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あなたのために最強になる少女たち



このお話の主人公は「あなた」です。

多少の主人公の設定はございますが、基本的にお好きに解釈してもらって構いません。

物語は基本的にヒロイン視点で描かれます。

あなたは様々な場面で妄想に耽ってください。

さて、最終的にあなたのせいで世界最強になってしまう女の子達に囲まれるお話をお楽しみください。



◇◇◇


「いた!やっと見つけたぞ!」


村の端にある森の入り口で少女は少年のあなたに呼びかけています。

少女の容姿は、透き通った薄紫がかった銀色のショートヘア、少しハネた癖毛が印象的です。澄んだ青色をした瞳であなたを見つめています。


彼女の名前はエレア・リッター。

彼女もいずれ世界最強の一角となる女の子です。

あなたは彼女の幼馴染。

しばらくは彼女とのお話になります。

彼女はなぜあなたのせいで世界最強となるのでしょうか。

始まりはそのきっかけのお話です。



◇◇◇



【エ】「ハァ…ハァ…。

    …なんで君はこんなところにいるんだ?」


なんだか慌てて…

明らかに何か隠してる雰囲気だ。

怪しいなぁ…。



【エ】「内緒?まぁ別にいいけど…」


ふふっ。君は相変わらず隠し事が苦手だな。

まぁ君が言いたくないことなら私は聞かないよ。


【エ】「もし用が済んでるなら私に付き合ってくれないか?」


嫌そうな顔一つせず君は頷いてくれる。

やっぱりいいやつだな君は。


【エ】「ありがとう!じゃあさっそくやろう!」


腕の長さほどある木剣を君に手渡すとすぐに受け取って構えてくれた。

私はそれに丸盾を持ち、攻撃に身構える。


「…………!」


君はすかさず打ち込んできた。

それを盾で受け止める。

ガンッ!

私は大きく後ろに引くことで力をいなした。


【エ】「ぐっ…!相変わらず君の力はでたらめだな…!」


君は大の大人でさえ吹き飛ばせるほどの力を持っている。

君のお祖父様に鍛えられた筋力、さらに元々持ちうる豊富な魔力でそれを底上げしている。

そんな君と剣の鍛錬を積むことで私はもっと強くなれると信じている。


ガンッゴッガンッ!


剣と盾がぶつかる音が森に響く。

側から見たら私が少し押され気味のように見えるだろう。

実際そうなのだが、君の剣を私の剣で受けようものなら途端に私の剣が折れてしまう。

力も君ほどない私の剣で君に勝つには、こうして君の大きな隙を待つしかないのだ。


ガガッガン!


また大きく吹き飛ばされた私が体勢を立て直そうとしたとき、君は剣を切り返し、私に向かってきた。

体勢を立て直す前に、ここで決めるつもりだろう。


ブンッ!


君が振った剣は私の急所に向かっている。


ガンッ!


