皇帝陛下と二人の皇子
「メルザ、どうぞ」
皇宮に到着すると、僕は先に降りてメルザに手を差し出す。
「ふふ……ありがとうございます」
ゆっくりと馬車から降りるメルザは、その動きの一つ一つにも気品があり、まさに大公家の令孫に相応しい振る舞いだった。
当然、そんな彼女に今日の招待客は目を奪われるわけで……。
「……やはり、この視線は受け入れられません」
僕は思わずポツリ、と零した。
「ヒュー、仕方ありません……そもそも私がパーティーに参加すること自体初めてですし、今でこそかなり払拭されましたが、あの噂だってあるわけですから……」
そう言うと、メルザが少しだけ悲し気な表情を見せた。
「……ですが、これでますます噂は消え去ってしまうでしょうね。だって、メルザは怪物どころか、女神よりも綺麗なのですから……」
「あ……ふふ、ありがとうございます、ヒュー」
嬉しそうにはにかむメルザ。
僕も、そんな彼女の表情が見れて嬉しい。できれば絵画に収めたいくらいだ。
「はっは、では行こうぞ」
大公殿下の後に続き、僕達は皇宮の中へと入っていく。
そして。
「こ、ここが……!」
そこは、今日のパーティー……いや、皇室がパーティーを催すための巨大なホールだった。
中は豪華なシャンデリアできらびやかに彩られており、まさに皇国を象徴するかのような様子だった。
もちろん、用意されている料理の数々も素晴らしいもので……。
「ふふ、やっぱりヒューは食いしん坊ですね」
「あ、あははー……」
そんな料理を注視していた僕を見て、メルザがクスクスと笑った。
僕としては、笑ってごまかすしかない。
そうして、貴族達がホールに全て集まると。
「皇帝陛下、皇后陛下、並びにクリフォード殿下、アーネスト殿下の御入場です!」
ファンファーレと共に、ホールの階段の先から皇帝陛下達が姿を現わした。
皇帝陛下……学院の入学式以来、かな……。
あの時もそうだったけど、何故僕は、皇帝陛下を見てどこか懐かしさを覚えてしまうんだろうか……。
「皆の者、今日は我が息子クリフォードのために集まってくれて感謝する、皆、大いに楽しんでくれ」
そんな皇帝陛下のお言葉を合図に、パーティーが始まった。
◇
「ふふ……ヒュー、こちらの料理も美味しいですよ?」
「本当ですか?」
僕とメルザは、パーティーで用意された料理に舌鼓を打つ。
でも、本音を言うと大公家の料理長の作ってくれる料理のほうが、美味しいような気がする。
「メル、婿殿、こちらへ」
「あ、お爺様が呼んでいらっしゃいますね」
「ですね。行きましょう」
僕達は、手招きする大公殿下の元へと向かうと。
「あ……こ、これは偉大なる皇国の太陽、皇帝陛下にご拝謁賜ります……」
僕は慌ててかしづき、メルザはカーテシーをした。
「ふふ、構わんよ……ところで、君は……」
「はい、ウッドストック大公殿下の御令孫の婚約者で、グレンヴィル侯爵家が長男、ヒューゴ=グレンヴィルと申します」
「っ!?」
首を垂れながら名乗ると、皇帝陛下は一瞬言葉を失うが、すぐに気を取り直した。
「……そうか。今日は楽しむがよい」
「はい、失礼します……」
僕はメルザと共に、皇帝陛下から離れた。
背中越しに、皇帝陛下に僕とメルザを自慢する大公殿下の大きな声を聞きながら。
「ハア……い、いきなりだから緊張しました……」
「ほ、本当です……帰ったら、お爺様にきつく言いませんと」
僕達は果物のジュースを一気に飲み干し、お互い顔を見合わせながら溜息を吐いた。
すると。
「やあ! 二人も来ていたのだな!」
満面の笑みを浮かべながら、面倒なことにアーネスト殿下が近寄ってきた……。
「これは皇国の星、アーネスト殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう……」
「よ、よしてくれないか……そのような態度を取られると、調子が狂うぞ……」
「ですが、ここは学院ではありませんので……」
僕がいつもと違う態度に驚き、慌てる第二皇子。
いや、僕だって時と場所くらいは弁えるから。
「ところでヒューゴ……君はグレンヴィル侯爵の長男だが、やはり、その……」
なんとも歯切れの悪い口調で、第二皇子は僕の顔色を窺う。
ただ、聞きたいことは分かる。
「……僕はグレンヴィル家とは関係ありません。あくまでも、ウッドストック大公家の人間としての立場ですから」
「そ、そうか……」
そう告げると、第二皇子はホッと胸を撫で下ろした。
まあ、グレンヴィル家に付き従うとなれば、一回目の人生のように、第一皇子派に与するということだからね。
「いずれにせよ、まだ僕はメルザの婚約者の身。その先について、僕には選ぶ立場にはありません」
「そ、そうだな……だが、これからはいつでもこの私を頼ってくれたまえ」
「は、はあ……」
手を握りながら僕の肩を叩き、何度も振り返りながら離れていった。
何というか、その……第二皇子は勧誘が下手だなあ……。
遠ざかる第二皇子の背中を眺めながら、そんなことを考えていると。
「失礼、少々よいかな?」
グラス片手に声を掛けてきた令息。
「……これは皇国の星、お初にお目にかかります……」
僕とメルザは、恭しく一礼する。
そう……彼こそが、この皇国の第一皇子……“クリフォード=フォン=サウザンクレイン”だ。
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