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追われる立場



 「…それで、羽根の生えたライオンみてぇな奴だったけどよ、こいつで一発で仕留めたぜ!」


 ヨモギの元に戻ってきたルールーがそう言うと、彼は設置されたマーカーをモニターで捉えながら、


 「ええ、それはマンティコアと呼ばれる魔獣です。一発とはまた、良い腕していますね」


 ヨモギがそう評すると、ルールーはまんざらでもなさそうにニヤリと笑い、


 「ああ、良い腕さ! それに義体の性能もダントツとくりゃあ、怖いもん無しだな!」


 得意気に言い放ち、担いでいた電磁ライフルをテーブルの上に載せた。


 「それにしても、たったの四日粘るだけであんたの求める変化は起きるもんかね」

 「それは確定している訳ではありませんが、かなり変化が起きているのも事実です。マーカーの発信電波がこれだけ明確に受信出来ていますし」


 そう答えるヨモギの傍らにダンカンが立ち、二人の会話に混ざる。


 「…二人とも浮かれた話に水を差すみたいで悪いが、回線が少し回復してきたみたいなんだが…」

 「おっ! 早速兆しが見えてきたみてぇだな! で、どんな具合だ? ハヤマは元気してっか?」


 そう快活に話すルールーだったが、ダンカンの返答に彼女は表情を変えた。


 「…オールド・トーキョー砂漠駐屯地から、俺達を捜索する部隊が派遣されたらしい。但し、俺らの生死は問わず、って事みたいだ」


 「…つまり、()()()()()()()()()って意味だろう」





 【おいっ!! ハヤマ!! 返事しろってんだよっ!!】


 まさか自分に直接連絡が来ると思っていなかった葉山は、しかも()()()に出たトイレの中でルールーの声を聞く羽目になった。


 【…ルールーさん!? 今何処に居るんですか!】

 【ああ? 何処に居るだと? んなもんオールド・トーキョーに決まってるじゃねーか!!】

 【そ、それなら良かった…もし、オールド・トーキョーを出たと判ったら、直ぐに遠隔で…自決装置を作動させられてたんですから…】


 ネット通信を介しての会話である。長くなれば他のオペレーターや監督に知られてしまう。そう考えた葉山は、直ぐに決断した。


 【…いいですか、ルールーさん。現在、お二方を追跡する為、基地内の全身義体化兵全員がオールド・トーキョーに出向いています】

 【はん! そんなの当たり前じゃねーか! …でも、全員かよ…で、いつまで戻れば良さげなんだ?】


 長々と話せないと理解し、葉山は手短に話す。


 【猶予はあと、三日です。自決装置を作動させるのは規定通りの四日目の午前零時、それまでに戻れば作動だけは回避出来ます】

 【けれどよ、オールド・トーキョーは電波変調が激しいんだろ? 一回や二回作動させた所で効き目有るのか?】

 【…四日目以降は、常に起動スイッチが入り続けますよ? のらくらしていても電波が回復した途端、アウトです!】


 【だから…それまでに帰って来てください!】




 「おい、ハヤマは何て言ってたんだ?」

 「…三日まで待つってさ。それと、義体化兵はフル・スクランブルだとさ」

 「うげぇ…そりゃ難儀だなぁ」


 通信を終えたルールーにダンカンが話し掛け、返答を聞いた彼は渋い顔になる。


 「ノーナンバーの新米共はともかく、ランカークラスの連中まで駆り出されてるとなりゃあ、出会ったら面倒だな」

 「ふーん、面倒だけで済むのか?」

 「…あのな、ルールーさんよ。こっちはお前さんが()()()を覚えた頃から海兵隊で逆さ吊りにされてたんだぜ? いちいち誰々が来るからってビビってたら仕事になるか」

 「おーおー、オッサンがムキになっちゃって…でも、そっちがそうなら仕方ねぇよな? 最新型の性能って奴を存分に見せてやるぜぃ!」


 そう言うとルールーが拳を突き出し、ダンカンもニヤリと笑いながら自分の拳を押し付けた。




 【…メーデー! メーデー!! 畜生、どうなってんだ!? ガーランドがやられた!!】

 【単独では無理です! 直ぐに離脱してください!】


 オールド・トーキョー駐屯地内のオペレータールームは、義体化兵の悲痛な叫びとそれに対応するオペレーターの声が交錯し、未曾有の混乱状態になっていた。


 「義体化兵(アタッカー)の状況は?」

 「…捜索継続可能な者は十四、破損し帰投途中が八、行動不能が四…交信途絶が、六です…」

 「一体どうなってるんだ…まるで一斉蜂起としか思えん!」

 「ランカーの【ケーニヒス】から、通信来ました」


 報告を聞いたブーソン監督が声を漏らすと、タイミングを合わせたように上位ランカーのケーニヒスから連絡が入る。


 【…現在、戦闘継続中だが…他の連中がどうなってるか知りたい】

 「こちら、ブーソンだ。半数以上が落伍している。そちらはどうだ」

 【…こちらは問題無いが…弾薬が尽きそうだ。一旦出直すので補給の準備を願いたい】

 「ああ、準備しておく」


 通信終了と共に換装区画へ作業用ドローンを配置させ、弾薬ケースや交換用パーツが保管庫からローダーに積載されて運び込まれる。やがて帰投したケーニヒスともう一体の義体化兵が換装区画に現れ、破損した装甲カバーを交換し弾薬を補給し始める。


 【…電磁ライフルの弾を弾き返す連中がゴロゴロ居た。報告書に無い奴にも出会ったし、現在のオールド・トーキョーは今までと違い過ぎる】


 デジタル通信で報告しながらケーニヒスは背部ラックに弾薬ケースを、そして使い物にならなくなった高周波ブレードを新しい物に換え、経口補給液を飲み干した。


 【…監督、ランカー以外は戻した方が良い。今のままでは全員死ぬ】


 ケーニヒスはそう告げながら無人運搬車両のラックを掴み、荷台に乗り込むと再びオールド・トーキョーへと戻っていった。





 

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