【エ】「そこだっ!」


私は盾で大ぶりの一撃を流れるようにいなし、君の喉元に剣を突きつける。

まいった。と君は両手を上げた。


【エ】「…………っ!!やった!やっと君から一本取れた!」


こんなに嬉しい日はないだろう。

今まで負けに負け続けてようやく君に勝ったのだ。

君は伝説の冒険者であった君のお祖父様に鍛えられ、さらに類稀な才能まで持ち合わせている。

そんな君と鍛錬を始めて5年。

初めての出来事だ。


【エ】「はっ。すまない。つい嬉しくてはしゃいでしまった。そんなに悔しそうな顔をしないでくれ。」


君は喜ぶ私を見てとても悔しかったようだ。

木剣をぎゅっと握って体を強張らせている。


【エ】「次やったら分からないんだ。よかったら明日も頼めないか?」


君は力強く頷いてくれた。

やっぱり君はいいやつだ。

できればこんな日がずっと毎日続いて欲しい。


【エ】「じゃあ今日はもう帰ろう。私も母に怒られてしまう。」


お互いに汚れた衣服を払い、2人で村へと向かう。

空は日が沈み始めていた。


◇◇◇


村へと戻ると君は私の家まで送ってくれた。


【エ】「ありがとう!ここで大丈夫だ。君が良ければなんだが…。また明日も私と剣の打ち合いをしてくれないか?」


君は笑って拳を突き出して来た。


【エ】「…!じゃあまた明日!君の家まで迎えに行くから待っててくれ!」


私たちは笑った拳を合わせる。

明日も君に会える。それだけで私は嬉しかった。


「エレア!またこんな時間まで遊んでたの!?」


私がビクッとすると君は心配そうな顔でこちらを見る。


【エ】「母様、申し訳ございません。次はもう少し早く…」

「またアンタなの!ウチの子を連れ出して!いつもウチの子と関わらないでって言ってるでしょ!」


母の怒りの矛先が君に向いてしまった。

ごめん。とすぐに割って入る。


【エ】「母様!私が無理言って彼に付き合わせているのです!彼は悪くありません!」

「あなたは黙ってなさい!」


バシッ

母様に私は強く頬を叩かれた。

身構えていなかった私は地面に倒れてしまう。


「………!」


【エ】「母様!すぐに夕飯の準備をしますので早く家に入りましょう!」


君が倒れる私を見て身構えた時、すぐ母を引っ張り家へと促す。

君が私を守ろうとしてくれるのはとても嬉しいが、今の君の力では平気で大人も怪我をさせてしまう。

そうなった時本当に君と一緒にいられなくなる。

それだけはさせまいと私は母を連れていく。


すまない。とアイコンタクトで君に合図を送る。

とても心配そうな顔をしている。

明日会ったら謝ろう。

また明日。と君を一瞥し私は家へ入った。


◇◇◇


バシッ


「エレア!何度言ったら分かるの!いい加減あんなお遊びはやめて私の言うことを聞きなさい!」


今日はいつ終わるのだろうか。

このところ毎日母は私を叱り続けている。


叩かれるのも殴られるのもそろそろ慣れてきてしまった。

今日も母の怒りが収まるまで私は謝り続けるしかない。


【エ】「ごめんなさい母様。しかし私は騎士を目指したいのです。」


「あなたはもうすぐ貴族様へ嫁ぐことになるのよ!そんなに薄汚れて傷でもついたら、なんのために貴方を産んだのか分からないじゃない!」


私の家はとても裕福だとは言えない。

私が幼い頃に父は若い女を連れ、母の元を去った。

それから母は女手一つで私を育ててきてくれた。

それにはとても感謝している。

だから私は強くなって騎士になることで母へ恩返しをしようとしていた。


しかし、母はそう考えていないようで、私が女になったとき貴族へ嫁がせると言う。


正直、好きでもない男のところへ嫁ぐのは嫌だ。

いくら母のためでもそれだけはしたくない。

だから私は母に怒られてでも君と剣を鍛えてきたのだ。


【エ】「お願いです母様!王国の騎士団入門試験が受けられる歳まで婚姻は待っててもらえないでしょうか。できれば私も好きな男性と結婚を…。」


言いながら君のことを考えてしまい、最後の言葉が出てこなかった。


「あなたに好きな男なんてまだ早いわよ!女が騎士になんてなれるわけないんだから!私の言うことを聞きなさい!」


外から見えない服で隠れる部分を強く叩かれる。

もはや殴る蹴るといったレベルだが、私は必死に我慢する。

母の言うことを聞けない私が悪いのだ。

きっと私が強くなれば、母も分かってくれる。


バシッ バシッ


【エ】「うぐっ…。うぅっ…。」


好きな男がいれば許してもらえるのだろうか。

母は私の幸せを応援してくれるだろうか。

君の顔が頭に浮かぶ。

これに耐えればまた明日君に会える。

きっとまた笑って私を待っていてくれるだろう。


「なんでっ!私のっ!言うことがっ!聞けないのっ!」


バシッ バシッ バシッ バシッ


【エ】「うっ…。ぐっ…。」


今日は一段と母様が怒っている。

君といるところを見られてしまったからだろうか。

だとしても君に会いたい。

母様に何度怒られても、君と会えないなど耐えられない。

君と会えるからこんな毎日も耐えられるから。

私はなすすべもなく、終わりが来るのを待つことしかできなかった。


◇◇◇


【エ】「ううぅ…」


朝だ。

体中が痛い。

あれから母様はずっと私を叱り続けた。

服の下は腫れ上がり、少し熱が出ている気もする。

しかし私は朝食の支度をしなければならない。


母様が言うには花嫁修行の一つらしい。

私の家の家事はほとんど私がしている。

母様は日中ほとんど家におらず、たまに毎回違う若い男の人と一緒にいるのを見かける。

朝早く出かける母様より早く起きて、朝食の支度をする。


【エ】「おはようございます母様。」

「………。」


無言で用意された朝食を食べ、いつものように派手な化粧をして母様は出てってしまった。


【エ】「ふぅ…。私も支度をしないと。」


君を迎えに行くと約束したのだ。

待っててくれと言った手前遅れるわけにはいかない。

出かける前に全ての家事を終わらせ、隠しておいた木剣と丸盾を持って家を出る。


◇◇◇


コンコン


【エ】「おはようございます。」

「おお。エレアちゃんか。いつもすまんのぅ。」


君の家の玄関を叩くと、君のお祖父様が迎えてくれた。

長身で白髪頭と髭が仙人っぽい。

君と同じでいつも優しい目をして迎えてくれる。


「………。」

【エ】「?」


なぜかお祖父様にじっと見つめられた。

どこか変なところがあっただろうか?


