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全身義体と大トカゲ



 「はははっ!! きっと的がデカいからどこでも狙い放題だろうなぁ!!」


 ルールーは村の外れに到達すると、脚部の補助バランサーを準備しながら電磁ライフルを構え、相手が姿を現すのを待つ。


 直ぐに一際大きい震動と共に少し離れた場所の廃墟が吹き飛び、立ち上る地煙の陰から巨大な何かが近付いて来る。相手が間違いなく接近してくるのを確認すると、バシャッという開放音と共にふくらはぎの外骨格が割れ、脚部から離れた装甲板が横に回転するとそのまま地面を捉える。小柄なルールーの義体では、高い精度が求められる狙撃や衝撃でブレが発生する連射の際に必要な役割りを果たすのが、補助バランサーと呼ばれる副脚部だ。


 続けて背部の拡張ジェネレータが放熱の為に開き、冷却タービンを回転させつつ低消費モードから高出力モードに移行する。多層型タービンブレードが一気に回転を増し、甲高い駆動音と共に膨大な熱量を放出する発電モーターが青白い光を放つ。現代科学の粋を極めた最高の個人携行兵器、それがルールーの持つジェネラル・エレクトロアーミー社製の十二ミリ電磁ライフルなのだ。


 「…こりゃあ大物だな…っ!!」


 射程距離に入った異世界生物の姿を視認すると、ルールーは不敵に笑いながら呟く。廃墟の高さと比較しても優に三階建ての構造物に匹敵する巨体が、二人の目の前に現れたのだ。


 …ブヒュッ、と鼻から息を吐いて身体を揺らす相手は、硬い鱗に覆われた巨大なトカゲに見える。しかし、その表皮はゴツゴツとした岩のように隆起し、小さな鱗が見えなければ岩山が動いているように思える。そしてその生物はルールーとダンカンの姿を小さな眼で確認し、幾度か舌を出し入れしながら様子を伺うように足元を踏み締めた後、姿勢を低く保ちながらゆっくりとした歩みで進み始める。


 「ダンカンッ!! こっちはチャージに時間かかるから、お前ぇの豆鉄砲で頭かち割れ!!」


 前方に位置するルールーが叫ぶと、後方のダンカンは腰を落としてルールーと同じように補助バランサーを展開し、構えていたガトリングガンを突き出しながらトリガーを押し込んだ。


 …ヴヴヴヴヴヴゥーーーーーッ!! という音と共に銃口から長大な発砲炎を吹き出しつつガトリングガンが唸りを上げ、毎分二千発に及ぶ猛烈な量の銃弾が敵に向かって集中し、巨大なトカゲの頭部が爆発したような煙に包まれた…が、


 「…っ!? 何だコイツっ!!」


 ダンカンが異変に気付くと同時に煙が薄れ、その背後から一掃射受けた筈のトカゲの頭部がヌッと現れる。しかもほぼ無傷のまま左右に頭を振ると、再び一歩踏み出したのだ。


 「ルールーッ!! ガトリングが効かねぇぞコイツ!!」

 「気にするんじゃねぇ! バンバン当てて牽制しとけ!!」


 言われてダンカンも再びトリガーを押し、大トカゲの前進を阻む為に撃ち続ける。残弾数を考え、時間稼ぎをする為時折指を離しては撃ちを繰り返すが、


 「…ちっ、弾切れかよ…くそっ!!」


 モーター駆動の銃身が空回りしながらベルト給弾も尽き、ダンカンは舌打ちしながらガトリングガンをラックに載せ、ショットガンに持ち替える。拡散弾から12番ゲージの単発に素早く装填し直し、補助バランサーを解除しながらトカゲの顔面を撃った。


 セミオートショットガンから鋼鉄のベアリングが飛び、再び顔面に炸裂したが…やはり相手は微動だにしない。歩みを停める事すら出来ずと判りながら、ダンカンは諦めず狙いを定めた。


 ルールーの間近までトカゲの巨体が迫り、大きな口を開き彼女の上から覆い被さるように食らい付こうとした瞬間…



 「…ママタィッ(くたばれ)!!」


 ルールーが唐突に聞き慣れない単語を口走りながら、電磁ライフルのトリガーを引き絞った。すると今までガトリングガンを散々弾き返してきたトカゲの眉間に小さな窪みが生じ、直後に弾頭が後頭部から天に向かって消えていく。


 …そして、一瞬の間が空いた後、トカゲの顔面が内側に向かって沈み込んだかと思うと、頭の後ろ半分が爆発四散する。

遅れて身体が前のめりになり、ルールーの直前に半分砕け散った頭部がズシンと落ちた。


 「よっしゃ!! 案外楽々だったな!!」


 パチンッ! と指を鳴らしながらルールーが叫んだ瞬間、ドシャリとトカゲの表皮が崩れて形を失い、どんなもんだい、と言いかけたが…


 「おいっ! 何か出てきたぞ!?」


 ダンカンが言うや否や、その破れた表皮の下から桃色の皮膚が見え、みるみる内に硬い鱗で包まれていく。やがて岩山のような表皮から現れたのは、一回り小さなトカゲの化け物だった。


 「おいおい、脱皮しただけなのかよ…」

 「殻は脱ぎたてなら柔らかいんじゃねぇの? まあ、ソフトシェル・リザードなんて聞いた事無いがなっ!!」


 新たに出現したトカゲもやはり身体は大きく、優に廃墟の二階部分に頭が届く。そして元の身体を破壊した相手が居る事を理解しているらしく、ルールーとダンカンの手前で様子を窺っている。


 「まあ、どちらにしても撃てば判るか」


 言葉と共にダンカンのショットガンが火を噴き、トカゲに鋼鉄の弾丸が飛ぶ。だが、トカゲは大きな身体から想像も出来ない機敏な動きで後退して避けてしまった。


 「ルールー!! 距離が近過ぎて当てられんぞ!」

 「だったらやる事は一つだなぁ! 近接戦闘(仲良しダンス)と洒落込むか!!」


 有効射が出せず焦れるダンカンに、ルールーは冗談めかして電磁ライフルからチェーンソーに持ち替えた。




 



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