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やりたい放題

「やあ、兄さん」


 グレンヴィル侯爵にサファイア鉱山の調査と採掘についての話をした日から十日後、学園の教室でメルザと談笑しているところに、ルイスの奴がやって来た。


「……何の用だ」

「何の用だって、つれないなあ……例の山の調査権と採掘権について、我が侯爵家に委託するための契約書類を届けに来たんじゃないか」


 そう言うと、ルイスはニヤニヤしながら封蝋が施された封筒を手渡してきた。


「……分かった。明日にでも大公家の者から届けさせる」

「えー、そんなことしなくても、俺に手渡してくれればそれでいいよ」

「駄目だ。お前は信頼できない」


 そうとも。これは僕の復讐の命運を賭けた最後のピースなんだ。

 それを、こんなメルザに対する礼儀も弁えないような者に預けるなんて、できるわけがない。


「ハア……前にも言ったろ? 俺はこう見えて、グレンヴィル家が行っている事業を既にいくつか任されているんだ。兄さんと違って」


 ルイスは溜息を吐きながら、肩を(すく)めてかぶりを振る。

 ああ……知っているさ。

 これまでの六回の人生においても、オマエが事業を手掛けてことごとく失敗していることもな。


「とにかく、この書類はオマエには渡さずに大公家の者から直接届ける。分かったな」

「……ああ、分かったよ」


 僕に折れる気がないと分かったのか、ルイスは顔をしかめながらようやく受け入れた。


「なら、話は終わりだ。僕とメルザは忙しいから、早くこの教室から出て行ってくれ」

「……忙しそうには見えないけど?」

「ふふ……忙しいですよ? 私とヒューは、あなたと違って暇ではありませんので」


 ジト目で睨むルイスを煽るように、メルザはクスクスと笑いながら僕にしなだれかかった。

 なるほど……横恋慕しているルイスにとって、僕とメルザの仲睦まじい姿を見せつけることは、さぞや屈辱に違いない。

 ましてや、見下している相手だと尚更、ね。


「…………………………フン」


 するとルイスは、忌々し気に僕を睨みつけ、鼻を鳴らして教室を出て行った。


「ふふ……結局あの男は、惨めな思いをしたくて来たのでしょうか?」

「はは……そうかもしれない、んだけど……」


 僕はメルザの肩を叩き、周りを見回しながら苦笑する。


「あ……そ、そうでした……」


 周りの視線に気づいたメルザが、顔を真っ赤にして慌てて離れる。

 でも……その白い手だけは、いつもまでも僕の手を離さなかった。


 ◇


「はっは! グレンヴィルの小倅(こせがれ)め、大量にサファイアを掘っておるらしいわい!」


 いつものように三人での夕食中、大公殿下が嬉しそうに笑う。

 グレンヴィル侯爵家が本格的にサファイア鉱山の調査と採掘を始め、大公殿下がその監視結果について僕達に報告してくれたのだ。


「……ですが、一気にサファイアを掘ってしまえば、市場での価値が下がり、思うように資金調達ができなくなるおそれがあると思うのですが……」

「うむ、婿殿の言うとおりじゃ」


 僕がおずおずと尋ねると、大公殿下は顎鬚(あごひげ)を撫でながら満足そうに頷いた。


「じゃからあの青二才、他国に売りさばいておるようじゃ」

「「他国!?」」

「うむ」


 他国で売るって、そんな販路を構築するにも時間と手間がかかるし、何より他国との取引を行う場合には、皇国の許可が必要だ、

 なのに、こんなに素早く売りさばいたりすることができるなんて…………………………まさか!?


「相手はオルレアン王国ですか!?」

「はっは! さすがは婿殿、よくぞ気づいた!」


 僕の答えを聞き、大公殿下が嬉しそうに膝を叩いた。

 だけど、そうか……元々、オルレアン王国はグレンヴィル侯爵のクーデターを支援しているし、その繋ぎ役としてセネット子爵がいる。


 なら、外国で売りさばくことも難しくはない……。


「そのおかげで、あやつはみるみるうちに資金を蓄えておる。このままいけば、あと一、二か月もすれば、準備は整うじゃろう」

「そうですか……」


 大公殿下の言葉を聞き、僕はギュ、と胸元を握りしめた。

 僕の復讐の時が、もう目と鼻の先まで来ている……。


「それにしても……あの山はヒューのものだというのに、やりたい放題ですね……気に入りません」


 メルザが憮然とした表情で告げる。


「全くじゃ。いくらこちらも目的のためとはいえ、納得はできんの」


 大公殿下も、眉根を寄せながらウンウン、と頷く。

 まあ、あの連中なら当たり前だろう。それだけ僕のことを道具以下(・・・・)と思っているのだから。


「ですが……アイツ等は今頃、最高の気分でいるに違いありません。そして、いざクーデターの時に絶頂を迎え……絶望の時を(・・・・・)迎えるんです(・・・・・・)

「……そうですね」

「……じゃな」


 僕が静かに告げると、二人はゆっくりと頷いた。


 もう……その時は近い。

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