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留学理由は?

「二人共、見事なダンスだった」


 ダンスを終えて戻ってきた僕達を、シモン王子とクロエ令嬢が拍手で出迎えてくれた。


「ありがとうございます。ところで、お二人はお踊りになられないのですか?」

「フフ、そうだな。そもそも、言うなれば私とクロエは、主と従者の関係だからな」

「そうなんですね……」


 まあ、普通に考えれば当然か。

 あくまでも、主従関係は崩さない、と。


「もちろん、ヒューゴ様からお誘いいただければ、喜んでお受けいたします」


 そう言って、クロエ令嬢がカーテシーをした。


「あはは、申し訳ありません。僕の生涯のダンスパートナーは、メルザただ一人なんです」


 恭しく一礼し、僕は丁重にお断りする。


「そうですか……それは残念です」


 クロエ令嬢はその言葉どおり、少し寂しそうな表情を浮かべた。

 まあ、そんな仕草や表情も含め、彼女なりの社交辞令なのだろう……って。


「メルザ?」

「ヒューがそのようにお断りしてくださるのは分かっておりますので、心配はしておりませんが……それでも、少々妬いてしまいますね……」


 そう言って、メルザが僕の腕に抱きついた。

 なるほど……メルザとしては、社交辞令も受け入れづらいといったところかな。よく覚えておこう。


 その後も、僕とメルザはシモン王子達に付きっきりで過ごした。

 二人の皇子の派閥に属している貴族達からの勧誘は鬱陶(うっとう)しいから避けたいし、何より、二人といれば自然と他の貴族は寄ってこないからね。


 だって……シモン王子達の国は、あのクーデターに関与したオルレアン王国なのだから。


 その証拠に、今日は二人の歓迎パーティーであるにもかかわらず、二人の皇子を除く誰一人としてシモン王子に挨拶すら交わさない。

 いや、あの二人の皇子も結局は僕との会話に終始して、シモン王子と話したというほどではない、か……。


 すると。


「皆の者、楽しい時間は尽きぬが、私達は明日も学園があるためここで退室させてもらう」

「引き続き、今日のパーティーを楽しんでくれ」


 そう言って、二人の皇子が会場から去った。


「ふふ……でしたら、私達もそろそろお(いとま)したほうがよろしそうですね」

「あはは、そうですね。シモン様とクロエ殿も、明日が初めての学院なのですから、今日はお帰りになられたほうがよろしいかと」

「うむ……そうだな」


 僕達の言葉に、二人が頷く。

 まあ、二人の皇子もいいきっかけを作ってくれた。

 皇子達が学院を理由に去るのなら、同じ学院の生徒である僕達も帰って構わないということだから。


「ではヒューゴ、メルトレーザ殿。明日、学院で」

「失礼いたします」


 シモン王子は軽く手を挙げ、クロエ令嬢は深々とお辞儀をして会場を後にした。


「さて、僕達も大公殿下にお声をかけてから帰りましょう」

「はい……」


 メルザの手を取り、顔をしかめながら大臣達と話をしている大公殿下の元へと向かう。


「大公殿下、僕達もそろそろ帰ろうかと思います」

「ん? おお、そうじゃの。二人共、ご苦労じゃった」

「では、失礼します」


 会場を出て、僕達は馬車へと乗り込む。


「メルザ……あの二人はいかがでしたか?」

「そうですね……少なくとも、私達に対して悪意(・・)()は感じられませんでした」

「そうですか……」


 当初、僕はシモン王子達が何か目的を持ってこの国に来たのかと思っていた。

 クーデターがあってから、まだそれほど時間も経っていないんだ。そう考えてしまうのは仕方ない。


 でも……目的がないのなら、本当にあの二人は純粋に皇国で学びに来たのか?

 今は休戦協定を結んでいるとはいえ、先のクーデターの件も加味すれば敵地の真っ只中でしかない、サウザンクレイン皇国に。


「ふう……色々考えてはみましたが、どうにもシモン王子達の目的が見えないですね……」


 僕は深く息を吐き、独り言ちた。


「ヒュー……あまり深く考えなくてもいいと思います。二人の留学理由についてはお爺様も考えていらっしゃるでしょうから……」

「メルザ……ですが、これは僕も考えるべきだと思っています」

「どうして、ですか?」


 僕の言葉に、メルザが不思議そうに尋ねる。


「はい……僕は、大公殿下の跡を継いでウッドストック家を……メルザを守っていかなければいけないんです。シモン王子達の留学中のホストを務めることになった以上、そういったことにも気を配らないといけませんから」


 そうだとも……僕はもう、復讐に囚われていたこれまでの僕じゃないんだ。

 僕のこれからの生涯は、メルザを大切に守り抜いて幸せのまま全うすることなのだから。


「本当に、ヒューは私を喜ばせてばかりですね……!」


 感極まったメルザが、僕の胸に飛び込んできた。


「もっとです……僕はもっと、あなたを喜ばせたい。幸せにしたい。そのためなら僕は何だってしてみせます。少しでもそれを邪魔される可能性があるのなら、僕は絶対に阻止してみせます」

「はい……私は、あなたにそこまで想われて本当に幸せです……」

「メルザ……」


 僕は首筋を露わにすると、メルザは蕩けるような笑みを浮かべ、牙を突き立てた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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