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遠く離れても、逢えるように

「メルザ……」


 彼女が出て行った食堂で、僕は扉を眺め続ける。

 僕は、どうすれば……。


「婿殿……これで、いいんじゃ……」

「大公殿下……」


 大公殿下が、僕の肩にごつごつした手を置いた。


「……もう一度、メルザと話をしてきます」

「気持ちは分かるが、しばらく様子を見たほうがよいじゃろう……」


 大公殿下はそうおっしゃるが、僕はそうは思わない。

 何より、メルザとわだかまりを抱えたままだなんて、一秒たりとも耐えられない……。


「いえ、僕はメルザの元へ行ってきます」

「……はっは、婿殿も存外頑固じゃのう……」


 苦笑する大公殿下に見送られ、僕は食堂を出てメルザの部屋へと向かう。


「ふう……」


 メルザの部屋の前に来ると、僕は深く息を吐いた。


 ……よし。


 ――コン、コン。


「メルザ……入っても、いいですか……?」

「…………………………」


 しばらく待つが、メルザの返事がない。

 僕はこれを了承したととらえ、扉を開けて中に入る。


「メルザ……」


 彼女は暗がりの部屋の中、ベッドの上に腰掛けながらただうつむいていた。


「隣、失礼します」


 メルザの隣に腰掛け、僕は何から話そうかと迷う。

 何を言っても、彼女を傷つけてしまいそうで……。


「…………………………」

「…………………………」


 沈黙が、この部屋を包み込む。


 すると。


「……本当は、私も分かっています」


 沈黙を破ったのは、メルザだった。


「ヒューについて行きたいというのが私の我儘(わがまま)だということも、ヒューもお爺様も、私のことを大切に想ってくださっていることも……」

「メルザ……」


 メルザはぽろぽろと涙を(こぼ)しながら、声を絞り出して訥々(とつとつ)と話す。


「でも……でも! ヒューに万が一のことがあったらと思うと、どうしても……っ!」


 とうとうメルザは、僕に縋りついて嗚咽(おえつ)を漏らした。


 僕はただ、そんな彼女の背中を優しく撫で続けていた。


 ◇


「んう……」


 カーテンの隙間から(のぞ)く陽の光で目が覚めた僕は、ベッドから起きてカーテンをしっかりと閉める。

 そのせいで、メルザの肌が赤くなってはいけないから。


 結局あの後、僕はメルザの心が少しでも癒えるようにと、一緒に寝ることにした。

 ベッドに入ってからもメルザは泣き続け、そのまま疲れて眠ってしまった。


「メルザ……」


 僕はメルザのオニキスのように輝く黒髪を、優しく撫でる。


 すると。


「んう……あ……ヒュー……」

「メルザ、おはようございます」


 目を覚ましたものの、まだまどろんでいるメルザに、微笑みながら朝の挨拶をする。


「ヒュー……ヒュー……」

「はい……僕はここです」


 求めるように僕に抱きつくメルザ。


「メルザ……僕から提案があるですが……」

「提案……ですか……?」

「はい」


 メルザが顔を上げ、潤んだ真紅の瞳で僕を見つめる。


「僕が遠征に行っている間、毎日一度は必ずメルザの元に戻ります」

「っ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、メルザは瞳を見開いた。


「そ、そんなことが可能なのですか!?」

「分かりません……ですが、大公家にあるゲートを使えば何とかなるかもしれません。それに、僕達は何とかできるかもしれない人を知っています」


 そう……メルザが眠っている間、僕は何とかする方法を模索し続けた。

 メルザを戦場に連れて行くことなく、メルザと逢える方法を。


 最初は通信用の魔道具を用いて毎日話をすることを考えたけど、それじゃ慰めにもならない。

 なら、離れていても逢える方法をと考えた時、一人の女性が思い浮かんだ。


 そう……“深淵の魔女”、シェリル=サウセイル教授を。


「なので、学院に行ってすぐサウセイル教授に話をしてみましょう。あれだけ魔術に長けた方ですから、何かしらの方法を見つけてくださるはずです」

「あ……ヒュー……!」


 メルザが、僕を思い切り抱きしめた。

 もちろん、昨日の夜とは違って最高の笑顔で。


「そうと決まれば、すぐに学院に行く準備をしませんと!」

「はは……ですね」


 ようやく元気を取り戻したメルザが、急いで制服に着替えようと……っ!?


「メ、メルザ!?」

「え……? あ、ああ……!?」


 ナイトドレスを脱ごうとしたメルザを止めると、彼女も僕が見ていることに気づき、慌てて胸元を隠した。


「ぼ、僕は部屋に戻りますね!」

「は、はい!」


 顔が真っ赤になったメルザから逃げるように、僕は自分の部屋に戻った。

 だ、だけど……。


「メルザの身体……綺麗、だったな……」


 僕は見てしまったメルザの透き通るような白い素肌を思い浮かべてしまっては、熱くなった顔を何度も左右に振った。

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