「すまんすまん。まだ孫は起きてこんのでの。ちょっと中で待っててくれんか。」

【エ】「あ、はい!ありがとうございます!」


見た目はどこにでもいそうなお祖父様だが、やはり元伝説の冒険者の目の前にいるとなると少し緊張する。

私は居間で君が来るのを待つことにした。


「そろそろ起きんか!エレアちゃんが迎えに来とるぞ!」


「…!」


君が慌てた様子で寝室から飛び出して来た。

寝癖で頭がボサボサだ。

クスッと思わず笑ってしまう。

なんだかそんなところも可愛いと思えてしまうのだ。


「…!」

【エ】「そんなに謝らなくても、私がちょっと早く来すぎてしまっただけだ。待っているからゆっくり支度をしてくれ。」


急いで支度をする、と君はドタドタと家の中をかけていく。

「まったく朝が弱いのはどうにも治らんのぅ…。」

呆れた目でお祖父様は君を見つめていた。


「ところでエレアちゃん。今日もウチの孫と稽古かい?」

【エ】「はい!その予定です。」

「ホホッ。そうかそうか。遠慮せずウチの孫をボコボコにしてくれて構わんからの。」


ポンポンとお祖父様が私の肩に触れる。


【エ】「…っ!!!!」

痛みでビクッと反応してしまった。

昨日の腫れがまだ引いていないのだ。


「大丈夫かの?」

【エ】「あ!いえ!大丈夫です!昨日彼に肩に打ち込まれてしまって…。まだ腫れが引いてないんです。」

「そりゃ悪いことをした!すまんのぅエレアちゃん。」


「…!!!」


お祖父様とそんなやり取りをしてる内に、君の支度が終わったようだ。


「おお、どうやらウチの孫も準備ができたようじゃな。」


お待たせ!と君は少し息を切らして私の前に立つ。


【エ】「ゆっくりでいいと言ったのに…。まったく。じゃあ、行こうか!」


今日も君と会えて剣の稽古ができる。

私はまた頑張れる。


「ちょっと待ちなさい。」


「?」

【エ】「?」


お祖父様に引き止められ、私と君は同じ反応をしていたようだ。


「今日はわしがお主らの稽古を見てあげよう」


「!?!?!?!?!?」

【エ】「え!本当ですか!?」


君は何故か凄く嫌そうな顔をしている。

私は元伝説の冒険者の指導と聞いて嬉しくてたまらない。

お祖父様は忙しいらしく、そもそも家にいないことの方が多い。

こうしてたまに指導をしてくれるのだが、その度に自分が強くなっているのを実感する。


「なんじゃ。お主、嫌そうじゃのう?」

「…!!!」


ブンブンと首を振り、明らかに硬い笑顔で返す君。

私は贅沢だと思うのだが。

まぁお祖父様の稽古は確かに少々、いや結構厳しいとは思う。

私はそれ以上に自分が強くなれるのが嬉しいのだが。


「では、まずはお主らがどれほど強くなったのか見せてもらおうかの。一度立ち合ってみせい。」


「…!」

【エ】「はい!」


◇◇◇


「今日はここまでにするかの。」


バタンッ

君はやっと終わったと地面に倒れる。


【エ】「はぁっ…はぁっ…。ありがとうございました…!」


相変わらず体中が痛いが、今日もまた強くなれた気がする。


「エレアちゃんを家まで送ってあげなさい」


倒れたままコクンと頷く君。

いつも以上に扱かれて疲れているはずなのに…。

また嬉しくなってしまう。

もしかしたら君は私のことが…。

いやいや。こんなことを考えては君に失礼だ。


「ちゃんと守るんじゃよ。」

