転移魔方陣
「ええと、いるかな……」
「モニカ教授は、昨日から徹夜で研究室に籠りっきりだとおっしゃっていましたから……」
学院に着くなり、僕達は真っ先にサウセイル教授に会いに研究棟に向かったら、途中ですれ違ったモニカ教授に教えてもらったのだ。
だから、間違いなく研究室にいるはず、なんだけど……。
――コン、コン。
とりあえずノックをしてみるけど、中からの反応は一切ない。
「サウセイル教授、ヒューゴです。いらっしゃいませんでしょうか……」
扉越しに声を掛けてみるものの、やっぱり反応がない。
「た、試しに扉を開けてみてはいかがでしょうか……」
「そ、そうですね……」
僕はノブに手をかけ、扉を開いてみると……っ!?
「ヒュ、ヒューは見てはいけません!」
「はは、はい!」
メルザに強引に身体を後ろへ向けられ、僕もすぐに目を瞑った。
い、いやだって、サウセイル教授は確かに研究室の中にはいたんだけど、そ、その……なんで裸で寝ているの!?
とにかく、僕だけ研究室から出てメルザが教授を起こす。
「んん……もう朝ですか~?」
どうやら目を覚ましたらしく、サウセイル教授は間延びした声で誰ともなく尋ねる。
「……サウセイル教授、まずは服を着てください……」
「え? あれあれ? どうしてメルトレーザさんがいるんですか~?」
「話は後です! 早く着替えてください!」
珍しくメルザが大声を出している……。
まあでも、さすがにこれは仕方ないかあ……。
そんなことを考えながら、待つこと数分。
「ヒュー……もう研究室の中に入っても大丈夫ですよ」
「は、はい」
ようやくサウセイル教授の着替えも終わったようなので、僕は中へと入る。
「むう……それで、二人は一体何の用なんですか~?」
……どういうわけか、サウセイル教授がむくれているんだけど。
「メ、メルザ……?」
「……どうやら、無理やり服を着せられたことが不満のようです」
「ええー……」
それを聞いた瞬間、僕は残念なものでも見るかのような視線を向けた。
と、とにかく、用件だけ済ませてしまおう……。
「そ、その……実はお願いがあって来たのですが……」
「お願いですか~?」
「は、はい……」
うう……機嫌が悪い……。
これは失敗したかなあ……。
「じ、実は、僕は来週から大公殿下と共に遠征に出るんですが……その……」
「ハッキリ言ってください~」
「は、はい! 遠征先からでもすぐに屋敷に戻れるように、大公家の屋敷のゲートと繋がった転移魔法陣が欲しいんです!」
くう……普段はおっとりしているのに、こうやって凄まれると怖いなあ……。
これも、“深淵の魔女”だからだろうか……。
すると。
「…………………………は~?」
「っ!?」
えええ!? ま、ますます機嫌が悪くなってる!?
「そんな下らないことで、熟睡していた私を起こした挙句、開放的な気分まで害するような真似をしたんですね~?」
「…………………………」
こ、これはやっぱり、引き受けてはもらえない……って!?
「サ、サウセイル教授……今、下らないことっておっしゃいましたよね……?」
「言いましたよ~」
「で、でしたら、それは可能だということでしょうか!」
「ふえ~!?」
メルザに詰め寄られ、サウセイル教授が変な声を出した。
「も、もちろんですよ~。ちょっと面倒ですしコストがかかりますけど、特定のゲートと繋がった転移魔法陣を羊皮紙に書いておけば、持ち運び可能ですから~」
「ヒュー!」
サウセイル教授の説明を聞いたメルザが、パアア、と満面の笑顔を見せて僕へと振り向く。
「は、はは……!」
もちろん、それは僕も同じで。
「ヒュー! これでいつでもあなたに逢えます!」
「はい! 僕達は離れ離れなんかじゃありません!」
飛び込むメルザを抱え、僕はその場でくるくると回る。
「ハア~……私は朝から、何を見せられているんですかね~……」
盛大な溜息を吐くサウセイル教授を無視し、僕はメルザと喜び合った。
◇
「ふむふむ、ここがウッドストック家のゲートなんですね~」
「はい」
あの後、僕達はサウセイル教授を屋敷へと連れてきた。
もちろん、屋敷のゲートと繋ぐための転移魔法陣を作ってもらうために。
「知ってますか~? 携帯用の転移魔法陣って、ものすごく高いんですよ~?」
「もちろん、ご用意していただいたならそれに見合うお金をお支払いいたします」
含み笑いをしながらそんなことを言うサウセイル教授に対し、メルザはそう言ってニコリ、と微笑む。
だけど……メルザのことだから、金に糸目はつけないんだろうなあ……。
「それで、転移魔法陣ですが~」
サウセイル教授が転移魔法陣について簡単に説明してくれた。
どうやら携帯用の転移魔法陣の場合、羊皮紙の耐久性の問題上、一回の往復分しか使えないらしい。
それに加え、二人を移動させるほどの大きさとなれば、それだけの羊皮紙を確保しなければならないとのこと。
さらに。
「当然ですけど、転移のための魔石が四つ、それもここと同じサイズの物が必要ですからね~」
「ふふ……分かりました」
まるで何の問題もないとばかりに、メルザはクスクスと笑う。
魔石、ものすごく高いのに……それでも僕に逢うために、こうやって……。
「あ……ヒュー、どうしました……?」
「いえ……あなたの僕への気持ちがすごく嬉しくて、つい……」
「ふふ……当然です」
後ろから抱きついた僕の腕に、メルザがそっと手を添えながら目を細めた。
「コホン、そういうのは私がいないところでやってください~! ひょっとして、独り身の私への当てつけですか~?」
「「あ……」」
サウセイル教授が口を尖らせて不機嫌な表情を見せたので、僕は慌ててメルザから離れる。
だけど。
「これくらいは……」
「ふふ……ええ」
貧民街で武器商人のネイサンと面会しに行った時と同じように、メルザと手を繋いだ。
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