王子達の接触
「やあ、おはようヒューゴ、それにメルトレーザ」
意外なことに、僕達を出迎えたのは第一皇子のクリフォード殿下だった。
おかしいな……てっきりいつものように、第二皇子が待ち構えていると思ったのに。
「これは皇国の星、クリフォード殿下。おはようございます」
「よせ、そのような堅苦しい挨拶など不要だ。それに、ここは皇立学院。身分など関係ない」
いや、身分は関係ありますから。
大体、そんなことを言いながら目が一切笑っていないですが。
「それで……クリフォード殿下は僕達にどのような……?」
「いや、特に用といったわけではない。たまたま君達の姿を見かけてな」
「そうですか……」
たまたま? こんな学舎から離れた、学院の門の前で?
「君達も、これから教室に向かうのだろう? なら、私と一緒に行こう」
「「はい……」」
第一皇子の申し出を断ることもできず、僕とメルザは顔を見合わせた後、一緒に歩く。
「それにしても、君達はなかなか学院に出席していなかったようだが、どうしていたのだ?」
「……クリフォード殿下、ヒューは先の事件で心を痛めておりました。それで彼の心の傷が癒えるまで、大公領にある本邸で静養していたのです」
メルザが僕に代わり、第一皇子にもっともらしい理由を述べた。
……本当は先週まで大公領でメルザと一緒にのんびり過ごしていただけだなんて、さすがに言えないからね。
「そうか……では、今日は学院に来たということは、もう問題ないということでいいのかな?」
「はい……メルザのおかげで、すっかりよくなりました」
うん……実際にメルザが僕を癒してくれたのは本当だからね。
なので、僕の答えにメルザが嬉しそうに口元を緩めているし。
「ハハ……二人共、本当に仲が良いな」
「「もちろんです」」
あ……はは、メルザと声が重なっちゃった。
メルザも僕と同じ気持ちみたいで、クスクスと笑っている。
「そういえば、クリフォード殿下は、学院では従者は連れたりしないのですか?」
僕はふと疑問に思い、第一皇子に尋ねる。
第二皇子なんて、無駄に迷惑な取り巻き二人をいつも連れ歩いているのに。
「そうだな。そもそも、そんなことをしてどうするのだ? ここは生徒達の身分と安全が保障されている皇立学院の中だぞ?」
「あはは、確かにそうですね。失礼しました」
「いや、いい」
答える第一皇子に僕は苦笑しながら謝罪すると、手をヒラヒラさせて彼は素っ気なく返事をした。
「ふむ……どうやら着いたようだな」
「そのようですね」
「では、これで失礼するよ」
そう言うと、第一皇子は自分の教室へと向かって行った。
「……メルザ、どうでしたか?」
「はい……残念ながら、クリフォード殿下が私達に向けた感情は、決してよいものではありませんでした」
「やはり……」
メルザの答えに、僕は頷く。
第一皇子の感情がそうだということは、会話から薄々感じていた。
何より、当たり障りのない言葉や仕草ではあるものの、その瞳はただ僕達を値踏みするようなものだった。
おそらくは、以前の誕生パーティーのように僕達を見極めていたのだろう。
自分にとって敵なのか、それとも味方なのかを。
「……これは、できる限りクリフォード殿下との接触は避けたほうが良さそうですね」
「はい……」
僕達は頷き合い、教室へと向かった。
◇
「ハハ! 二人共久しぶりだな!」
教室に着くなり、第二皇子が満面の笑みを浮かべながら声をかけてきた。
いや、どうしてそんなに嬉しそうにしているのか、僕には理解不能なんだけど……。
見ると、メルザはそんな第二皇子の態度に眉根を寄せている。
うん、そんな表情も可愛いな……。
「それで、アーネスト殿下までどうしたんですか?」
「ん? ……ちょっと待て。私までとはどういうことだ?」
僕の言葉の意味に気づいたのか、第二皇子が訝しげな表情で尋ねる。
「決まってますよ。僕とメルザが馬車から降りたところで、偶然クリフォード殿下とお会いしたものですから」
「っ!?」
僕の言葉を聞いた途端、第二皇子はしまった、というような顔をした。
ああー……まさか先を越されるとは思わなかったんだろうな……。
「そ、それで兄上とはどのような話をしたのだ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」
ずい、と詰め寄って問い質す第二皇子をたしなめる。
メルザだったらともかく、そんなに顔を近づけられても嬉しくないんだけど。
「別に、当たり障りのない会話だけでしたよ。とにかく、僕達が学院に姿を見せなかったので心配していた様子でした」
「そ、そうか……」
僕の答えを聞き、安堵の表情を浮かべる第二皇子。
全く……僕達が第一皇子派に引きこまれたと、勘違いしたんだろうか。
「僕達のことは措いといて、それよりもジーンはどうなんです?」
「う、うむ……」
話を変えようとした僕の話題は、どうやら第二皇子にとってよろしくないものだったらしい。
第二皇子は露骨に顔をしかめ、唇を噛んでしまった。
「そういえば、教室内に姿も見えないようですが……」
「……ジーンは実家が降格したことを踏まえ、Cクラスに転籍となった」
「ああー……」
グローバー家は今までの侯爵から男爵になってしまったものだから、男爵や準男爵、騎士爵達のいるCクラスになってしまったんだな……。
「な、なあ……ヒューゴ……」
第二皇子が思いつめたような表情で何か言おうとすると。
「みんな、席に着くように」
ちょうどそのタイミングで、モニカ教授が教室に入ってきた。
「アーネスト殿下?」
「……いや、いい」
第二皇子は肩を落とし、自分の席へと戻っていった。
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