裁判
「ただ今から、被告人ジェイコブ=グレンヴィルへの裁判を行う」
皇宮内にある皇族や上位貴族に対する裁判のみを行う裁判所の中、裁判官が高らかに宣言する。
僕とメルザは二階の傍聴席へ、大公殿下は裁判官達の座る席の後ろに、皇帝陛下と共に着座していた。
そして……あの男、グレンヴィルは、被告人台に手と首に枷をされながら、ジッと裁判官を見つめていた。
「被告人、ジェイコブ=グレンヴィルは、オルレアン王国や国境周辺貴族と共謀し……」
裁判官が、グレンヴィルの罪状をつらつらと読み上げる。
これらの内容については、僕の六回の人生で知っていることと、大公殿下の調査結果、それらを合わせて作成されたものだ。
それ以外にも、様々な罪状が付け加えられているが、おそらくはこの際ということで皇室が盛ったのだろう。
本来ならば裁判で決を得るにはある程度の時間が必要であるのを、速やかに終わらせ、刑を執行させるために。
はは……自分のやったこと以外まででっち上げられ、濡れ衣を着せられるなんて、まさに六回目の人生の僕と同じじゃないか。
あの男は、今どんな気分でいるんだろうな。
「……以上が、被告人の罪状である。被告人、何か申し開きはあるか?」
「…………………………」
裁判官が問いかけるが、グレンヴィルは魂の抜けた表情で天井を見ている。
自分が為そうとした復讐が、実はただの自分の勘違いだったと知ってしまったんだ。こうなってしまうのも無理はない。
当たり前だけど、そのことに僕が同情なんて一切ない。
だって、僕がそうしたんだから。
「では、これにて審理を終了する。皇帝陛下、裁きをお願いします」
「うむ……」
皇帝陛下が椅子から立ち上がり、前に出てグレンヴィルを見据えた。
「被告、ジェイコブ=グレンヴィルよ。貴様が犯した罪はあまりにも重い。よって、死刑とする」
静まる裁判所の中、皇帝陛下の判決を告げる声が響いた。
「……だが、余にも慈悲はある。よって、今回の一連の事件に関与した者全ての裁判が終わった後、貴様の家族と共に処刑を執り行うこととする。それまでの短い間、牢の中で家族と共に最後の時を過ごせ」
そう言うと、皇帝陛下は翻り、裁判所を後にした。
「はは……どこまでも傲慢、だな……」
そもそも今回の事の発端は、全て皇帝陛下が若かりし頃に母上に懸想したからであるのに、その罪は顧みないんだな。
ただ……それが許される者こそ、皇帝なのかもしれないが。
「ヒュー……」
メルザが、僕の手を握る。
「メルザ……これで今日の裁判は終わりです。僕達も、屋敷へと帰りましょう」
「はい……」
僕はメルザの手を取り、一緒に裁判所を後にした。
◇
次の日以降も、裁判は粛々と行われた。
当然ながら、セネット子爵以下、オルレアン王国と内通していた国境付近の貴族達は全員死刑の判決を受けた。
また、母方の祖父であるノーフォーク辺境伯については、蜂起はしたもののサウザンクレイン皇国での数々の功績を考慮し、爵位を剥奪、平民に落とされるとともに財産は全て没収にとどまった。
ただ、かなりの高齢な上に生まれながらの貴族であった祖父に、平民として生きていくことができるのかは甚だ疑問ではあるけど。
裁判中で語られることはなかったが、祖父は祖父なりに思うところがあって、グレンヴィルに加担したのだろうから、僕がそれについて同情することはない。
また、今なら年一回の面会の際に向けられて来た、祖父の憎悪の瞳の意味が理解できる。
とはいえ、全ての元凶は皇帝陛下の母上への懸想と、グレンヴィルの勘違いなのだから、救えないとしか言いようがない。
そして。
「ま、待ってください! 俺は何も悪いことはしていません! 全部あの父がやったことです!」
「静粛に!」
今、僕の目の前では、被告人席にいるルイスが喚き散らしている。
ルイスも、まさかこんなことになるだなんて、思いもよらなかったんだろうな。
それまでは、グレンヴィルのクーデターの成功を疑わずに、自分がこの国の頂点に立てることを信じていたのに。
だからこそ、皇立学院でもあの態度で、ひょっとしたら横恋慕していたメルザすらも、力づくで僕から奪えると考えていたのかもしれない。
「ふふ……とてもヒューの実の弟とは思えない見苦しさです」
「そうですね」
結局、あまりに喚き散らすものだから、ルイスは口枷をつけられた。
なお、裁判結果は当然ながら死刑。ただし、グレンヴィル家としてではなく、同様にグレンヴィルのクーデターに直接関与したことを問われてのものだった。
まあ……あのサファイア鉱山でのことや、バルド傭兵団との交渉でもルイスは同席をしていたのだから、当然なんだけど。
また、義母だったあの女と妹だったアンナも、同様に裁判にかけられて死刑を言い渡された。
こちらは、直接的な罪ではなくグレンヴィル家として連座したものではあるけど。
思えば、この義母こそ僕の次に被害者なのかもしれない。
グレンヴィルの勘違いを信じ、打ちひしがれるあの男を愛し、尽くした結果がこれなのだから。
アンナは、まあ……最初から最後まで号泣していたよ。
さすがに裁判の場で、得意の世渡りは通用しないからね。
「ヒュー……これであなたの家族だった者達の裁判は終わりましたね……」
僕の肩に頬を寄せ、メルザがそう話す。
「……いえ、あと一人います」
「あ……そうでした、ね……」
そう言うと、僕は頷くメルザの手を取り、その最後の一人の裁判へと向かった。
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