人質の選抜
■???視点
「……ふむ、ご苦労」
オルレアン王国の国王陛下である父、“フレデリク=デュ=オルレアン”が書簡に一通り目を通した後、近侍を下がらせた。
「さて……お主達に集まってもらったのは他でもない。ひょっとすれば、お主達も聞き及んでおるかもしれんが、隣国サウザンクレイン皇国で、クーデターがあった」
「「「「「…………………………」」」」」
この私を含め、居並ぶ兄弟姉妹全員が口をつぐむ。
一応、クーデターについてはサウザンクレイン皇国も非公式にしており、情報については徹底的に統制されていた。
なので、本来であれば私達が知る由もないのだが、今回の件については少々話が違う。
何故なら……そのクーデターは王国が手引きしていたのだから。
「まあ、結果は失敗に終わったが、そこは連中も抜け目がない。クーデターを起こした者達と我が王国との関与が知られてしまっておる」
そう言って顔をしかめる国王陛下。
だが、クーデターが失敗した上、ただでさえサファイアの輸入やオルレアン王国お抱えのバルド傭兵団を紹介するなど、関係がばれてしまうのも当然だ。
とはいえ、サウザンクレイン皇国がそのことを王国に抗議することはできまい。
なにせ、クーデターそのものを迅速に鎮圧し、関係者の処断も瞬く間に行ったところを見るに、この件についてはかの国としても闇に葬りたいのだろうから。
「王国とサウザンクレイン皇国とは、先の戦で互いに大きな被害を出し、今は休戦協定を結んでいる関係にある。いずれ決着をつけるとはいえ、今は波風を立てるような真似はしたくない」
フフ……面白いことを言う。
自分からクーデターをけしかけておいて、今さらそんなことを言い出すなんてな。
「そこで、じゃ……余は、お主達の誰かを、友好の証としてサウザンクレイン皇国へ留学させようと思う」
「「「「「っ!?」」」」」
国王陛下の口から放たれた言葉に、私達は一斉に息を飲んだ。
それはそうだろう。要は、私達をサウザンクレイン皇国に人質として差し出すということだ。
そしてそれは……このオルレアン王国の王位継承争いから外れるということを意味するのだから。
「……陛下。留学ということは、年齢的な制限などはあるのですか?」
長男であり第一王子の“パスカル”が、おずおずと尋ねる。
確かにパスカルならば、既に年齢は二十歳を過ぎている。留学というなら対象には当てはまらないだろう。
「もちろんじゃ。留学させるサウザンクレイン皇国の学院は、十五歳から十八歳の子息令嬢が通うらしいからな」
そう告げた瞬間、何人かの兄弟姉妹が安堵の表情を浮かべた。
対象から外れたのだ、そんな反応も頷ける。
だが……そうすると、その留学の対象となり得るのは第二王子の“ロマン”と第一王女の“リュディヴィーヌ”、そして第三王子であるこの私だ。
後は、国王陛下がこの三人の中で誰を一番排除したいか、だな……。
「ふむ……では、かの国へ留学したいと申す者はおらぬか?」
「「「「「…………………………」」」」」
そんなことを尋ねられても、首を縦に振る者など一人もいるはずがない。
王位継承争いから外れ、どうして死すら覚悟してそんな場所に行かねばならないのだ。
……いや、死ということに関しては、王国にいても同じことか。
「……誰もおらぬようじゃな」
国王陛下は、不満げな表情でかぶりを振った。
何故私達の誰かが名乗りを挙げると考えたのか不思議ではあるが、要は自分で選ぶのが面倒なだけだろう。
この国王陛下は、自分以外の者を一切認めようとはしないからな。
だが、そうなると。
「陛下……でしたら、“シモン”が最も適任かと思われます」
第二王子のロマンが、そんな提案をした。
「ほう……それはどうしてじゃ?」
「はい。まず、シモンはサウザンクレイン皇国の言葉にも精通していることに加え、年齢もまだ十五歳、かの国の学院の対象年齢が十五歳から十八歳であることを考えれば、卒業まで留学するという意味でもよろしいかと」
「なるほど……確かにそうじゃな」
ロマンの答えに、国王陛下は満足げに頷く。
「私もロマンお兄様と同意見ですわ。何より、“オルレアンの若獅子”の異名を持つシモンなら、見事その役目を果たすことでしょう……」
今度は第一王女のリュディヴィーヌがそのようなことを言った。
他の兄弟姉妹も頷いているところを見ると、どうしてもこの私を排除したいらしい。
「……シモン、行ってくれるか?」
「はっ! この御役目、見事果たしてみせましょう」
こうなると、私の答えはこれしか残されていない。
そして、どうやら国王陛下も、私が疎ましいようだしな。
「では、早速留学のための準備に取りかかります」
「うむ……シモン、励め」
「……失礼いたします」
玉座の間から退室し、私は自分の部屋へと戻る。
「シモン様……」
侍従の“クロエ”が、戻ってきた私を心配そうな表情で見つめた。
「……王命により、私はサウザンクレイン皇国へ人質として留学することになった」
「っ!? そ、そんな!」
私の言葉を聞き、クロエが声を荒げる。
「決まったものは仕方がない。それに……これは私にとって悪いことばかりではない」
「……と、言いますと……?」
「要は、私がサウザンクレイン皇国で国王陛下や兄弟姉妹が無視できぬほどの功績を挙げればよいのだ。それこそ、サウザンクレイン皇国だけでなく、周辺諸国までもが私に注目するほど、な」
そう……サウザンクレイン皇国での功績を手土産に王国へ凱旋すれば、他の兄弟姉妹など物の数にも入らない。
そもそも、兄弟姉妹が結託して私を人質にするように進言したのも、この私を恐れてのものなのだからな。
「それでクロエ……もちろん、お主も私について来てくれるのだろう?」
私は、彼女に向かって微笑みながらそう告げると。
「もちろんでございます。このクロエ、いつもシモン様と共に」
そう言って、クロエは恭しく一礼した。
「うむ。では、サウザンクレイン皇国でひと暴れしてみせようぞ」
「はい」
私は、サウザンクレイン皇国がある方角へと視線を向け、口の端を持ち上げた。
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