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二人の留学生

「あのアーネスト殿下の態度、どこか気になりますね……」


 お昼になり、僕とメルザは学院に併設されている食堂で食事をしながら、朝の第二皇子の反応について話し合っていた。


「ですがヒュー。普通に考えれば、あなたを第二皇子派に組み入れたいという勧誘ではないでしょうか」

「普通に考えれば、そうなんですが……」


 でも、ただ勧誘に来ただけなら、あそこまで思いつめた表情はしない。

 それ以上に、何か悩み事があるような……。


「……まあ、これ以上考えても仕方ありませんね。それに、何かあるのであれば、アーネスト殿下から改めて接触してくるでしょうし」

「そうですね……」


 僕の言葉に、メルザが頷く。


「それよりも、私の魚料理は美味しいですよ」


 そう言ってメルザが一口サイズに切り分け、僕の目の前にフォークを差し出した。


「本当ですか? どれ……」


 僕はメルザのフォークからそのまま口に入れ、咀嚼(そしゃく)する。


「もぐ……うん、美味しいですね!」

「ふふ! ですよね!」


 僕の反応がそんなに嬉しかったのか、メルザが満面の笑みを浮かべた。


「本当に、ヒューは食べさせ甲斐があります」

「あ、あはは……」


 ウーン……それじゃまるで、僕が食いしん坊みたいだなあ……。

 まあ、否定しないけど。


 そうやって楽しく食事を済ませ、僕達はお茶を飲みながら談笑していると。


「む、ここにいたか」


 モニカ教授が現れ、声をかけてきた。


「ええと……どうかしましたか?」

「ああ……実は大公殿下から、今日の授業を切り上げて今すぐ帰ってくるようにとの連絡があった」

「お爺様が?」


 僕達の学院生活を遮ってまでの呼び出しって、大公殿下にしては珍しいな……。

 ひょっとして、何か問題でも発生したんだろうか……。


「分かりました。今から帰宅します」

「ああ、そうしてくれ」

「メルザ、行こう」

「はい」


 僕はメルザの手を取り、馬車に乗りこんで大公家の屋敷へと帰った。


 ◇


「おお! メル、婿殿、すまんの!」


 執務室に入ると、大公殿下が笑顔で出迎えた。

 それはいいんだけど……。


 ソファーに座っている、この二人は誰だろう?

 見る限り、僕やメルザとあまり歳が変わらないような気がするけど……。


「二人を呼び出したのは他でもない。実は、あの(・・)オルレアン王国から交流として、この二人が皇立学院に留学することになったのじゃ」


 大公殿下がそう言うと、ソファーの二人が立ち上がった。


「オルレアン王国第三王子の“シモン=デュ=オルレアン”だ。よろしく頼む」

「同じく、オルレアン王国に仕える“レスタンクール”侯爵の長女、“クロエ=レスタンクール”と申します」


 二人は自己紹介をすると、シモン王子が右手を差し出してきた。


「あ……僕はヒューゴ=オブ=ウッドストックと申します。そしてこちらが、僕の婚約者で……」

「メルトレーザ=オブ=ウッドストックです」


 シモン王子と握手を交わしながらメルザを紹介すると、彼女は優雅にカーテシーをした。


「ん? 今の君の話だと、二人は婚約者同士ということだが……何故、同じ家名なのだ?」

「あ、それは……」

「はっは! 皇立学院を卒業したら、メルと婿殿はすぐに結婚するのじゃ! だから、今のうちから、婿殿にはうちの家名を名乗ってもらっておる!」


 答えに(きゅう)して言い淀む僕に、大公殿下が助け舟を出してくれた。


「そうであったか……それは失礼した」

「いえ……」

「それでじゃ。シモン王子とクロエ嬢は、明日から学院に通うこととなる。メルと婿殿には、学院での二人の世話を頼みたいのじゃ」

「は、はあ……」


 まさか、僕とメルザにそんな大役を仰せつかるとは思いもよらなかった。

 だけど……オルレアン王国、か……。


 例のクーデター事件は、オルレアン王国の手引きがあってこそだったから、どうしてもこの二人を勘繰ってしまう。

 何か、目的があるんじゃないかと。


「そういうことで、今日は二人の歓迎ということで、皇宮でパーティーが催される。メルと婿殿も、出席するのじゃぞ?」

「わ、分かりました……」


 それにしても……何から何まで、急な話だなあ……。


 すると、大公殿下が呼び鈴を鳴らした。


「お呼びでしょうか?」

「うむ。シモン王子とクロエ嬢のパーティーのための支度を頼む」

「かしこまりました。シモン殿下、クロエ様、どうぞこちらへ……」

「ああ」


 執事長と一緒に、シモン王子とクロエ令嬢が執務室を出た。


「……お爺様?」


 三人だけになった途端、メルザが大公殿下をジト目で睨んだ。


「う……し、仕方ないんじゃ……皇宮は今、皇位継承の件でピリピリしておるし、クリフォード殿下やアーネスト殿下にホストをさせるわけにもいかぬ……次に身分が高い子息令嬢となれば、お主達になってしまうのじゃ……」


 ああー……確かにあの二人を除けば、大公家であるメルザと僕に声がかかるのは仕方ないことなのか……。


「それに……あの二人はオルレアン王国の者じゃ」

「……つまり、僕達に監視をしろ、ということですね?」

「うむ……それに関しては、婿殿は今やこの皇国で私に並び立つ実力を持った唯一の者であるし、メルには悪意(・・)()を見抜く能力があるしの……」


 なるほど……そう考えれば、まさに僕とメルザはうってつけかもしれない。

 何より、クーデター事件の内情を全て把握しているしね……。


「そういうことで、すまんがあの二人の目的が何なのか見極めるまで、面倒を見てほしいんじゃ!」


 大公殿下が机に手をつき、深々と頭を下げた。

 はは……父親(・・)にここまでされたら、断るわけにはいかないよね。


「分かりました。僕とメルザで、あの二人のホストを務めます」

「……ヒューがそう言うのなら」


 どうやらメルザは、少々不満みたいだ。

 多分、二人だけの時間が減ってしまうからだろうな……。


「あ……」

「メルザ……大丈夫ですよ。あの二人がいるだけで、僕とメルザがずっと一緒にいることには変わりないのですから……」


 そんな彼女の反応が可愛くて、僕はメルザの黒髪を撫でながらニコリ、と微笑んだ。


「ふふ……ヒューは何でもお見通しですね……」


 そう言うと、メルザは嬉しそうに目を細めた。

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