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勝鬨

「賊の動きはどうじゃ?」


 幕舎を出て賊のアジトを包囲する大公軍と合流し、大公殿下が兵士に尋ねる。


「はっ! 今はセネット子爵及びグレンヴィル侯爵との面談のための準備に追われているようです! こちらの動きにも、気づいている様子はありません!」

「そうか」


 兵士の報告を聞き、大公殿下は満足そうに頷いた。


「オリバー、グレンヴィル侯爵とセネット子爵のほうは?」

「はい。賊との面談に向け、出発の準備をしているようですが、事が済むまで到着できないよう、あらかじめ罠を仕掛けてあります」

「はっは、なら簡単じゃの。あとは……連中を一匹残らずこの場から消し去る(・・・・)だけじゃ」


 そう言うと、大公殿下は口の端を持ち上げた。


 そして。


「全軍! 賊のアジトを包囲し、一人残らず殲滅するのじゃ! 絶対に取り逃がすな!」

「「「「「おおおおお!」」」」」


 通信用の魔道具を使った大公殿下の合図で、伏せていた大公軍の兵士達が一斉に賊のアジトを包囲し、一気に突撃していった。


「はっは! 連中め、慌てて飛び出してきおったわい!」

「大公殿下、いかがいたしますか?」

「決まっておる! 私達もゆくぞ!」

「「はい!」」


 大公殿下を先頭に、僕とパートランド卿も賊のアジトへと馬を走らせる。

 一応は砦の(てい)をなしてはいるけど、大公軍を抑え込めるほどのものじゃない。


 大公軍はアッサリと賊のアジトの門を破ると、アジトの中へとなだれ込んだ。


「さあさあ! 我こそはサウザンクレイン皇国が誇る、シリル=オブ=ウッドストックじゃ!」


 そう名乗りをあげながら、大公殿下は縦横無尽に槍を振り回して賊を蹴散らしていく。

 そんな中、僕はといえば賊を始末しつつ、この賊……バルド傭兵団を率いている団長を探す。


 団長さえ捕えてしまえば、この討伐はすぐに終わるからね……。


 僕はアジトの中央に建っている少し大きめの建物に目をつけ、そちらへと向かって行くと……!


 姿格好は他の賊の兵士達と変わらないが、その腰にぶら下げている剣は明らかに違う。

 賊の兵士五人に囲まれた(ひげ)を生やした少し小柄な男、あれこそがバルド傭兵団の団長に違いない!


「待て!」


 団長と(おぼ)しき小柄の男に向かって叫ぶ。

 小柄の男と賊の兵士達は一瞬しまった、というような顔をしたが、僕を見てその表情が下卑た笑みに変わる。


 どうやら、僕がまだ若いことと他に兵士を連れていないから、侮ったんだろう。


「オマエがこの賊の頭領……いや、バルド傭兵団の団長か?」

「ハッ……そこまで情報をつかんでいるのか……」


 傭兵団の名前を出して尋ねたことで、小柄の男が苦笑した。


「ここで大人しく僕の指示に従うなら、命は助ける。さあ、どうする?」

「おいおい、大きく出たな……どう見ても新兵のオマエに、そんな権限があるわけがないだろう」

「僕は新兵じゃない。グレンヴィル侯爵家が長男、ヒューゴ=グレンヴィルだ」

「っ!? ……ハア、取引相手の息子かよ……」


 僕の名前を聞いて息を飲んだ後、溜息を吐いてかぶりを振った。


「つまり、グレンヴィル侯爵は俺達を裏切った、ってことかよ」

「少し違うな。僕は長男ではあるが、アイツとは……グレンヴィル侯爵とは関係ない」

「そうかよ」


 小柄の男がそう呟いた瞬間、賊の兵士達が一斉に僕に襲い掛かってきた。

 とはいえ、傭兵だけあって動きはそこそこ(・・・・)ましだな。


 まあ、僕の敵じゃないけど。


「フッ!」


 僕は短く一息吐くと同時に地面を蹴る。


 兵士達が剣を上段や下段に構えながら迫るよりも一瞬早く、僕はその懐に飛び込むと。


 ――ざしゅ、ずば、ずぐ。


「ギャ!?」

「ごふっ!?」

「あえ!?」


 一人目は腹を横薙ぎに、二人目は袈裟斬りに、そして三人目はいつぞやのケネスのように、その首をサーベルで串刺しにした。


「っ!? オ、オマエ等、ソイツを絶対に足止めしろっ!」

「「は、はい!」」


 小柄の男が残る二人の兵士に指示を出し、そのまま反転して逃げ出す。

 だけど……逃がすわけにはいかない!


「どけえええええ!」


 僕は残る二人を、悲鳴を上げる暇さえ与えずに切り倒すと、小柄な男を全速力で追い掛ける。


 そして。


「それまでだ」

「ヒッ!?」


 追いついた僕は、小柄の男の首元にサーベルの刃を突きつける。


「もう一度聞く。大人しく僕の指示に従うか、今ここで死ぬか。好きなほうを選べ」

「わ、分かった……オマエに従うよ……」


 両手を挙げ、冷や汗を流しながら何度も頷く小柄の男。


「よし。なら来い」


 小柄の男の腰にある豪華な剣を取り上げて放り捨て、サーベルを突き立てたまま大公殿下の元へ向かう。


 すると。


「む! ヒューゴさん!」

「パートランド卿!」


 数人の兵士を引き連れて賊の掃討に当たっていたパートランド卿が、表情を変えずに駆け寄って来た。


「その男は?」

「はい、この賊の……いえ、バルド傭兵団の団長です。先程捕えました」

「そうですか……」


 パートランド卿が静かに頷く。

 兵士達も、僕に代わってバルド傭兵団の団長を拘束した。


「でしたらヒューゴさん、勝鬨(かちどき)をあげてください」

「僕がですか!?」

「はい。敵の大将を捕え、最も功を成したあなたにその権利があります」


 そう言うと、パートランド卿が珍しく微笑んだ。

 他の兵士達も、僕を見て嬉しそうに頷いている。


 は、はは……緊張するけど、やるしかないよね……。


 僕はサーベルを空高く掲げると。


「賊の頭領……いや、バルド傭兵団の団長は、このヒューゴ=グレンヴィルが捕らえたぞ!」

「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」


 賊のアジトに、勝利を告げる僕と兵士達の声がこだました。

お読みいただき、ありがとうございました!


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