「…?」


帰り際にお祖父様は君に話をしていたようだが、私はよく聞き取れなかった。


◇◇◇


そして私の家に着く。

じゃあまた明日といつもの会話をし、私は家に入る。


「エレア!!!!!」


家に入るや否や罵声が響く。


【エ】「あ…母様…」


不味い。

また母様より遅くなってしまった。

このところ母様が帰ってくるのがいつもより早い。


「昨日あれだけ言ったのに!!!!」


ガチャン。


手錠だ。

母様は私を家から出られないように繋いでしまった。


「もうあなたは家から出る必要はありません!」

【エ】「母様。それってどういう…」

「あなたの嫁ぎ先が決まりました。」

【エ】「!!!!!」

【エ】「騎士団の入門試験まで待ってくださいと言ったではありませんか!」

「私が待つ必要がどこにあるの?」

【エ】「…っ!それは…私にも人なりの幸せが…」

「あなたの幸せは私の幸せでしょう?」


バンッ


反論の余地なく、母様は私を居間に残し寝室へ行ってしまった。


【エ】「…もう少しだったのに。」


自分で言うのもなんだが、君と剣を鍛えて、お祖父様に指導していただいて、私はそれなりに強くなったと思っていた。


【エ】「こうなってしまっては、なんの役にも立たないな…」


ふふっ。

笑ってしまう。


【エ】「うぅ…。」


頬に雫が流れる。

どんなに稽古が辛くても、どんなに母に叩かれても、決して泣いたことなどなかった。

稽古が辛くても強くなれる。

母に叱られても君に会える。

そう思って今までやってこれた。


しかし今回はもう終わりだと分かってしまった。

もう強くなれない。

もう君と会えない。

そう思ったら今まで我慢してきたものがこぼれ落ちてきた。


いつかは分からないが、近い内に顔も知らない誰かと結婚させられるんだろう。

嫌だ。

さっきまで過ごして来た毎日が、もう明日からなくなってしまう。


君の顔を思い浮かべて、涙を流す。


【エ】「嫌だよぅ。助けて…。」


◇◇◇


おかしい。


あなたはそう思っています。

いつもならあなたが起きる前にやってくるエレアがいつになっても来ません。


今日は体調が優れないのだろうか。

昨日のお祖父様の稽古は厳しかったから起きれないんじゃないか。


あなたは色々考えてみますが、エレアは今まで風邪を引こうが、嵐だろうが何があっても欠かさずあなたに会いに来ていました。


『ちゃんと守るんじゃよ』


あなたはお祖父様の言葉を浮かべます。

あなたはエレアに、母様に見つかると不味いからと家に来るのは止められていましたが、エレアの家まで様子を見に行くことにしました。


◇◇◇


バシッ バシッ バシッ バシッ


「いつまで泣いているの!?あなたはもうすぐ嫁に行くのよ!そんな泣き腫らした顔をして貴族様に気に入られなかったらどうするの!」


バシッ バシッ バシッ


「あなたが泣き止むまでやめませんからね!私の今までの苦労を水の泡にする気!?」


【エ】「うぅぅ…ぐすっ…うぐっ…。」


早朝からずっと、母様は私に『しつけ』をしている。

私がいつまで経っても泣き止まないから、今まで母様に反抗をしていたから、貴族様に披露する前に母様の思う生娘に仕立て上げたいのだろう。


痛い痛い痛い。


体が、ではない。

涙が止まらない。


お願い…。

助けて…。



バンッ!!!!


