剣術自慢
「お、来たようじゃの」
僕はメルザや大公殿下と談笑していると、会場がざわつきはじめる。
どうやら、二人の皇子が姿を現わしたらしい。
「皆の者、今日はシモン殿下とクロエ令嬢の留学記念パーティーに集まってくれて、感謝する」
「今日は二人の皇国での更なる研鑽と、サウザンクレイン皇国とオルレアン王国の今後の発展を祈念し、大いに楽しんでほしい」
第一皇子と第二皇子がグラスを高々と掲げ、交互に挨拶をした。
だけど。
「……少々、言葉遣いがよくないですね」
二人の皇子を見据えながら、僕はポツリ、と呟く。
そう……この言葉が、皇帝陛下のものであれば違和感はなかったけど、たとえ二人が皇子とはいえ、これは失礼にあたる。
まず、第一皇子だけど、ここにいるのは爵位を持つ貴族達だということを忘れてはならない。つまり、貴族達は皇帝陛下の家臣であって、決して皇子に仕えているわけではないのだから。
次に第二皇子。自らが研鑽を積まなければならない身であるにもかかわらず、シモン王子達にそれを促すのはお門違いだ。
これが『共に研鑽を積み』ということなら、お互いを同列としてみなしていることからも、違和感がなかったんだけど。
おそらく、この二人は驕りが出てしまったんだろうな。
あと一年もすれば、自分こそが皇帝なのだということに。
「ハア……まあ、それだけ皇帝への想いが強いのじゃろうが……困ったもんじゃわい……」
大公殿下が溜息を吐き、かぶりを振った。
ええと……お疲れ様です……。
「ふふ……このままあのお二人に任せてしまっては、せっかくのパーティーが台無しになってしまいそうです。私達は、シモン殿下とクロエ令嬢のお世話をしましょう」
「そうですね」
メルザの手を取ると、僕達はシモン王子とクロエ令嬢の元へと向かう。
「シモン殿下、クロエ令嬢」
「ああ、これはヒューゴ殿、メルトレーザ嬢」
「はは、僕達は同じ学院で共に学ぶのですから、敬称などつけず、ヒューゴとお呼びください」
「私も、メルトレーザで構いません」
僕達がそう告げると、二人が笑顔で頷いた。
「フフ、なら私も、『殿下』など不要。気軽にシモンと呼んでくれ」
「私も、クロエとお呼びください」
「「はい」」
うん、屋敷で先に面会していることもあって、良い雰囲気を作ることができたぞ。
ただ……敬称なしで、本当に接してもいいのかなあ……。
うん、せめて『様』はつけるようにしよう。
「ところでヒューゴ、君はオルレアン王国にもその名をとどろかせるウッドストック大公殿下の次代を担うのだから、当然、剣術は得意なのだろう?」
「は、はあ……」
僕の顔を窺いながら尋ねるシモン王子に、僕は苦笑しながら曖昧に返事をした。
その様子から見るに、どうやらこの王子、剣術に自信があるみたいだし、また学院で変に絡まれたりしても困るからね……。
「まあ、それは学院の剣術の授業でハッキリするであろうから、それまで楽しみにとっておくとしよう」
「は、はは……」
ウーン……僕は剣術の授業は免除されているって、言い出しづらいなあ……。
「シモン殿下は王国では“若獅子”と呼ばれ、随一の剣術の腕前を誇っております。ヒューゴ様にもご満足していただけるかと」
今まで黙っていたクロエ令嬢が、急に身を乗り出してシモン王子のアピールをした。
ああー……僕の態度が、シモン王子を侮っていると感じてしまったのかなあ……。
「あ、あはは……シモン様がそこまでお強いのであれば、僕ではお相手を務めるのは難しいかもしれませんね……」
僕は何とか取り繕おうと、そんなことを言ってみる。
とにかく、面倒事は御免被りたい。
「フフ……いずれにせよ、剣を交えてみれば分かること。明日からの学院を楽しみにしている」
「はい……」
それから、僕達は四人で談笑していると。
「やあ、楽しんでいるか」
僕達の元に、二人の皇子が一緒にやって来た。
というか、この二人が揃って僕のところに来るなんて、珍しいな……。
「君達の会話が少し聞こえたが、このヒューゴは学院で最も腕の立つ男だから、シモン殿下でも歯が立たないと思うよ」
「ほう……?」
いや、この第二皇子、何を余計なこと言ってくれてるんですか……。
そのせいで、シモン王子の僕を見る視線が変わってしまっているんですが。
「そうだな。彼はこれまでの活躍で、“断頭台”という二つ名もある。是非、シモン殿下には試していただきたい」
クリフォード第一皇子……僕は初耳です。一体、どんな由来でそんな不名誉な二つ名が……。
「……“若獅子”であらせられるシモン殿下であれば、ヒューゴ様も善戦いただけるものと期待しております」
あまりに二人の皇子が煽るものだから、クロエ令嬢が怒っていらっしゃる……。
そんな四人を辟易しながら眺めていると。
「ふふ……結局のところ、剣の腕ではお爺様よりも強いヒューに、シモン王子が相手になるわけがないのですが」
僕の耳元でささやきながら、メルザがクスリ、と笑った。
はは……もしシモン王子と戦うことになったら、絶対に負けるわけにはいかないな。
「これは、いよいよ明日の学院が楽しみになってきた」
シモン王子が不敵な笑みを浮かべ、パシン、と拳で手を叩いた。
僕は、結局シモン王子との試合を避けられない状況に溜息を吐きつつも、期待に満ちた瞳で見つめるメルザのために、絶対に勝とうと心に誓った。
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