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もう一つの復讐

「はっは! メル、婿殿、今帰ったぞ!」


 僕が大公家の屋敷に帰ってきてから十日後の夕方。

 大公殿下がようやく遠征から帰還された。


「お爺様、お帰りなさいませ」

「大公殿下、お疲れさまでした」


 僕とメルザは玄関で、大公殿下を出迎えた。


「うむうむ。着替えと身体の汚れを落としたら二人を呼びに行かせるから、すまんが執務室に来てくれ。話がある」

「話、ですか?」

「そうじゃ」


 大公殿下の言葉に、僕とメルザはお互い顔を見合わせて首を傾げる。

 一体何の話なんだろう……。


「分かりました。では、私はヒューの部屋で一緒におりますので」

「うむ」


 僕はメルザと一緒に部屋に戻った。


「……メルザは何の話だと思いますか?」

「さあ……ただ、お爺様の様子からは良い話、というわけではなさそうです……」


 となると、復讐に向けた計画で何かまずいことでも起きた、ってことなのかな……。

 ……いや、武器商人のネイサンとは今も定期的に接触して情報共有もできているし、傭兵団についても上手くいったばかりだ。


 ウーン……やっぱり、何も思いつかないな……。


「いずれにしても、お爺様がお話しくださるのですから、私達はここで待っていましょう」

「メルザ……そうですね」


 僕達はベッドの上に座りながら、肩を寄せ合って雑談をしていると。


 ――コン、コン。


「ヒューゴ様、メルトレーザ様、大公殿下が執務室へ来るようにとのことです」


 エレンがやって来て、大公殿下の言伝(ことづて)を告げる。

 だけど……エレンが大公殿下の指示を受けるだなんて珍しいな……。


「分かった、すぐに向かう」


 僕は立ち上がり、メルザの手を取る。


「では、行きましょうか」

「ふふ……ええ」


 部屋を出て、深々とお辞儀をするエレンを尻目に、僕達は大公殿下の執務室へと向かった。


「おお、待っておったぞ」


 扉を開けて中に入ると、大公殿下が笑顔で出迎える。


「それで、話というのは……」

「うむ……実は遠征の帰りに、早馬で例の(・・)調査結果を受け取っての」

例の(・・)って……まさか」

「そうじゃ。婿殿と一緒にグレンヴィル侯爵家から派遣されてきた、エレン=ミラーじゃ」


 そうか……ようやくエレンの調査が終わったんだ。


「それで……その調査結果はどうだったんですか?」


 エレンの実家はミラー子爵家で、グレンヴィル家の()でもない、ただの田舎にある貴族の一つだということは分かっている。

 そんなミラー子爵家が、どうやってグレンヴィル家との接点を持ったのか……エレンが何故、僕を洗脳してジーンを殺害させようとしたのか、そして、僕の部屋であんな表情を見せたのか、それがいよいよ分かるんだ……。


「……結果としては、あまりよくない内容じゃった……」


 それから、大公殿下が調査結果について話してくれた。


 ミラー子爵家は皇国でも中立派であり、皇都の政情に絡むことなく、地方でのんびりと領地経営を行っていた。

 だが五年前、そんなミラー家に事件が起きる。


 ミラー家の十歳の長男が、通りかかったある貴族(・・・・)の馬車にはねられてしまったのだ。


 当時、サウザンクレイン皇国はオルレアン王国と休戦となって間もない頃であり、非常に不安定な外交関係にあった。

 そして馬車に乗っていた貴族は、皇帝の命によりオルレアン王国との交渉を終え、報告のために急ぎ皇都へと向かっている途中だった。


 事情はどうであれ、貴族の跡取りを馬車ではねてしまったのは事実。

 すぐにでも治癒師が治療を施せば、その少年は助かったかもしれない。


 だが……その貴族は、報告を優先してはねた貴族の少年をそのままにして、去ってしまったのだ。


「……その子どもは、どうなったのですか……?」

「……結局、ミラー家の者が駆けつけた時には手遅れじゃったらしい」

「そんな……」


 メルザが両手で口元を覆い、怒りで肩を震わせる。

 ほんの少し、治癒師の元へ行って治療を施すのなら、ものの一、二時間で済む程度だ。


 なのに……その貴族は……っ!


「大公殿下……それで、その貴族というのは……」

「婿殿の考えているとおり……皇国の宰相、“ダリル=グローバー”じゃよ」

「そう、ですか……」


 なるほど……これで話が繋がった。

 宰相……いや、グローバー侯爵家は、エレンにとって復讐の相手なんだな。


「……そのことについて、もちろんミラー家はグローバー家に訴えたそうじゃが、知らぬ存ぜぬで通したそうじゃ。しかも、『事を荒立てたら家を潰す』と脅されての」

「酷い……っ!」


 メルザがギリ、と歯噛みした。


 ……もし、メルザが同じように馬車にはねられて、それを助けようともせずに走り去っていく貴族がいたら、僕は絶対に八つ裂きにしてもしたりないだろう。


 エレンも……そんな気持ち、なのかな……。


「今の話からも分かるとおり、恐らくはグレンヴィルの小倅(こせがれ)に『クーデターが成功すれば、その時に宰相もろとも始末する』とでもそそのかされて(くみ)したんじゃろう。そこで、じゃ」


 大公殿下は掛けているソファーから身を乗り出し、ジッと僕を見た。


「婿殿……やはりエレンにも復讐をするのかの?」


 僕は今日、初めてエレンの目的も、行動の意味も知った。

 でも、僕はあのエレンに洗脳されて、三回目の人生では炎に焼かれている僕を、外から嘲笑(あざわら)いながら……いや、復讐に狂った表情で眺めていて……!


「ヒュー……いいんですよ?」


 メルザが、僕の手をそっと握る。


「メルザ……いい、って?」

「あなたがどちらを選ぼうとも、どこへ進もうとも、私は……どこまでもあなたと共に……」

「あ……」


 そう言って、微笑むメルザ。

 慈愛に満ちたその姿が、僕にはまさに女神に映った。


 僕は……。


「……メルザ、僕はエレンにも復讐をします」

「そう、ですか……」


 僕の答えを聞き、メルザがゆっくりと頷く。


 物語の主人公なら、こんな話を聞いたならエレンに同情して、復讐対象から外すんだろう。

 でも……僕はそうじゃない。


 だから、僕はエレンにも復讐する。


 エレンが……もう、復讐にとらわれずに済むように。

お読みいただき、ありがとうございました!


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