凄い音を立てて玄関が吹き飛ばされた。


「きゃあ!なんなの!?」


母様が歳不相応な悲鳴をあげて玄関を見る。


「ちょっと!またあなたなの!?勝手にうちの玄関を壊して、どうなるか分かってるでしょうね!!!」


私は目を見開いた。

もう会えないと思っていた君がいた。

涙と暴力でぐちゃぐちゃになった私と君の目が合う。

一瞬凄く驚いた顔をした後、今までみたことないほど君は怒っているように見えた。


直後に君は木剣を振りかぶる。


「ちょっと!何する気…!?」


【エ】「やめて!!!!」


私は君を止める。

助けに来てくれたのはとても嬉しい。

だがダメだ。

君の力で母様を殴ったら死んでしまう。

君を人殺しにはさせたくない。


【エ】「私…結婚するの…。だからもう剣はやめる。君とももう会えないんだ。」


君はまた驚いた顔をして剣を下ろした。


「そ、そうよ!だからもうあなたなんかと連んでいる暇はないの!分かったらさっさとウチから出てってくれるかしら!?」


【エ】「私お嫁さんになるんだよ…?素敵でしょ?来てくれてありがとう。最後に君の顔が見れてよかった…。」


君に心配はかけたくない。

母様に逆らうことはできない。

私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を精一杯の笑顔にして君に語りかける。


「………。」


君は私の側に来てくれた。

優しく頬を撫で、涙を拭ってくれる。


本当に?

君はそう私に問う。


【エ】「ほ…ほんとうだよ……わたし…じあわぜだっで…おもっでる…。」


最後までちゃんと喋ることが出来ない。

本当は君といたい。

結婚なんてしたくない。


本当にそれがエレアの幸せ?

君に再度そう問われた。

もう私は限界だった。


【エ】「ううううぅ……うわあああああ!いやだよぅ!ぎみといっじょにいだいよぉおおおおお!」


今まで、誰にも見せたことがないくらい大きな声で泣いた。


「エレア!まだそんなことを!」


君はすっと私と母様との間に立つ。


【エ】「だめっ!君の力で母様を殴ったら死んでしまう!」


くっ。っと歯を食い縛る君。


「あなたたちはまだ子供だから分からないことがあるの。どうしようもないこともあるのよ。無駄だと分かったら早く帰りなさい!」


嫌だ。と君は動こうとしない。


「…あなたにも『しつけ』が必要みたいね!」


母様がまた腕を振り上げる。

反射的にビクッとしてしまう私の前で君は母様に打たれていた。


【エ】「母様!彼は他の家の子です!こんなことをしたら…。」

「お黙り!これは『しつけ』なのよ!言うことを聞けない悪いこの子がいけないの!」


バシッ バシッ バシッ バシッ


私を守るように母様からの『しつけ』を受ける君。

私のせいでこんなことに。

私が母様の言うことを聞かないから君にまで迷惑をかけてしまった。


【エ】「もうやめて…うぅ…ぐすっ。」


バシッ バシッ バシッ バシッ バシッ


それでも君は微動だにせず、母様の『しつけ』を受け続ける。


「はぁ…はぁ…。なんなのあなた!早く帰りなさいって言ってるでしょ!」


いくら『しつけ』ても参った様子を見せない君に、母様は痺れを切らし台所に向かった。

帰ってきた母様が手に持つのは鋼鉄製の金槌だ。


【エ】「母様!それはいくらなんでも!」


「うるさい!」


ゴッ!


