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判断材料

「ちょ、ちょっとセルマ!? さすがにこれはどうなんだ!?」

「いいえ! これが一番いいんです!」


 シモン王子とクロエ令嬢の歓迎パーティーに出席するための準備を進めているんだけど、セルマが妙に張り切ってしまい、僕は何度も服の着せ替えなどをさせられている……。


 しかも、この妙に飾り付けられたコート……もっとシンプルなほうがいいと思うんだけどなあ……。


「……ヒューゴ様、朝のことをお忘れですか?」

「うぐ……」


 それを言われてしまうと、僕はもう何も反論できない……。

 確かに、朝はセルマに言われたとおりの身だしなみをしたおかげで、メルザからは好評だったからなあ……。


「とにかく! ヒューゴ様はそういったことに疎いのですから、私に全てお任せください!」

「はい……」


 結局、僕はセルマに言われるがまま支度を済ませた。


「すごく素敵です! ヒューゴ様!」

「は、はは……」


 鏡に映る自分の姿を見て、僕は乾いた笑みを浮かべた。

 な、何というか、その……僕が僕じゃないみたいだな……。


「では、早速メルトレーザ様にお見せしにまいりましょう!」

「うわ!? ちょ!?」


 セルマに腕を引っ張られ、僕はメルザの部屋の前まで連れてこられた。


 ――コン、コン。


「メルトレーザ様、失礼します」


 扉をノックし、僕とセルマはメルザの部屋へと入る……と……。


「あ……ヒュー……」


 ああ……! メルザが美しい! 尊い! 素晴らしい!

 僕は彼女のあまりの美しさに、ただただ見惚れるばかりだった。


 だって、今日の彼女は瞳と同じ真紅のドレスに身を包み、長い艶やかな黒髪もハーフアップにまとめ、その細い首筋を露わにしている。

 愛らしい唇は、ルージュがひかれて白い肌によく映えており、思わず僕の視線を釘付けにさせた。


「……ヒューゴ様、見惚れている場合ではありません。ちゃんとメルトレーザ様をお褒めしませんと」

「あ、そ、そうだね……」


 セルマに促されて我に返り、僕はメルザの(そば)へ寄る。


「そ、その……メルザ、すごく綺麗です……その輝きに、この世のどんな宝石も光を失ってしまうでしょう……」

「あう……ヒュ、ヒューも素敵です……」


 そう言うと、メルザは僕の胸に寄り添った。

 彼女から、薔薇(ばら)の香りがする……。


「コホン……メルトレーザ様、今宵のヒューゴ様はお気に召していただけましたでしょうか?」


 セルマが咳払いをし、胸を張ってメルザにそんなことを尋ねた。


「セルマ……最高です。文句なしです。完璧です」

「ありがとうございます」


 何度も頷きながら答えるメルザに、セルマが満足げにカーテシーをした。

 ま、まあ、メルザが喜んでくれるなら、その……これからもセルマに頼もう……。


「ではお二人共、そろそろ出発のお時間ですので……」

「そ、そうだね。メルザ、行きましょう」


 僕は(ひざまず)き、メルザの手を取る。


「ふふ……では、よろしくお願いします……」


 僕とメルザは部屋を出て、玄関で待つ馬車へと向かった。


 ◇


「はっは! メル、婿殿、よくぞ参った!」


 先に会場入りしていた大公殿下が、僕達を見つけるなり笑顔で声をかけてきた。


「それにしても……今日は二人共、気合いが入っておるのう?」

「ふふ……もちろんです。ヒューに恥をかかせるわけにはいきませんから」

「いやいや、僕のほうこそ、素敵なメルザに釣り合う男になるよう、もっと努力します」

「もう……ヒューは、ここにいる誰よりも素敵ですよ?」


 あはは……メルザにそんなことを言ってもらえると、何だかこそばゆいな……。

 もちろん、嬉しくて仕方ないんだけど。


「ところで大公殿下、今日は皇宮でパーティーということですが、主催者は皇帝陛下になるのですか?」

「……いや、陛下はもう表舞台には立たれんよ。それだけ、あのクーデターに責任を感じておられるのじゃ」


 そう言うと、大公殿下は眉根を寄せながらかぶりを振った。

 だけど、そうか……確かに、皇帝陛下が間違えたことは事実だ。


 僕だって、そもそも皇帝陛下と母上が会っていたりさえしなければ、僕の人生は一回だけだったんじゃないかって、そう考えなくもない。

 でも……そんなこと考えたって、もはやどうしようもないんだ。


 それに。


「ヒュー?」


 メルザを見つめる僕に、彼女は不思議そうに尋ねる。

 そう……あの六回の人生があったからこそ……皇帝陛下と母上が間違え、グレンヴィルが勘違いしたからこそ、僕はこの女性(ひと)と出逢うことができたんだ……。


「いえ……僕は、あなたに出逢えた幸せを噛みしめていただけです」

「あう……も、もう……」


 僕の言葉に、メルザが頬を赤らめる。

 本当に、僕の婚約者は可愛いなあ……。


「そういうことでの。今日のパーティーはクリフォード殿下とアーネスト殿下の共同開催じゃ。じゃから……」

「今日のパーティーの成否も、皇位継承の判断材料になる、ということですね……」

「然り」


 まあ、オルレアン王国の第三王子が主賓なんだ。外交面も含め、どのように立ち振る舞うかを見るにはもってこいではある。


「というわけで、お手並み拝見といこうかの」

「はい」


 僕達は、これから二人の皇子と第三王子が登場するであろう、階段の先にある踊り場へと視線を向けた。

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