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ボクとお茶会事件

作者: 椋鳥君

1773年。インディアンのふりをしたアメリカの革命家達が、イギリスの貿易品である紅茶を海に捨て、自治権の主張を行った。その時の指導者が、サミュエル・アダムズという人だったらしい。

7月17日。クラスメイトの留学生クラウディアが、カズヤをお茶会に誘った。夏休み初日からけっこうなことである、

そしてボクことサムエルは、さしずめそれに反旗を翻す革命家といったところか。


※珍しくラブコメ風味です。多分。

「ボクとお茶会事件」


「助けてくれサムエルぅ!俺、クラウディアに嫌われちまったかもしれねぇ」

日直の仕事から解放されたボクを待っていたのは、教室でまっ青な顔になったカズヤだった。手には何やら英語の書かれた便箋、隅には赤ペンで書かれた心臓のマーク。大体の事情を察したボクは、ため息をこぼしながら席に着いた。

見なくても分かる、差出人はクラウディア=イースター。昨年転入してきた、イギリスからの留学生。日本のアニメが趣味で、性格は気さく。日本語もほどほど話せる……が、どこか変なところで抜けていて、時々怪しい。そんな様子から、転入直後から男女問わず注目の的になっていた。かく言うボクらもまた、クラス委員という名目を盾にクラウと積極的に関わっていたクチなのだが。因みに、紛らわしいがサムエルというのはあだ名であり、ボクには宇佐美という苗字がある。

「さっきクラウディアがさ、俺にこれを渡しながら言ったんだ。『カズヤ、アナタにチャマツリをあげます。コマカいの、ここに』」

 目を細め、裏声を出しながら手紙を差し出すカズヤ。クラウの本意はともかく、このモノマネは本人の前ではやらない方が良いだろう。それはそれ、肝心の内容だが……

「Inviting For Tea Party、お茶会へのお誘いだね。流石にTeaくらいは読めて欲しいんだけど」

 クラウはある程度までしか日本語が話せず、クラスの生徒の大半は英語が話せない。そのため、こういう時にはボクやら、カズヤのグループならユウトあたりにお声がかかり、通訳をさせられる。そうでなければ、クラウディアはその整った顔に皺を寄せ、物言わぬ彫像になってしまう。

「Next Saturday, 17. 今週の土曜に、駅前のカフェだってさ」

「さすがサムエルだぜ!いやーしかし、あんな怖い顔で血祭りとか言われたから、果たし状でも貰っちまったのかと思ったよ」

「……そりゃあこんな、ハートの書かれた招待状を渡すんだ、緊張もするだろうさ。まあ、あのクラウのことだから、深い意味はないだろうけども」

 そんな調子で、手紙を訳すこと10分程度。ちょっとしたお誘いにしては手が込んでいる気がするが……、諸事情で携帯が使えないというし、そんなものかもしれない。

「そんなんで本当に大丈夫?見た感じ、通訳できる人来そうな感じがしないけど」

「だよなぁ。……なぁ、サムエル。その日、来て貰えたりしないか?」

「ボクが?まあ、暇してたとこだし良いよ。クラウとも、学校じゃあんまりゆっくり話せないしね」

よしきた、という気持ちを表に出さないようにしながら、了承する。Partyという題に相応しくない、Onlyという文字を読み飛ばした甲斐があった。

その後、いくらか確認をしてから去っていったカズヤを見送ると、ボクは再びため息を零した。今度は、若干の安堵と、幾分か増した緊張感が混じっていた。


ボクこと宇佐美エリカは、あの手紙のもう一つの意味に気付いていた。ハートを四角で囲い、その横に添えたイニシャル。あらかた、「怪盗の予告状」ってやつのイメージだろう。

それをわざわざ、カズヤが読めない英語で書いて、しかもボクとカズヤが合流する直前によこしたのだ。読み書きの方が得意なクラウディアがそうしたのは、カズヤ以外にもう一人の「読み手」を考えてのこと。つまるところ、カズヤを手に入れてやるという予告状、あるいは宣戦布告である。そういう意味では、カズヤの「果たし状」という予感もあながち間違いではなかったのかもしれない。

 カズヤはボクの幼馴染であり、それ以上でも以下でもない。高校に上がってからは、お互いそれぞれ別のグループでまとまるようになり、接点はさらに減ってしまっていた。そんな中、グループなんて概念を気にも留めず、興味のある所にグイグイと行くクラウディアは、ボクにとってはある種の架け橋でもあった。そしてまた、今ではボクの大事な友人の一人でもある。

 そんなクラウからの、ある種のフェアプレー精神とでも言うべき挑戦とあっては、受けない訳にはいかないだろう。招かれざる客としてのご招待に、存分に預からせてもらおう。

 

 決戦は3日後、夏休み初日。勝利条件はカズヤのハートの獲得。風向きはやや向こうが優勢だが、譲るという選択はできない。

 さあ、ボクらのお茶会事件の始まりだ。


「チャマツリ」という言葉から膨らませて書きました。


本文に載せそびれていましたが、クラウディアは「白い手袋(ヨーロッパで決闘を意味する)」も手紙の端に書いています。2割のスポーツマンシップ、3割の友情、残りの5割は茶目っ気によるものです。


お互い、挑戦心はあっても敵意は無い、という感じが伝わってくれれば幸いです。

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