鈍い音を立て、金槌は君の頭部に直撃した。

ポタッポタッと君の血が床に落ちる。


【エ】「あぁぁ…。」


私は真っ青になった。

いくら強くても金槌で頭を何度も殴られたら、このままでは君が死んでしまう。


【エ】「もういいよ…はやく逃げて…。」


それでも君はまっすぐ母様を睨み、立ち塞がった。


「…いつまでそうしてられる気でいるのかしら!これで終わったわけじゃないのよ!」


また母様が金槌を振り上げる。

全部私のせいだ。

ごめんなさい。ごめんなさい。


【エ】「母様…もうやめて…。」


祈るように呟き、目をギュッと瞑る。





「わしの孫に何をしているんじゃ。」


あの鈍い音がまた来ることはなかった。


「よもやこんなもので殴ったわけではあるまいの?」


母様の後ろに現れたのは君のお祖父様だった。

お祖父様は母様が振り上げた金槌を取り上げ、横目で私たちを見た。


「っ!!こ、これは『しつけ』です!この子たちが言うことを聞かないので躾けていただけにすぎません!」


「はぁ…こんなにボロボロになるような『しつけ』のぅ…。」


手錠をつけられ、全身アザだらけ、涙で目を顔を真っ赤に腫らしている私。

私の前に立ち、頭から血を流している君。


「悪いのじゃが、もう全て村に伝えさせてもらった。もう時期憲兵がやって来るじゃろう。」


「…っ!何を勝手なことを!誰の権限でそんなことを決められると思ってるの!」


「自分じゃ分からんのか。これは誰が見ても立派な虐待じゃよ。『しつけ』ではない。」


「ウチではこれが『しつけ』なのよ!他と一緒にしないでくれる!?」


「まぁそれは法が決めることじゃ。ほれ、もう来たみたいじゃな。」


外からガチャガチャと金属がぶつかる音が聞こえる。


「失礼いたします!この近辺で子供へ虐待があったとの通報があったのですが!」


家に入るや否や簡潔に言葉を発する一般憲兵。

部屋を見回し、状況を確認する。

目の前には血のついた金槌を持つ女性がいた。


「これは虐待ではありませんね。」


耳を疑う言葉が憲兵の口から出てきた。


「っ!そうでしょう?これはしつけなんです!」


「いえ、殺人未遂でしょう。罪は更に重くなります。おい!この婦人を連れて行け!」


言葉が終わると共に憲兵の部下らしき人が家に入ってきて母様の腕を掴み家から連れ出した。


「ちょっと待って!これは誤解なの!待って!離して!」


実の母親が連れて行かれてしまったのに、私の心は安堵感に満ちてしまっていた。

それに君のことが心配だ。


「わざわざ通報ありがとうございました。」


「なに、子供たちが危ないところじゃったのじゃ、当たり前のことじゃろう?」


「いつもならご自分で片付けてしまうではないですか。周囲の景色が変わるくらい…。」


「ほっほっほ。そんなこともあったかのう!」


「後始末に困るんですよ!次もちゃんと通報してくださいね!では、我々も戻ります!」


「ほっほ。ご苦労さん。」





ガチャガチャと君は私の手錠を外してくれている。

ポタッと私の顔に君の血が落ちてくる。


【エ】「大丈夫?」


私は心配だった。

いくら君が強くて丈夫でも頭を金槌で叩かれたのだ。


「………!」


平気だと笑って答えてくれる。


【エ】「ありがとう…。」


助けに来てくれて。



ガチャンと音と同時に手錠が外れる。


【エ】「あ…。」


立とうとしたが、まだ膝が震えて立てないようだ。


「さて、エレアちゃん。これからどうする?」


【エ】「正直、母様が牢屋から出てくるのを待つ気はありません…。なので、家を出て仕事を探そうかと…。」


君はまた驚いているようだ。

今日君は驚いてばかりだな。


「それもいいとは思うんじゃが、エレアちゃんが良ければウチに住んで欲しいのじゃが。」


【エ】「えっ…それは大変ありがたいお話なのですが…。いいのですか?」


「ウチの孫はまだまだ手がかかりそうでのぅ。老人1人では大変なんじゃあ。エレアちゃんがいてくれれば心強いんだがのう。」


君の顔を見る。

いつものように笑顔でうなづいてくれた。


【エ】「わかりました。家事も雑事も一通りできますので彼の世話と共にお任せください!よろしくお願いします!」


「ほっほっほ。賑やかになってええのう。では我が家へ帰ろうか。孫よ、修行じゃ。エレアちゃんを背負って帰りなさい。」


「…!」

【エ】「え、あ、うぅ…。」


よし任された!と言わんばかりに有無を言わさず君におぶられた。

まだ動けないので仕方ないのだが、少し恥ずかしい。


暖かい君の背中を感じ、全てが終わった安堵感で私はそのまま眠ってしまった。

また明日も君と一緒だ。

本当にありがとう。

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