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 大型の発電ジェネレータを搭載した外骨格を身に付けた時と違い、ルールーは内骨格のみの姿で二人の子供とたわむれていた。その表情は喜びに溢れ我が子と接する若い母親のようである。


 「きゃはははははっ!! おねーちゃん、すごい力持ちっ!!」

 「そーだろぉ? お前ら二人なんぞ紙より軽いんだっつーの!」


 まるでお手玉を放り投げるように、軽々と二人を投げ上げては掴み、右に左にと操る様は熟練の軽業師のよう。無論、彼女の義体性能から見れば当然の話なのだが、生身の子供達にしてみれば驚嘆して然るべしだろう。


 「ねーねー、次は何するぅ?」

 「だったら私、おっかけっこしたい!」

 「んぁ? んなもん私が勝つに決まってんだろ!」


 肩に担いだ二人とそんな話をしながらルールーがヨモギの隠れ家に戻ってくると、二人の母親が帰りを待っていたのか姿を見せる。


 「ほら、お姉さんはお仕事があるのよ? お家に戻りましょう」

 「えー? まだあそびたいなぁ~」

 「もうおしまいぃ? つまんないなぁ…」


 二人の子供はそう言いつつルールーに降ろしてもらい、名残惜しげに母親に連れられて帰りかけたが、


 「じゃー、またねぇ!」

 「おねーちゃん、またあそんでねぇ!」


 口々に叫びながら振り向き、手を振って別れを告げてから去っていった。





 「おっ、何だよ。二人とも辛気臭い面して何話してたんだ?」


 戻ってきたルールーがダンカンとヨモギの顔を見比べながら尋ねると、先に口を開いたのはダンカンの方だった。


 「ルールー、自決用アンプルを外せるって聞いたらお前…信じるか?」

 「アホな事を言うなよ…自決用アンプルってのはよ、頭ん中に入れられてんだぜ? しかも作動キーは二個で…って、まさか…」


 ダンカンの話を鼻で笑いながら聞き流そうとしたルールーだが、彼の手の中からテーブルの上に転がり落ちたシリンダーを見て、言葉を失った。


 「…これでも信じない訳は無いだろう。俺のアンプルだ」


 透明な液体が満たされたシリンダーには、ナノマシンと猛毒のテトロドトキシンが詰まっている。無論、無理矢理外そうとしただけでシリンダーは破裂するし、万が一外せたにしても通常時なら遠隔機能不全が発覚すれば、直ぐに逃亡防止プログラムが発動される筈だった。


 「もしかして、ヨモギよ…あんた、これを外したのか?」


 まるで手品師の技を見せつけられたような表情のルールーが尋ねると、ヨモギは当然だと言わんばかりに頷いた。


 「ええ、勿論。シリンダーに付属している起爆装置を外す前に、ナノマシンを投与して装置を一時的に停止させてから外したんです。但し、作業は同時に行わないと成功しませんが」


 彼の行った作業は、例えるなら右手で爆弾を解体しながら左手で手術を施すようなものである。生身の人間がそこまで精密な作業が出来ると思えないルールーは、絞り出すような声で話すのがやっとだった。


 「…そういや、前に言ってたな…全身義体化兵のメンテナンスしてたって」

 「ああ、()()()()()()()()()()ね」


 ヨモギの返答を聞いたルールーは、まるで他人事のような言い方に片眉を吊り上げた。


 「ヨモギよ、あんた本当は何者なんだ? ダンカンや私を引き込んで何をやらかす気だ」

 「私は別に何か企んでいるつもりは…」

 「本気で答えろっ!!」


 彼女を(なだ)めるヨモギの言葉を遮ると同時に、ルールーは傍に置かれた外骨格からヴォーバルを掴み、目にも止まらぬ速さで抜くと彼の鼻先に突き出した。


 「要件だけでいい、余計な事は言うな…」

 「…仕方ないですね。私は皆さんが【魔王】と呼んでいた者ですよ」


 「…嘘じゃねぇだろうな?」

 「ええ、嘘じゃありません。但し、前回の戦いで余力を使い果たして、今は只の放浪者に過ぎませんがね」


 答えを聞いたルールーは舌打ちしながらヴォーバルを引き、黙ったまま続きを促すように切っ先を向けたまま頷いた。


 「ルールーさんは驚かないんですか?」

 「別に。あんたが何だろうと気にしないし、殺せるなら殺す。ただそれだけさ」


 そう言い切られたヨモギは微笑みを浮かべ、それで構いませんがねと話を続けようとしたが、ルールーに遮られる。


 「まどろっこしい前置きは要らねぇからよ、あんたに結線ジャックインさせてくれや」


 「…えっ?」

 「おいおい! 何考えてんだよ!?」


 ヨモギはルールーに電脳同士を有線で繋ぐよう提案されて戸惑い、居合わせたダンカンもつい声を荒げてしまった。


 「よりによって元【魔王】と繋ぐだと!? 自分が何を言ってるか判ってんのか!!」

 「ガタガタ騒ぐなって…いいか、ダンカン。私は間違いなく正気だぜ? 【上手くやりゃあ、こいつの知識全部頂けるじゃねーか】」


 不意に秘匿会話に切り替えてルールーがダンカンに話し掛け、意図を察した彼も同じようにしながら答える。


 【しかし、魔王と繋がるって事は…禁止されている異世界との情報交換を行うのと同じだろ】

 【だから何だ? これからも擦り潰されるまで魔物狩りして、元の身分に戻れる保証なんざ無ぇ。それなら保険の一つや二つ有ってもいいじゃねぇか】

 【…どうなるか、判らんぞ】

 【もしかしたら私が魔王になっちまうかもな】


 ルールーの返答にダンカンは、そうなったら力ずくで止めるぞと電磁ライフルの銃口をルールーに向けた。


 「ああ、それで構わねぇ。じゃあ、早速繋がらせてもらうぜ?」


 そう言うと一瞬の動きでヨモギの頭に手を当て、腰から有線ケーブルを引き伸ばすと先端のパッチを彼の首筋に押し当てた。


 

 

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