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復讐の終わり

 一連のクーデター事件の関係者全ての裁判を終え、いよいよ刑が執行される日。


 僕は、アイツ等の最後を見届けるために、大公殿下と共にその舞台となる中央広場へと向かう馬車に乗り込む……んだけど。


「メルザ……本当についてくるつもりですか?」

「はい」


 そう……メルザは、死刑執行の場に僕と一緒に行くと言ってきかないのだ。

 僕としては、あんな血なまぐさい場面をメルザに見てほしくない。


 ただ苦しみ、嗚咽(おえつ)を漏らし、無情に断頭台で首と手首を断たれる、そんな瞬間を。


 それだけじゃない、罪人達は皇都を引き回されながら衆目にさらされ、罵声を浴び、石を投げられる。

 要は、貴族、平民を問わず皇都に住む者達の、娯楽(・・)に付き合わされるようなものだ。


「ヒュー……私は、あなたが見る景色を、いつも(そば)で見ていたいんです……たとえそれが、醜く、目を背けたくなるようなものであったとしても」

「メルザ……」

「だから……あなたと共有させてください。あなたがそれを見ることで得たもの全てを」


 ああ……メルザはそうやって、僕を支えようとしてくれて……。

 どうしてあなたは、そんなにも優しいんですか……。


「……分かりました。メルザ、では一緒に行きましょう。そして、その最後を見届けましょう」

「はい!」


 僕はメルザの手を取り、馬車へと乗せる。


「メル、婿殿……では、参ろうぞ!」

「「はい!」」


 僕達は屋敷を後にし、中央広場へと向かった。


「……すごい人だかりですね」

「はい……今回は、首謀者のグレンヴィルと一族郎党、それに加えてオルレアン国境の貴族達全員を一斉に処刑しますから……」


 そう……今回は処刑される者の数だけで、ゆうに三十人を超える。

 鬱屈(うっくつ)している民衆達からすれば、まさに一大イベントみたいなものだからね……。


「二人共、コッチじゃ」


 大公殿下に手招きされてそちらへと向かうと、皇帝陛下や大公殿下の席があり、その後ろには多くの兵士達が控えていた。


「メルと婿殿は、すまんが兵士の陰に隠れる形で、見物するようにしてくれ」

「分かりました。メルザ、どうぞ」

「あ……ありがとうございます」


 兵士達の隊列の中にポツン、と用意された席にメルザを座らせると、僕は傘を差してメルザに陽の光が当たらないようにする。


 そして。


「……どうやら、グレンヴィル達がやって来たようです」


 この広場に近づく歓声が、それを僕達に教えてくれる。

 皇都を引き回され、ゆっくりと処刑台へ近づくグレンヴィル達を。


「嫌だ! 嫌だああああッッッ!」


 歓声に紛れ、醜く叫ぶルイスの声が聞こえる。

 見ると、グレンヴィル達は服もぼろぼろで、顔中血まみれになっていた。

 おそらく、民衆達が投げつけた石によるものだろう。


「……メルザ、やはり見るのはやめますか?」


 顔色の悪いメルザに、僕は尋ねた。

 やはり彼女には、刺激が強すぎるから。


「……いえ、私は大丈夫です。最後まで、あなたと共に見届けます」


 気丈に振る舞うメルザ。

 なら、せめて少しでも気持ちが和らぐようにと、僕は彼女の黒髪を優しく撫でた。


「ヒュー……ありがとうございます……」

「いえ……」


 死刑となった罪人が全て広場へとやって来て、断頭台が置かれている処刑台の前に、一列に並ぶ。


 すると。


「皇帝陛下、ご入場です!」


 皇帝陛下が近衛騎士団を引きつれ、この広場へと姿を現した。

 だけど、グレンヴィルはそれすらも気づかないのか、ただ虚空を見つめていた。


 もう……完全に心が壊れてしまったようだ。


 近衛騎士団長が椅子を引き、皇帝陛下が座る。

 さあ……いよいよ、処刑の開始だ。


 当然ながら、最初に刑を執行されるのは今回の首謀者、グレンヴィル。

 グレンヴィルは口を半開きにしたまま、兵士に両脇を抱えられて処刑台に上がった。


 断頭台に首と手首を固定され、枷をはめられる。

 でも、その視線の先は、一体何を見ているのだろうか……。


 そして……皇帝陛下が、ゆっくりと右手を挙げた。


 その瞬間。


 ――ダンッッッ!


 刃を吊っていたロープが処刑人の手によって切断され、グレンヴィルの頭と手首が地面へと転がった。


「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 民衆達の歓声が、中央広場に響き渡る。


 その次は。


「ヒイイイイ!? い、嫌だ! 嫌だ! 俺は悪くない! 悪くないんだあああああ!」


 血まみれの顔を涙でさらにぐちゃぐちゃにしたルイスが暴れながら拒否するも、兵士に両脇を抱えられているためどうすることもできない。


 グレンヴィルと同様、首と手首を固定され、枷をはめられた。


 すると……僕は、ルイスの奴と目が合った。


「っ! に、兄さん! 助けてくれ! 俺が悪かった! だから、俺だけは助けてくれええええ!」


 僕を『兄さん』と何度も呼び、助けを乞うルイス。

 そんなアイツに、僕は表情を変えずにただかぶりを振った。


「た、たしゅけ……」


 ――ダンッッッ!


 ……それが、ルイスの……弟だった男の最後の言葉だった。


 その後も、義母だったアンジェラ、妹だったアンナ、セネット子爵など、次々と処刑台に上がっては首を落とされていく。


 約三時間にも及び死刑執行は、ようやく幕を閉じた。


 そして……僕の、復讐も……。


「ヒュー……」


 メルザが、心配そうに僕の顔を(のぞ)き込む。


「メルザ……帰りましょう……」

「はい……」


 僕はメルザの手を取り、二人で中央広場から離れた。


 復讐を全て果たした僕の心の中は、あれほど焦がし続けた炎は消え去り、ただ虚しさだけが残っている。

 でも……これで僕は、これまで繰り返した六回の人生と決別することができたんだ。


 これからは、僕は愛するメルザのためだけに生きていこう。


 そう、心に誓った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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