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不快な弟

「ふふ……ヒューは約十日ぶりの学院ですね」


 遠征から帰ってきた次の日の朝、僕はメルザと一緒に馬車に乗りながら皇立学院へと向かっている。


「そうですね。しかも、ルイスは今日は学院にはいないということもありますので、なおさら楽しみです」


 そう……僕はサウセイル教授に作っていただいた携帯用の転移魔方陣があったからすぐに帰ってこれたけど、ルイスはグレンヴィル侯爵と共にまだセイルブリッジの街にいるに違いない。

 仮に出立していたとしても、どうやっても皇都に戻って来るまでには五日はかかるからね。


「ところで……僕がいない間、メルザはその……変な子息達に絡まれたりはしていませんか?」

「? どうしてですか?」


 僕の質問の意図が分からないのか、メルザがキョトン、とした。


「い、いえその……例えば、ルイスのような輩がメルザに声をかけてきたりして不快な思いをしていないか、とか……」


 僕は少し歯切れの悪い口調でそう言うと。


「プ……ふふ! お爺様がおっしゃっていたとおり、ヒューは本当に独占欲が強いですね!」

「う……」


 メルザに吹き出しながら指摘され、僕は思わず息を詰まらせた。

 う、うう……だ、だけど、僕はメルザが他の男と話したり、見られたりするだけでも嫌なんだから……。


「ふふ、安心してください。私はヒューだけなんですから、そもそも他の子息の方々など相手にしておりません」

「そ、そうですか……」


 クスクスと笑うメルザの言葉を聞いて、僕はホッ、と胸を撫で下ろした。


「あ……でも……」

「っ!? な、何かあったんですか!?」

「いえ……大したことではないんですが……」


 今度はメルザが、少し言い淀みながら視線を落とした。


「お願いしますメルザ、僕に話してください」


 彼女の肩をつかみ、不安でたまらない僕は懇願する。


「本当に大したことではないんですよ? ヒューがいない間にも、アーネスト殿下が毎日のように私の席まで来て機嫌を取りに来ているというだけで……」

「大問題じゃないですか!」


 ま、まさか第二皇子、メルザが世界一綺麗だからって横恋慕してるんじゃ……!


「……これは、今度はアーネスト殿下と仕合をして、たとえ第二皇子であっても二度とメルザに近づけないようにするしか……!」

「ふふ、もう……そんなことをしたら、ますます面倒ですから駄目ですよ?」


 メルザが苦笑しながらたしなめる。


 でも……うん、学院に着いたらキッチリ釘を刺しておこう。


 ◇


「……やっぱり不快ですね」


 皇立学院に着いて馬車を降りると、案の定子息達がメルザをチラチラと何度も見ている。

 綺麗で可愛いのは分かるけど、いい加減弁えてほしい。


「……私もヒューの気持ち、よく分かりました」


 僕の隣で、眉根を寄せたメルザがポツリ、と呟いた。


「え、ええと……メルザ、どうしたんですか?」

「気づかないんですか? 令嬢達が、さっきからヒューを眺めていることに」


 そう言われ、僕は周囲を見回すと……あ、何人かの令嬢に目を逸らされてしまった……。


「ま、まさか……今も、僕と目が合った瞬間に顔を背けられてしまいましたから、むしろ嫌われているのではないかと……」

「……とりあえず、ヒューはそのままでいてください」


 そう言うと、何故か安堵した様子を見せるメルザに、僕は首を傾げるばかりだ。


 その時。


「やあ、兄さん」

「「っ!?」」


 突然、後ろから声を掛けられ、僕とメルザは勢いよく振り返ると……な、なんでルイスの奴が学院に来ているんだ!?


「ルイス……お前、まだセイルブリッジの街にいたんじゃないのか……?」

「ハハ、まさか。父上も俺も忙しいんだ。もちろんゲートを使って昨晩のうちに帰ってきたさ。それより兄さんこそ、大公殿下に従軍してなくていいのかい?」


 そう言って、ニヤニヤとしながら僕の顔を(のぞ)き込むルイス。

 本当に、不快にさせる弟だな。


「……賊がアジトから忽然と消えたことが判明したことから、学院がある僕は任務を解かれ、ゲートを使って戻ってきたんだよ」

「ふうん……なんだ、残念だなあ」

「残念? どういう意味だ?」

「だって兄さんがいなければ、メルトレーザ様ともっと仲良くなれたかもしれないのに」


 コ、コイツ……。


「……いい加減にしてください。私があなたと仲良くなるなど、永遠にありません」

「なんだよ、つれないなあ……でも、この俺と仲良くしておいたほうが今後のため(・・・・・)にもいいと思うんだけど?」


 今のルイスの言葉で理解した。

 なるほど……コイツ、昨日のバルドとの交渉が上手くいったから、クーデターが成功に近づいていると勘違いしているんだな。


 確かにコイツの言うとおり、クーデターが成功すればグレンヴィル家が皇国の頂点に君臨することになる。

 そうなれば、たとえ大公家だろうが思うがまま、そう考えているんだろう。


 本当におめでたい奴だ。

 そんな未来、この七回目の人生では絶対に起こさせないのに。


「ははっ」

「……何がおかしい?」


 僕が思わず鼻で笑ったのを見て、ルイスが顔をしかめながら尋ねた。


今後(・・)なんてあると思っている、オマエが滑稽だったからだよ」

「っ! 兄さんのくせに俺を侮辱するのか!」


 激昂したルイスが詰め寄る。


 だけど。


「ルイス……訓練場でのサイラスとの仕合を忘れたのか?」

「っ!?」


 そう言った瞬間、ルイスが息を飲んでたじろいだ。


「……メルザ、不快な思いをさせてすいません……もう教室に行きましょう」

「ふふ、そうですね」


 ニコリ、と微笑んだメルザの手を取り、僕達はルイスを無視して教室へと向かう……んだけど。


「兄さん……俺はオマエと違って、父上から認められて色々と重要な仕事を任されている」

「……それが?」

「そもそも、格も立場も違うんだから、大公家に婿養子に入るからって調子に乗らないことだね。オマエには、悲惨な結末しかないんだからな」


 背中越しにルイスにそう告げられると、僕はあまりにも下らなすぎて思わず肩を竦めた。

 その結末は、オマエ自身が味わうのに、ね。


「そうだな。その時(・・・)を楽しみにしてるよ」


 その一言だけを残し、僕とメルザは今度こそ教室へと向かった。

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