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皇帝と母親

「さて……グレンヴィルよ、まだ続けるか?」

「…………………………」


 呆けてしまっている僕に代わり、大公殿下がグレンヴィルに問いかけるが、反応がない。

 それもそうだろう。あれだけ万全を期したと思っていたクーデターが、ほんの二、三十分もしないうちに、全て崩れ去ってしまったのだから。


 そして……僕は、この男の、この顔が見たかった。

 自分の想いが破れ、何もかも失った、この顔を。


「……反逆者、グレンヴィルを捕えよ」

「はっ!」


 大公殿下の指示を受け、兵士達がグレンヴィルを捕縛する。

 これから……この男は裁きを受けることになる。


 自分と、家族の命を差し出して。


「大公殿下、グレンヴィル邸にいる一族及び使用人含め、全て捕らえたとの報告がありました」

「うむ、ご苦労。では、この反逆者を陛下に検分していただこう」


 そう言うと、グレンヴィルは兵士に引きずられるように連れて行かれた。


「婿殿……私達も行こうぞ」

「あ……はい……」


 大公殿下に促され、僕は一緒に皇宮の中に入る。

 今、復讐は果たされたはず、なんだけど……何故か僕の心は満たされることもなく、ただ、虚しさだけが去来していた。


 僕達は謁見の間に入り、皇帝陛下がいらっしゃるのを待つ。

 もちろんグレンヴィルは、無理やり(ひざまず)かされ、その額を床に押し付けられていた。


 そして。


「皇帝陛下の入場です!」


 皇帝陛下の近侍が部屋に響き渡るほどの大声で告げると、皇帝陛下はゆっくりと入ってきた。

 その後ろには、護衛の近衛騎士団長のほか宰相や大臣等を従えて。


 皇帝陛下は玉座に座って右手を上げると、罪人として(ひざまず)くグレンヴィルを一瞥(いちべつ)する。


(おもて)を上げよ」


 その声と共に、押さえつけていた騎士がグレンヴィルの髪をつかみ、顔を上げさせた。


「グレンヴィル……何故、このような真似をした?」


 皇帝陛下は理解できないといった表情で、ジッとグレンヴィルを見据える。

 一方のグレンヴィルはといえば、まるで親の(かたき)とばかりに皇帝陛下を睨みつけていた。


「何故……? 今、この私に『何故、このような真似をした』と聞いたのか……?」

「貴様! 口の利き方に気をつけろ!」

「グッ……!」


 信じられないといった表情で問い質すグレンヴィルを、騎士が押さえつけようとするが、グレンヴィルは無理やり顔を上げると。


「貴様……私が知らないとでも思っているのかっ! 貴様が……エイヴァと貴様が、この私を騙して、嘲笑(あざわら)って、何もかもメチャクチャにしたことをッッッ!」

「っ!?」


 グレンヴィルの叫びに、今度は皇帝陛下が息を飲んだ。


 だ、だけど、どういうことだ!?

 皇帝陛下とグレンヴィルに、何か因縁があったとでもいうのか!?


 それに、どうしてここで母上の名前が!?

 しかも母上と皇帝陛下が、どうして繋がっているんだよ!?


「ハハハ……何とか言ったらどうなんだ? 皇帝よ。まあ、言えないよなあ? この私の妻だった女と……いや、私の妻になる以前から、不貞を働いていたのだからな!」

「「「「「っ!?」」」」」


 グレンヴィルから放たれた衝撃的な一言に、玉座の間にいる全員が声を失う。


 え……? 今の話、って……?

 つまり、僕の母上はグレンヴィルではなくて、皇帝陛下と通じていた……?


 それも、グレンヴィルと結婚する前から?


 僕は唇を震わせ、おそるおそる皇帝陛下へと視線を向ける。

 皇帝陛下は……何も言わず目を(つむ)っていた。


 つまり、グレンヴィルの言ったことは、本当だということの証左だ……って……。


「ハハハハハ! ああ! 貴様等に全部包み隠さず教えてやろう! このエドワード=フォン=サウザンクレインという男が、いかに最低な男であるかをな!」


 そう叫ぶと、グレンヴィルは嬉々とした表情で語り始めた。


 ◇


 私が二十四歳を迎えた頃、ノーフォーク辺境伯からグレンヴィル家に縁談の申し込みがあった。


 両家の関係強化のため、一人娘であるエイヴァを差し出す、とな。


 お互い貴族であるから政略結婚なぞ当たり前のことであるし、貴族にしては珍しく、私もその歳まで独身だったこともあり、縁談はあっという間に決まった。


 ただし、エイヴァはまだ十六歳で、皇立学院に通っている身。

 なので、皇立学院の卒業後、私達は結婚することとなった。


 初めてエイヴァと出逢った時、私は年甲斐もなくときめいてしまった。

 その、あまりの美しさに。


 それからというもの、私はエイヴァと結婚する日を夢見て、指折り数えていたことを覚えている。

 彼女の誕生日には馬車の一台や二台では運びきれないほどのプレゼントを届け、行事や式典があれば彼女の元へ足繁く通った。


 そう……私の心の中は、エイヴァで埋め尽くされていたのだ。


 ある日、たまたま皇立学園の近くに用事があった私は、エイヴァの様子を見ようと学院を訪れた時、見てしまった。


 学院の中庭で……エイヴァとまだ皇太子だったこの男が、仲睦まじそうにしているところを。


 もちろん、それはあくまでも学院に通う生徒同士じゃれ合っているのだと、その時の私は考えていた。

 当然だ。私とエイヴァは婚約し、将来を誓い合っているのだから。


 だから私は、それ以降もエイヴァに何も言うこともなく、ただ彼女と一緒になる日を想っていた。


 そして……彼女が皇立学院を卒業した年の初夏の頃。


 私は、エイヴァと結婚した。

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