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三つ目の復讐 ※グレンヴィル侯爵視点

■ジェイコブ=グレンヴィル視点


「ふう……」


 セネット子爵からの手紙を読み終え、私は息を吐いて椅子の背もたれに体重をかける。

 内容は、明日の昼一番に蜂起し、駐留している皇国軍に攻撃を仕掛けるというものだった。


 そして私は、それに対処するためにウッドストック大公がセネット子爵領へと向かうのを確認した後、深夜に乗じて皇宮へと乗り込むだけ。


 そのための武器や防具についても、武器商人のネイサンから買い付け、セネット子爵を通じて雇ったバルド傭兵団に渡してある。

 これに、この侯爵家に仕える騎士団百人を皇都に秘密裏に呼び寄せており、バルド傭兵団と合わせると四百人。


 一方、皇宮に控える近衛騎士団の数は百人。私が敗れる要素はない。

 もちろん、大義名分も用意してある。


 先のオルレアン王国との戦による皇国の疲弊、皇帝の側近達による政治腐敗と、それを正せなかった皇帝への追及。

 半分は捏造だが、残りの半分(・・・・・)は事実だ(・・・・)


 特に、宰相に関しては色々とほこりが出てきたからな。

 これをもって粛清してやれば、エレンも溜飲が下がるだろう。


 このクーデターは、絶対に成功する。

 いよいよ……私の長年の悲願が叶う時が来たのだ。


 ――コン、コン。


「失礼します……」


 扉をノックして入ってきたのは、妻のアンジェラだった。


「どうした?」

「いえ……いよいよ、あなたの復讐(・・)が果たせるのかと思うと、私も居ても立ってもいられなくなりまして……」

「そうか……」


 思えば、このアンジェラにもつらい思いをさせてきた。

 あの女(・・・)の亡霊の影につきまとわれ、気の休まることもなかっただろう。


 それでも、グレンヴィル侯爵家の……この私のために、ずっと我慢をしてくれたのだ。


「……いよいよ、私はお前の想いに報いることができる。明日が終われば、もうアイツの影は消えてなくなる」

「はい……っ!」


 アンジェラは涙を(こぼ)し、私の胸に飛び込んできた。


「それで……あの女(・・・)の遺した忌まわしき子はどうされますか?」

「フフ……決まっている。アイツが大公家の全てを引き継いだあかつきには、この私が全てを奪い、あとは消し去る(・・・・)までだ」


 微笑みながらそう告げるが、アンジェラは納得がいかないようで、眉根を寄せている。


「……ウッドストック大公が皇国の武を司っている以上、たとえクーデターを成功させても油断できない。アイツが大公家を手に入れてからでなければ、我々が危ういのだ、分かってくれ」

「……はい」


 アンジェラが、渋々といった様子で頷いた。


「では、あなたの無事と成功を、女神グレーネにお祈りいたしております」

「うむ……」


 恭しく一礼し、アンジェラは執務室を出て行った。


「父上……今、母上が泣きながら部屋を出て行かれたようですが……」

「なんだ、ルイスか」


 入れ替わるように、今度はルイスが入ってきた。


「それで、何の用だ」

「いえ、先程ノーフォーク辺境伯からの手紙が届いたので、俺が直接お持ちしました」

「貸せ」


 ルイスから手紙を受け取り、目を通す。

 フフ……ようやくあの男も、重い腰をあげるようだな。


 まあ、ノーフォーク辺境伯もいわば被害者(・・・)だからな。

 それに、この私に対する罪滅ぼしの意味合いもあるのだろう。


「それで父上、例のウッドストック大公家はどうするつもりなのですか?」

「む……」


 アンジェラに続き、ルイスも尋ねてきたか。

 だが、その意味合いは全く違うがな。


「……大公家については、ヒューゴの奴が全てを手に入れるまでは保留だ」

「どうしてですか? 皇帝を討てば、全ては父上の思うがままではないですか」


 納得のいかないルイスは、あろうことかこの私に詰め寄る。

 ハア……どうして私のたった一人(・・・・・)の息子(・・・)は、学ぼうとはしないのだろうか……。


「……お前にも分かるように説明してやる。たとえ皇帝を討ったとしても、皇国の全兵力を担う大公家が牙を()けば一巻の終わりだ。むしろヒューゴの奴が大公家に入ったからこそ、このクーデターが成功しうるのだ」

「し、しかし……」

「ウッドストック大公とて、ヒューゴがいる以上無下にはできないはず。あとはヒューゴが大公家の実権を握れば、グレンヴィル家は盤石となるのだ」

「…………………………」


 そう告げると、ルイスは悔しそうに唇を噛む。

 全く……大公の孫娘なぞに懸想しおって……。


「……心配するな。全てが終われば、ヒューゴに大公の孫娘を差し出させる。もちろん、孫娘に手をつけさせぬようにして、な」

「っ! は、はい!」


 ルイスが先程までの憮然とした表情から打って変わり、満面の笑みを浮かべる。

 本当に、万が一この私がいなくなった後、グレンヴィル家は大丈夫だろうか……。


「もういいだろう。これ以上の用がないなら、自分の部屋にでも戻っていろ」

「分かりました! ありがとうございます、父上!」


 足取り軽く、執務室を出て行くルイス。

 ……エレンに、大公の孫娘に手を出さぬようにヒューゴの奴を洗脳させねばな。


 フフ、いよいよだ。

 皇帝……いや、エドワード=フォン=サウザンクレインよ。


 この私があの時(・・・)味わった屈辱、その命を持って償うがいい……!

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