あなたの元へ
一通りの撤収作業が完了し、僕達はセイルブリッジの街の傍の陣へと帰還する。
なお、バルドはパートランド卿が直々に監視することになり、捕えた団員達はそれぞれバラバラに各部隊に組み込まれることとなった。
これは、バルド傭兵団がまた結集しないよう、お互いを遮断する目的がある。
「さて……婿殿、これで賊討伐の任務は終了じゃ。明日はアジトを調査するふりをして、もぬけの殻じゃったことをセネット子爵に一言伝えれば、いよいよ皇都に戻れるの」
「はい!」
僕は大公殿下に元気よく返事をした。
そう……やっとメルザの元に帰れるんだ……!
「それでじゃ。今回、バルドが加わったことで大公軍の人手も足りておる。じゃから、婿殿の賊討伐の任をこの場をもって解く」
そう言うと、大公殿下が口の端を持ち上げた。
「じゃ、じゃあ!」
「うむ……早く帰って、メルを安心させてやってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
僕は大急ぎで自分の幕舎へと戻り、服などの私物一式をまとめた後、転移魔方陣の描かれた羊皮紙を広げ、四方に魔石を配置する。
そして荷物を持って魔法陣の上に立ち、転移を操作するための小さな魔石を握りしめた。
その瞬間、僕はあっという間に大公家の屋敷へと戻ってきた。
でも。
「はは……さすがにこんな時間じゃ、メルザも寝てるかな……」
撤収作業を終えて幕舎に戻ってきた時には、既に日付が変わっていたからなあ……。
そんな時間まで、メルザが待っているはずはない、か……。
僕はかぶりを振って苦笑すると、自分の部屋へと戻る。
すると。
「? あれは……」
メルザの部屋の扉の隙間から、淡い光が差し込んでいた。
ひょっとして、まだ起きてるのかな……。
僕はゆっくりとメルザの部屋の前に近づくと。
「女神グレーネ様、お願いします……どうかヒューを、私の元に無事に返してください……!」
そこには、窓の外へ向かって必死に祈り続けているメルザの姿があった。
僕は……なんて幸せ者なんだ。
こんなに愛している女性にここまで想われて、求めてくれて……!
そんな彼女の姿に、僕は堪らずノックもせずに扉を開けて中に入った。
「メルザ……!」
「っ! ヒュー!」
ああ……メルザが振り返って僕を見た瞬間、こんなにも最高の笑顔を見せてくれる。
心からの安堵と、喜びを湛えながら……!
「メルザ!」
「ヒュー!」
僕はメルザへと駆け寄って、その華奢な身体を抱きしめる。
メルザの笑顔が、匂いが、温もりが……僕の心も身体も、全部癒してくれるんだ……。
「メルザ……ただいま帰りました……」
「ヒュー……おかえりなさい」
僕達は抱きしめ合いながら、お互いの温もりを心ゆくまで堪能した。
◇
「ふふ、そうだったんですね」
それから僕達は、時間も忘れてたくさん話をした。
もちろん、毎日メルザには逢っていたんだけど、それでもメルザとの会話が楽しくて仕方がない。
それはメルザも同じようで、一度話した内容であっても、もう一度、もう一度とせがんだりする。
もちろん僕だって、メルザがどうやって過ごしていたのかを聞くだけで、その時のメルザを思い浮かべては口元を緩めているわけで……。
うん……要は、僕達はお互いが誰よりも大好きだということだ。
「ですが……これでヒューが復讐を果たすための準備が二つ整ったわけですね」
「はい……あと一つ、これさえ済めば、いよいよあのグレンヴィル家を……」
そう言って、僕は拳を強く握りしめる。
そうだ……あの六回の人生を経て、僕はグレンヴィル家に……家族に見切りをつけ、復讐すると誓ったんだ。
そして、その復讐が終われば……僕は、今度こそ前に進めるんだ……。
「ふふ……復讐を終えたら、一度どこか遠くへ旅行にでも行きませんか?」
「旅行……いいですね! ぜひ行きましょう!」
メルザの提案に、僕は大きく頷いた。
「あと、僕はメルザと美味しいものをたくさん食べたいです!」
「ふふ! それもいいですね! 他には……」
それから僕達は、復讐を終えた後に何をするか、色々と話し合った。
はは……こんな僕が、そんな未来のことを考えられるなんて……。
「あ……ですが、全てが終わったら、一番したいことがあるんです」
「そうなんですか? 実は私もなんです」
「メルザも?」
「はい!」
メルザのしたいこと、か……。
僕はもちろん、その……アレだけど、メルザも同じ気持ちだったら嬉しいな……。
「ふふ……でしたら、二人で同時に言い合いっこしませんか?」
「うん……いいですね」
ということで、僕達は居住まいを正して向かい合い、息をすう、と吸うと。
「「あなたと結婚したい」」
はは……! メルザも僕と同じだった!
「ふふ! やっぱりヒューです! 私のことを分かってくれて、求めてくれて、受け入れてくれて……!」
「僕もです! 僕は、あなたに出逢えた奇跡を、女神グレーネに心から感謝します!」
感極まったメルザが、僕の胸に飛び込む。
「メルザ……あなたの僕への想いの証として、血を吸っていただけませんか?」
「ヒュー……はい!」
メルザは真紅の瞳を輝かせ、僕の首筋に牙を立てた。
「ん……んく……ぷあ……」
「お味はどうでしたか?」
「はああ……! 幸せです、至福です……あなたといるこの瞬間が、何よりも……!」
恍惚とした表情を浮かべながら、メルザは僕の胸に何度も頬ずりをする。
僕はそんな彼女の黒髪にそっとキスをしながら、メルトレーザ=オブ=ウッドストックという最愛の女性に酔いしれた。
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