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隠された裏技



 上位ランカーの一人、ケーニヒスと相方のニーラは無人運搬車両から降車し、繁華街の跡地から住宅街へと入った。往時は人々の生活が営まれ、車や人が行き交っていたであろう道路には壊れたままの車が放置され、所々に焼け焦げた跡や人骨が転がっている。


 「…分散して捜索するにしても、もっと良い手立てはなかったのか」

 「さぁな、俺達に判る訳ないだろ…しかし、現状だと免責条件が変わる可能性もあるな」


 ケーニヒスの呟きにニーラは答えつつ、しかし周囲の警戒を怠らず進み始める。無人運搬車両は前回と同じ場所まで彼等を運び、待機状態になる。


 「さて…ルールー達に遭遇するのが先か、化け物共に出会うのが先か…」


 機械達と離れたケーニヒスが、ポツリと呟いたその時。幾度もオールド・トーキョーに足を踏み入れて来た彼は神経を研ぎ澄ませる。


 僅かながら人の声、と言われればそう聞こえるが、動物の鳴き声と言われればそう聞こえなくもない。そんな短い声が聞こえた気がする。だが、ケーニヒスの決断は早かった。


 【ニーラ、不確定要素を排除する。視野範囲外を音源探査だ】

 【…了解、集音開始】


 二人は姿勢を低くしながら義体が発する音源を抑える為、心臓を一時的に停止させる。そのまま周囲の音を探り、視覚情報と同期させて三次元マップを形成する。結果、周辺に潜む無害な小動物と、それ以外の正体不明の音源と識別毎にマーキングされていく。


 【…二時の方角に一掃射】

 【了解、一掃射…】


 ケーニヒスの言葉を復唱しながらニーラが構え、合図と同時にマーカーを次々と狙い電磁ライフルで消去していく。無論、それが何か判別せず冷徹に処理を続ける。


 【マーカーを全消去確認】

 【よし…行くぞ】


 彼等が中腰の姿勢から立ち上がり、荒れ果てた庭の片隅から玄関の前を横切ろうと踏み出した時、ドアの外れた玄関から少女が飛び出して来た。


 十代後半…なのか、未発達の胸部も陶磁器のような白い肌も露わにし、よろけるように現れた姿にケーニヒスは一瞬動きを止めたが、素早く電磁ライフルから至近距離で取り回し易いサブマシンガンに持ち替えると、腰だめの姿勢でトリガーを引いた。


 ヴァララララッ、と連続した発砲音と共に軽機関銃特有の振動を伴いながら少女の腹部に集弾し、真っ赤な血が辺りに飛び散った。


 だが、ケーニヒスは見逃さなかった。少女の突き出した掌に血が集まり、そのレンズ状の表面を滑るように銃弾が逸れていくのを。


 【…ニーラ、距離を保て。魔物だ】

 【了解、弾幕で距離を稼ぎます】


 ケーニヒスより大型のドラムマガジン(円盤状の多弾倉マガジン)を装着したニーラのマシンガンが火を噴き、少女の全身を銃弾が包み込む。だが、相手は血のレンズを更に拡大し、面制圧力の高い銃撃を防ぎながら体勢を整えると背中から翼を出し、跳ねるように庭の壁を蹴って空に舞い上がった。


 【…物理攻撃を遮る相手なら、その攻撃は効果が有るのだろう。幽霊紛いなら、避けたりしない】

 【距離を保ちながら後退しましょう、援護します】


 ニーラとケーニヒスは秘話機能で会話しながら互いをフォローし合い、マガジン交換を交えながら飛び上がった少女に銃口を向け続けたものの、相手を撃ち落とす事は出来なかった。


 【…討ち損じたか。自らの血を操る所を見ると、吸血鬼か何かか…】

 【…残弾数が半分を切った。一旦戻りましょう】


 連続射撃で湯気を上げる銃身を降ろし、ケーニヒスがニーラの方を振り向くと、彼はドラムマガジンを外して新しい弾倉に交換し、無人運搬車両を残してきた方角を指差した。


 「…闇雲に進んでも無意味か…ルールーの奴、まさかこれも計算済みではないだろうが…」


 ケーニヒスは抑揚を欠いた平坦な声で呟くと、少女姿の魔物が消えた方角をもう一度だけ眺め、その場から立ち去った。






 「あれ? さっきまで繋がってたのによ…そっちはどうだい」


 戸惑いながらルールーが耳元に当てていた手を離し、ダンカンの顔を窺うと、


 「…無理だな。こうも気紛れに繋がったり途切れたりすると、ヨモギのトンデモ理論も否定し難いか…」


 例の【現世を異世界が包み込んで不安定な状態】だと言う主張を、肯定的に捉えるしかなさそうである。

 しかし、何事も裏付けが無ければ信頼性に欠ける。そう考えると彼の主張を確かめたくもなるが、ルールー達にしてみればたかが個人が多少動いた所で、果たして環境に変化が訪れるものであろうか。



 それはそうと二人が今、身を置いているのはヨモギの隠れ家である。当初は滞在する気は更々無かったのだが、帰投するべき基地と通信も途切れがちの現状な上、捜索とは名ばかりの人間狩り対象になった現在は、当初のわだかまりも薄まっていた。


 しかし、ルールーにとって最も大きな変化は…



 「…ヨロイのおねーちゃん!!」

 「ねーねー、あそぼーよ!」


 バタバタと騒がしく現れた男女二人組の()()()()()()()()が、ルールーに向かって飛び付いてきた。


 「うっせぇ!! 部屋ん中で騒ぐなっ!!」


 外骨格の増加装甲(第四世代の全身義体化兵は内骨格だけ自発的に離脱出来る)を外してスリムな身体になったルールーが、部屋に入ってきた二人に怒鳴り付ける。彼女とダンカンはヨモギと有線で義体を直接繋ぎ、彼の脳内で構築された【異世界人との言語交流】をダウンロードしたのである。


 「えーっ? じゃあおねーちゃん、遊んでくれないの…?」

 「つまんないなぁ…」


 以前は異世界人との交流を一切避けていた二人だったが、最初に態度を変えたのはルールーだった。


 「そー言う事じゃねぇ。部屋ん中じゃ騒ぐな、って言ったんだよ。つまりなぁ…外なら構わねぇって事だ!」


 そう言うと二人に飛び付いて抱き抱え、きゃあきゃあ騒ぐのも構わず開いたままのドアから外に出て、そのまま走り去ってしまう。


 「おーおー、ルールーの奴ったら…」

 「まさか、あそこまで子供達と遊ぶのが好きだったなんて…何だか意外です」


 開け放たれたままの扉の向こうからヨモギが現れると、呆れ顔のダンカンの傍にやって来て話し掛ける。


 「…まあ、俺よりずっと若いし、生い立ちを聞けば恵まれた家庭で育った訳でも無いようだからな。自分の代わりに子供を可愛がりたくなる性分なんじゃないか?」

 「そうなのかもしれませんね…ところで、お二人にお勧めしたい事があるのですが…」


 そう言ってヨモギがダンカンに問い掛ける。その表情の変化を読み取ったダンカンは、リラックスした姿勢から腕組みし口を真一文字に閉ざした。




 「…自決用アンプルを停める手段が有りますが、どうしますか?」




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