歓迎試合
「みんな! 既に知り合っている者もいるかもしれないが、今日から一緒に君達と学ぶこととなる、オルレアン王国の第三王子、シモン=デュ=オルレアン君とクロエ=レスタンクール君だ」
「ただ今教授から紹介にあずかった、シモンだ。よろしくお願いする」
「クロエ=レスタンクールです。お見知りおきを」
そう名乗るとシモン王子は軽く会釈し、クロエ令嬢はカーテシーをした。
「うむ。聞けばシモン王子は、オルレアン王国でも同世代では並ぶ者なしというほどの剣の腕前とのことらしい。せっかくなので、今日は授業内容を変更し、シモン君達の歓迎の意味を込めて剣術試合を行う」
ええー……モニカ教授、本気ですか……?
しかも、僕のほうをしっかり見てるし……どうやら、僕は逃げられないみたいだ。
「普段は魔術の授業を受けている者達は、精一杯応援してやってくれ。ああ、もちろん腕に覚えがあれば参加して構わないぞ」
そう言って、口の端を持ち上げるモニカ教授。
いや、剣術が得意でないから、みんなは魔術の授業を選択しているわけで……って、モニカ教授、ひょっとしてメルザを見ている!?
「ふふ……せっかくですので、参加してもいいのですが……」
「駄目です、絶対に駄目。お願いですから、見学だけにしてください」
メルザに万が一何かあったら目も当てられないし、彼女がほんの少しでもその気になれば、訓練場に屍の山が築かれることになりかねない……。
「仕方ないですね……でしたら」
メルザが僕の手を握り、真紅の瞳でジッと見つめる。
「ヒュー……あなたの勝利を、この私に捧げてくださいますか……?」
「あはは……もちろん。あなたの騎士として勝利を誓います」
僕はメルザの白い手を取り、そっと誓いの口づけをした。
◇
「よし、全員揃ったな。ではこれから、シモン君とクロエ君の歓迎試合を行う。なお、シモン君とアーネスト君、それにサイラス君からのたっての願いで、トーナメント方式にする」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!」」」」」
参加者全員から歓声が上がる。
もちろん、その中にはシモン王子や第二皇子の姿も。
だけど……どうしてそんな面倒なことを提案したのか……。
優勝するには、最低四回も試合をしないといけないなんて……。
僕は思わず額を押さえていると。
「なお、今回のトーナメント優勝者には、ヒューゴ君と試合をする権利が与えられる。みんな、励むように」
「っ!?」
突然放たれたモニカ教授の言葉に、僕は息を飲んだ。
い、いや、一試合で済むならそれに越したことはないですが、これじゃまるで、僕が賞品扱いではないですか……。
「フフ……分かりやすくていい」
「まあ、ヒューゴに勝つのは無理だが、これなら優勝も狙えるな」
「……優勝したあかつきには、絶対にヒューゴとの試合は辞退するぞ……!」
どうやら僕が出ないことで、みんなの士気が上がったみたいだ。
まあ、シモン王子だけは目的が違うみたいだけど。
「ふふ……モニカ教授も英断ですね」
「メルザ?」
「だって、このクラスに……いいえ、この皇国において、ヒューのお相手ができるのはお爺様だけですから」
「ま、まあ、そうですが……」
クスクスと笑うメルザに、僕は曖昧に相槌を打った。
とりあえす優勝者が決まるまで、メルザとのんびり見学していよう。
◇
「それまで! 勝者、アーネスト君!」
第二皇子が相手の眉間に木剣の切っ先を突き付けた瞬間、モニカ教授が勝ち名乗りを上げた。
ふむ……だけどこれで、準決勝の四人が出揃ったな。
第二皇子にサイラス、シモン王子、それと……意外なことに、クロエ令嬢だった。
まさか、クロエ令嬢にこれほどの剣の腕前があるとは、さすがに思いもよらなかった。
「ふふ……ヒューは誰が優勝すると思いますか?」
「そうですね……」
僕は顎に手を当て、思案する。
見る限り、四人の実力は伯仲しており、誰が勝利してもおかしくはない。
でも。
「決勝の組み合わせ次第ですが、シモン王子が優勝するかと」
確かに他の三人も同じ実力だけど、これは相性の問題だ。
シモン王子は、どうやら一撃に重きを置くスタイルで、相手の隙を窺い、狙い澄まして的確に当てている。
一方、バランス型の第二皇子はそつなく戦うが、これといった決め手がない。
一見、隙がないようにも見えるが、実際には攻めあぐねて防戦になるようなケースもあった。
まあ、シモン王子なら、そこは見逃さないだろう。
むしろもう一試合のほうが、どちらが勝つか予想がつきにくい。
シモン王子とはまた違った一撃スタイルのサイラスは、相手の防御などお構いなしに力任せに攻撃し続けるタイプだ。
そしてクロエ令嬢は、華麗な身のこなしで相手の虚をつくスタイル。
つまり、クロエ令嬢が一度でも防御した瞬間、サイラスの勝ち。逆に一切触れさせることなく攻撃できれば、クロエ令嬢の勝ちだ。
「……なので、決勝にサイラスが勝ち上がってくれば、六対四でシモン王子。クロエ令嬢が勝ち上がれば、十対〇でシモン王子です」
「? クロエ令嬢だと絶対にシモン王子が勝つのですか?」
「はい。これまで見てきたクロエ令嬢の印象を考えれば、シモン王子に絶対の忠誠を誓っているのは明らか。なら、シモン王子に勝ちを譲るものと思います」
「なるほど……そういうことなのですね……」
そもそも、クロエ令嬢は昨日のパーティーでもシモン王子が最も強いと言っていたし、まともに試合をするとも思えない。
何より、シモン王子は僕との試合を望んでいるんだ。それを邪魔するような真似はしないだろう。
そう思っていた……んだけど。
「それまで! 勝者、クロエ君!」
なんと、優勝したのはクロエ令嬢だった。
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