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真っ白になるまで

「父上……」


 軍勢の先頭で馬に(またが)る父上……いや、グレンヴィルを見て、僕はポツリ、と呟く。

 だけど……僕がこの男に対して『父上』と呼ぶのは、今日で最後だろう。


「む……ヒューゴ、何故貴様がここにいる?」

「はは……分かりませんか?」


 皇宮の門の前に立つ僕を見て不思議そうに尋ねるグレンヴィルに、肩を(すく)め、嘲笑を浮かべた。


「貴様を……今回のクーデターの首謀者、ジェイコブ=グレンヴィルを捕縛するためだ」

「っ!?」


 そう告げた瞬間、大公軍五百の軍勢が一斉に姿を現わす。

 もちろん、大公殿下も共に。


「そうか……貴様、この私に逆らうというのだな?」

「逆らう? まさか」


 忌々し気に僕を睨むグレンヴィルに向け、僕はヤレヤレといった表情を浮かべてかぶりを振った。

 そうとも……僕は元々、グレンヴィルに逆らってなんていない。

 だって、そもそも従ってはいないのだから。


「あ、念のためお伝えしておきますが、エレンに行わせていた精神魔法による洗脳、僕には効いていませんから」

「…………………………」


 ここでようやく理解したのだろう。

 グレンヴィルは明確に敵だと認識し、剣を抜いて切っ先を僕の眉間へと向けた。


「……いかに大公軍が精鋭とはいえ、こちらも四百の軍勢。おいそれと負けるつもりはない!」


 グレンヴィルは闇夜の中、高らかに叫ぶ。


 だけど。


「あー……悪いな。俺達バルド傭兵団は、勝ち馬に乗る主義なんだよ」

「っ!? な、なにっ!?」


 どこか気の抜けた声でヘラヘラとそう告げると、ドミニク=バルド率いるバルド傭兵団はグレンヴィルの軍勢から距離を取った。


「はは、こうなると父上の軍勢は残り百。一方、こちらは大公軍五百にバルド傭兵団三百を加え八百。もう勝ち目はないと思いますが?」


 馬上で混乱した様子のグレンヴィルに向け、僕はそう言い放つ。


「さあ、どうします? 大人しく、捕縛されますか? それとも……まだやりますか?」

「…………………………」


 僕は低い声で尋ねると、グレンヴィルは夜空を見上げ、静かに目を(つむ)った。


 そして。


「このまま貴様等の軍勢を突破し、皇帝の首を獲れば私の勝ち……それは変わらぬ! ならば、今さら引き下がれるかああああッッッ!」

「はは……何勝手に吠えてるんだよ、この負け犬」

「なにいっ!」

「だってそうだろう? オマエは負けたんだ。武器商人のネイサンから高額でふっかけられて買ったガラクタの武器や防具じゃ戦いにもならないし、僕達と内通していたバルド傭兵団に裏切られ、むしろどうやって勝つつもりなのか教えてほしいくらいだ」


 怒りに震えるグレンヴィルへ向け、僕はこれ以上ないほどに煽る。


 どこまでも、心を折るために。

 どこまでも、絶望を味わわせるために。


「ホラ、騎士団共もどうした? 僕はオマエ達の騎士団長とケネスの奴を殺したんだ。それこそ、僕に恨みがあるんじゃないのか?」

「「「「「っ!」」」」」


 僕の煽りを受け、グレンヴィルの騎士達が一斉に剣の柄に手を掛けた。

 ああ、知っているよ。オマエ達が、この僕を侯爵家のゴミ扱いしていることくらい。


 でもな……オマエ達の、これまでの六回の人生での行いを、僕は忘れてはいない。

 三回目の人生で炎に焼かれた時も、四回目の人生で魔獣に食われた時も、五回目の人生でルイスの身代わりで暗殺された時も、オマエ達はヘラヘラ(わら)っているばかりで、一切助けてくれなかったことを。


 だから。


「はは……そうやって戦う意思を見せたんだ。僕に殺されても、文句はないだろう?」

「「「「「っ!?」」」」」


 僕はニタア、と口の端を吊り上げると、一気に騎士達の集団に突っ込んだ。

 連中は驚いているけど、そんなの知ったことじゃない。


 ただ大人しく、ここで屍を(さら)せ。


「クッ!? お前達、ヒューゴ様……いや! 出来損ない(・・・・・)を囲め!」


 へえ、アイツが後任の騎士団長か。確か、以前は副団長を務めていた男だったよな。

 まあ、どうせ死ぬんだから関係ないけど。


「っ!? グアッ!?」

「ま、待て!? ウグウッ!?」

「ギャ!?」


 目の前にいる騎士達を、脇目も振らず、僕はただ(なぶ)り殺しにする。

 所詮はネイサンにつかまされた不良品の武器と防具だから、わざわざ甲冑の隙間なんて狙わらなくても倒せるんだけど、僕はあえて覆われていない首元だけを狙い続けた。


 あの時(・・・)のケネスと、同じように。


「ウワアアアアアッ!?」

「こ、こんな武器や防具じゃ歯が立たな……グヘッ!?」

「ま、待て!? 来るな! 来る……ゲブ……!?」


 騎士達は恐慌状態になり、我を忘れて逃げ惑い始める。

 だけど、周囲は大公軍とバルド傭兵団に阻まれ、どこにも逃げ場はない。


 ただ、僕に首を狩られ続ける。

 僕も、もう何人殺したかなんて分からない。


 目の前の者を、殺して、殺して、頭の中が真っ白になって……「婿殿!」…………………………え?


 僕の知っているごつごつした手の感触を肩に感じ、ふと我に返った。


「……もう、残っておらぬよ」

「あ……」


 大公殿下に静かに告げられ辺りを見回すと、騎士達は全員地面に転がり、唖然とした表情で馬に(またが)るグレンヴィルが残っているのみだった。

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