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最後の一手に向けて

「ヒューゴ様! たまにはマッサージでもいたしましょうか?」

「……いらない」


 エレンが揶揄(からか)うように言うと、僕は素っ気ない言葉を返す。

 あの調査結果を聞いてから一週間が経つが、どうにも彼女と今までどおりに接することができないでいる。


 すると。


「ヒュー、今いいですか?」

「メルザ!」


 部屋を訪ねてきたメルザを見て、僕は笑顔で駆け寄った。

 エレンから離れられるのもあるけど、何よりメルザがいるだけで幸せなのだ。


「どうしましたか?」

「はい……少々手伝っていただきたいことがありまして……」

「ええ……僕はもちろん構いませんが……」


 はて……僕に手伝ってほしいことってなんだろう……?


「エレン、ヒューを借りていきますね」

「はい! それはもう! 二人で仲睦まじくしてくださいませ!」


 ……エレンは何を言ってるんだ。

 僕とメルザが仲睦まじいだなんて、そんな当たり前のことを……。


 ニコニコしたエレンに見送られ、僕はメルザと一緒に部屋を出た。


「それで、手伝ってほしいことというのは……」

「ふふ、特にありません。ただ、エレンがあなたの部屋に入っていったというのを、他の侍女に聞いたものですから」


 そう言って、メルザが悪戯(いたずら)っぽく微笑んだ。

 はは……どうやらメルザは、僕を気遣ってくれたみたいだ。


「たとえ誰であっても、ヒューが私のいないところで他の女性と一緒にいるなんて、到底見過ごせませんから」


 前言撤回。

 もっと嬉しい答えだった。


「ふふ……もう外も暗くなったようですので、あの庭園でお茶でもいたしましょうか」

「いいですね!」


 僕とメルザは庭園に向かい、テラスでお茶を楽しんだ。


 ◇


「さて……いよいよ残る一つ、グレンヴィル侯爵の資金源についてじゃ」


 これからのことについて話し合うため、大公殿下の執務室に集まった。

 といっても、やることは決まっているんだけど。


「はい……グレンヴィル侯爵の()である“アスカム”男爵の領地にある山で、今から三年弱の間にサファイア鉱石が発掘されます。それにより、グレンヴィル侯爵家は潤い、いよいよクーデターの目途が立つわけです」

「うむ……じゃが何度聞いても、あそこでそんなものが採れるなんて、思いもつかんわい……」


 そう……あの山でサファイアが発掘されたのは全くの偶然だったはず。

 元々は、グレンヴィル侯爵がクーデターのために集めた魔法使いによる大規模魔法の訓練によって、露出した岩肌から発見されたのだから。


「お爺様、ヒューの言葉に嘘偽りがないのはご存知でしょう。なら、それは事実なのです」

「う、うむ、もちろん私も分かっておるとも」


 メルザにキッ、と睨まれ、大公殿下が思わず肩を(すく)めた。


「それで、これから僕達が行うことですが、ますはアスカム男爵領の山を安く購入した後、同じように大規模魔法をぶつけて岩肌を露出させてサファイアの鉱石を見つけましょう」

「そして、その後はヒューの手柄ということでエレンを通じてグレンヴィル侯爵に報告。大公家としてグレンヴィル侯爵に買値と同じ値段で売りつける、というわけですね」

「はい」


 そう……今回の目的はグレンヴィル侯爵の資金を絶つことではなくて、資金を確保させてクーデターへの動きを早めること。

 そうすることで、僕の復讐を果たし、結果的に皇国を救うことに繋がるのだから。


「……本当は、事を起こす前に処断してやりたいんじゃがのう」

「大公殿下、それは無理です。そうするにしても、今の段階では証拠も少ないですし、グレンヴィル侯爵に(かわ)され、次の機会にまた狙われるだけです。根本から無くすためには、全ての状況証拠を揃えてからでないと……」

「う、うむ……」


 今回僕達が武器の確保と傭兵の雇用だって、使えないとなれば別のところと手を組まれてしまうだけだし、今の状況だけで追い込もうとしても、この皇国でも有数の貴族であるグレンヴィル侯爵を追い込むには足らないから……。


 何より、次の機会を狙われてしまうと、六回の人生とは異なる未来になって、僕も予測できなくなり、手が打てない。


 だから……万全の状況でグレンヴィル侯爵の息の根を止めないと。


「そうそう……ヒュー、お爺様。今度の山の購入や大規模魔法の行使なら、先日の賊討伐の遠征のように危険もございませんよね?」

「え、ええ……」

「でしたら、今度は絶対に私も一緒に行きますので」


 メルザはずい、と身を乗り出し、僕と大公殿下に念を押してきた。


「あはは、もちろんです。僕もメルザと一緒に行きたいですから」

「はっは! まあ、今回は山を買って魔法をぶっ放すだけじゃからの! ちょっとした旅行みたいなもんじゃ!」


 僕と大公殿下は顔を見合わせて笑った。


「では、来週早々にでも向かうとするかの。アスカム男爵にも私から話を入れておく」

「「はい!」」


 こうして、この日の話はお開きとなり、僕とメルザは部屋へと戻る。


「ふふ……ヒュー、来週は楽しみですね!」

「ええ!」


 僕とメルザは、来週のことに思いを馳せて微笑み合った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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