つけたわ…。でも今はそんなこと思ってない…本当に反省してるわ。許してくれる…?」
「ん~、許すも何も…私は私が死んじゃったことすら記憶にないから、その後のことなんてなおさらわかんないんだよねぇ。でも天太を傷つけたのはめっ!だよ!」
「ごめんなさい…」
「でもでもっ!その様子じゃ大丈夫そうね!これからは天太と仲良くね!天太もね!」
「あぁ。俺もようやく胸のモヤモヤが取れた気がする」
「よかった…私…あれから本当に後悔していたの。入学間もなくだからバカにされないようにって気を張ってて…。そうしてあんなことを…」
「もういいさ。2年間一方的に恨んでたから、お前も深く苦しんでいたことに気づけなかったんだ。…俺ももう少し早く気づくべきだった。すまない」
「あ…あなたが謝ることないじゃない…」
そう言ってまた蛍は泣き出してしまった。
「なんか複雑なことがあったんだね…」
そう言って吉野は背伸びしながら蛍の頭を撫でていた。
「俺が意地を張ってたんだ。それだけだ」
「天太くん…」
「お前ももう気にするな。ユーリは生きてるから尚更だ」
「うん…」
「あのー…僕にもそろそろ教えてもらっていいですかね?」
「あ、そうだった」
「武志、聞いて驚くなよ?」
「な…なんだね?」
「ストストの世界はこの世界と繋がっているんだ」
「は?」
武志は呆れたようにそう言う。
「あの…優梨さんのお話だったわよね?」
「そうだ。ユーリがいる世界に優梨は死んでから転生したんだ」
「ん…ん?なに?」
「つまり現実で死んだ優梨が世界を超えてユーリの肉体に入ったんだ」
「えっと…天太クン。ゲームと現実は違うんだ。一緒にしてはいけないよ」
「まあ…信じられないよな。でもな、お前のアバターのジヴルも生きているんだ 」
「あ…あぁ…そうかそうか。そうだったんだなぁ。ははは」
「はははは」
「ふぅ…それで?優梨くんは別の高校の子かね?」
「いや信じてないな!」
「当たり前じゃないか!ゲームだぞ?人の作ったものじゃないか」
どうにも武志は信じきれないらしい。無理もないが……。
「人が作ったものじゃないとしたら?」
「…え?」
唐突に吉野が意味深なことを言い出した。
「お前…何か知っているのか?」
「何も知らないけど、もしそうだとしたらって可能性はいくらかあるんじゃない?」
「流石吉野君!君がそういうのならそうかもしれない!」
「こいつ…」
「でも確かにその声は優梨さんのものだわ…」
「あれからずっと憶えていたのか?」
「…忘れられなかったわ…。私、ひどいこと言ったから……」
「あー…もういいからさ。もう悩まないで」
「ごめんなさい…」
「そうそう。私も気にしてないからさ。枕元に立ってなんかいないよ?」
「やっぱりあれは思い込みだったのね…」
「立たれてたんだ!」
「そうだ、蛍。お前もしかして結構勉強してるタイプじゃないか?」
「どちらかと言えばそうかもしれないけれど…」
「ま…まさか天太…」
「勉強に付き合ってくれないか?」
「え?いいの?」
「なんか、ばからしくなってな。今までお前を避けていたことが。お互いにもっと歩み寄れるはずだったんだ俺たちは」
「あの~、じゃあ僕たちも~…」
「お前らは邪魔しかしないだろ?」
同行しようとした武志をばっさり斬り捨てる。
「そうかもしれないねぇ」
「じゃあいても…なぁ?」
「あら、吉野さんがいてくれたら捗りそうよ」
「え?なんでだよ。」
「わからない問題をいちいち先生に訊きに行く必要がなくなるからよ」
「はは。違いない」
「…信じてないだろうな」
「…あのね、蛍ちゃん…成績のことは天太にはナイショにして欲しいんだけど…」
「どうして?誇るべきことよ?」
「…なんか…嫌なの。見る目が変わっちゃいそうで…」
「そういうことならわかったわ。協力しましょう」
「ありがとう蛍ちゃん!」
吉野が蛍の背中に飛び乗っている。
「お前らも仲良くなったんだ」
「うんー!蛍ちゃん良い子みたいだから!」
「じゃあこの3人で勉強会がんばろうな」
「ナチュラルに省かれている…ッ!?」
「なんてな、ここまできてお前を除け者にはしないよ。お前も勉強しようぜ、武志」
「あ…天太君!」
「じゃあ…真の除け者は私ってわけだ」
携帯電話から拗ねた感じの声が届いた。
「あ…優梨は…」
「いいなぁみんな楽しそうだなぁ~」
「ユーリィ、またお仕事一緒にやろうよう!」
「ありがとうまいちゃん!」
「あ、そうだ!蛍ちゃんも一緒にやろうよ!」
「なに?」
「ストスト!」
「さっき言ってた…優梨さんがいる世界と繋がったゲームね…」
「なんとユーリィはこの世界で冒険者を助ける仕事をしているのだ!」
「そうなのか優梨君!」
「そうなんだよ!」
「だからまいたちがその冒険者のプレイを手伝えばユーリィは助かるってワケ」
「もしかしてこの間のNPCってのは…」
「そう!この世界の住人だったのです!」
「通りで話し方がそれっぽかったわけだ…アイランさん」
「いや、お前もな…」
「優梨さんの助けになるというのなら私もやらせてもらいたいわ」
蛍は快く承諾した。
「やったぁ!決まりだね!」
「あ~でもお前ら、ちゃんと勉強もだからな」
「わかってるよ~!」
「よろしくねみんな!今度は顔を見合わせて話せるようにしておくから…」
「楽しみ~!頑張ってねユーリィ!」
「……!うんっ!」
「あー…優梨」
「なぁに?」
「…俺も、お前の顔を見て話したい」
「まーくん…!」
「頑張れよ」
「うん!」
「そうそう、それだよそれ!」
「茶化すな…」
「えへへ。でも嬉しいな。友だちたくさん増えたね」
「みんなお前とも友だちだ」
「もちろん!」
「僕もいいのかい?」
「てめーはだめだ」
「ぐあぁッ!」
武志は床に崩れ落ちる。
「冗談だ」
「ははは。そうだろうそうだろう」
次の瞬間にはもういつものようにキメ顔で笑っていた。どういう情緒だよ……。
「じゃあユーリィ!早速お仕事みんなで行こうよ!」
「嬉しいんだけど…今日はまだ依頼人がいないの。ごめんね…」
「それじゃあ仕方ないね…」
「まあいつでも呼んでくれたまえよ。天太君の親友というのならば文句は一切ないよ」
「うわぁ、武志くんありがとう!」
「んじゃ、とりあえず昼にまたな。職員室の近くでこんな固まってるわけにいかんし、そろそろ先生に声かけてこないと」
「あ、そうだった。じゃあね、ユーリィ」
「はーい」
通信は切れた。
「蛍ちゃんももしよかったらお昼一緒にどう?」
「え…いいの?」
「どうなの?天太?」
「…んー。いいよ」
「いいの?私なんか…」
蛍は申し訳なさそうに指を突合せている。
「俺も悪いと思ってるんだ。こいつと仲良しになったんならその方がいいだろう。…まぁ別に俺の席で集まる必要もないんだが…」
「まいはストストもやらなきゃだから必要あるの~!」
「はいはい」
「じゃあまた後でね。よろしく、天太君」
「はいよ」
蛍と別れて3人で教室に戻った。
「遅かったな」
職員室に入ると先生が待ち構えていた。
「先生のおかげでまいたちおともだちができました!」
「ん?ふぅん、よかったな」
「うん!」
「じゃあお前らには褒美をやる」
「ええっ!なになに!?」
「ほら」
そう言って先生が俺たちに差し出したのは、ひとつの箱だった。
「なんですか?」
「ま、開けりゃわかるよ」
そう言って先生は去っていった。
「な…なにこれ…」
「雑用の報酬なんだ。大したもんじゃないだろう」
「宝箱を開ける時ってのはいつだって興奮するものさ…!」
武志はやけに嬉しそうにその箱を見つめている。
「じゃあ武志、開けていいぞ」
せっかくなので微妙なものだったら逃げられるようにさせてもらう。
「あ、なんか離れすぎじゃないかな?」
「天太の考えもわかるよ…。でもまあ大丈夫なんじゃない?」
「ではなんで君は離れた天太君のさらに後ろにいるのかね…」
「いちおうってやつ」
「まあいい。開けるよ」
「ごくり…」
武志が箱を開けた。
「な…なんだねこれは…ッ!」
「なんだなんだ?」
武志の開けた箱を覗き込むと…。
「え?紙?」
箱の中に入っていたのは1枚の手紙だった。
「あの先生がなんでこんな回りくどいことを…」
「いたずらじゃない?やりそうだよ」
「まあ中を見てみようじゃないか」
「それもそうか」
俺はその手紙を手に取り開いた。
『警告 ジュダストロの秘密に触れるな』
「……は?」
「なに…これ」
「やっぱりいたずらじゃないか。しかしあの先生にしてはやけに子供だましだな」
「っていうか…ジュダストロってなんだ?」
「天太、どうもこれは遊びじゃ済まなくなりそうだよ…」
吉野がいつになく真剣な顔で呟いた。
「え?」
「何か知っているのかね?」
「ユーリィのいる世界…まいたちのゲームの世界。それがジュダストロなんだよ」
「な…何を根拠に…」
「ストスト…何の略か知ってる?」
「あぁ、ド忘れしてそのままだったな。タイトルなんて気にしないから…」
「じゃあわかんなくて当然かも…だってストストは…ジュダストロ・ストーリーの略だから」
「ジュダストロ・ストーリー?それが何の…あ…」
「ジュダストロと、そう言ったんだね?ということは…」
「そう。こんな警告をしてくるくらいだから、もしかすると危ないことなのかも…」
「いやさ…でも、そうだったとしても、俺は気にしないぜ」
「どうして?」
「ユーリがいる世界だからな。俺はもうあいつを1人にしない。約束…しちまったしな」
「天太…。わかった!まいも続ける!」
「君たちが続けるというのなら僕もそうしない訳にはいかないな」
警告…というのは少し気になるが俺たちはストストを続けることを選んだ。
やがてその選択が、俺たちの日常を大きく変えていくことをこの時の俺たちは知るはずもなかった。