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二人の味方

「うふふー、メルトレーザさん、あなたはヴァンパイア(・・・・・・)ですよね~?」


 口元に人差し指を当て、サウセイル教授はニコリ、と微笑んだ。


「メルザ……」

「はい……」


 僕はメルザに合図し、いつでも逃げられるように言外に告げると、彼女も飛び出せるような体勢を取った。


「……それで、サウセイル教授はどうしてそう思ったのですか……?」


 射殺すような視線をサウセイル教授に向けながら、僕は尋ねる。


「うふふー、いくら幻影魔法を施したところで、私の瞳は誤魔化せませんよ~」

「「っ!?」」


 そう言うと、サウセイル教授のサファイアのような瞳に、金色の魔法陣が浮かび上がった。


「私の瞳は、どんな魔力や術式も視ることができる魔眼なんです~」

「……へえ」


 クソッ……まさかサウセイル教授がそんな厄介な瞳を持ってただなんて、知りもしなかった……っ!?


「……二人共、動かないでくれ」


 いつの間にか、研究室の扉を塞ぐように、モニカ教授が立っていた。

 これじゃ、一気に脱出……とはいかないな……。


「あなたは、メルザをどうするおつもりですか?」

「あらあら、それは言ったじゃない。メルトレーザさんの魔法を見せてほしいって~」

「それはそうですが……」


 僕はメルザをチラリ、と見やると……何故か彼女は、困惑した表情を浮かべながら頷いた。

 ええー……まさか、本当に魔法を見たいだけ?


「うふふー、一度、最も魔術に長けているヴァンパイアの魔法を見てみたかったんです~」


 両手を合わせ、嬉しそうに微笑むサウセイル教授。

 僕にはもう、この人が何を考えているのかさっぱり分からない……。


「……シェリル、私を呼んだ理由は一体なんなのだ」

「それはもちろん、メルトレーザさんの魔法で万が一とんでもないことになった時のための、尻ぬぐいとしての保険ですよ~」

「なんだと!?」


 サウセイル教授の答えに、モニカ教授が声を上げて詰め寄った。

 な、なるほど……この人は、本当に純粋にメルザの魔法が見たかっただけなのか……。


「はは……」


 それが分かった途端、僕の身体が弛緩(しかん)して乾いた笑みを(こぼ)した。


「で、ですが、その……私がヴァンパイアであることについては、本当に何もないのでしょうか……?」


 メルザがサウセイル教授に向かっておずおずと尋ねる。


「うふふー、当然です。そもそも、お二人のことは大公殿下から直々に頼まれてますし~」

「「はあ!?」」


 モニカ教授にもみくちゃにされているサウセイル教授の言葉に、僕とメルザは驚きの声を上げた。


「そうだな、私も大公殿下から依頼された。とはいえ、メルトレーザ君がヴァンパイアであることまでは伺っていないがな」

「そ、そうですか……」


 大公殿下……そういうことは、あらかじめ言っておいてくださいよ……。


「ふふ……だが、大公殿下はよほど二人のことが大切なのだな。元部下であったこの私が、あのように必死に頭を下げられたのは初めてだったよ」

「あー、私もそうでした~」


 そ、それは大変嬉しいけど、複雑な気分だなあ……。


「……ヒュー。屋敷に戻ったら、お爺様を問い(ただ)しましょう」


 うん……メルザ、ものすごく怒ってる。

 メルザに叱られて小さくなっている大公殿下を思い浮かべながら、僕は苦笑した。


 ◇


「うう……疲れました……」


 帰りの馬車の中、珍しく隣に座るメルザが僕にもたれかかるけど、それも仕方ない。

 なにせサウセイル教授ときたら、メルザに何度も魔法を使わせるんだからなあ……。


「メルザ……屋敷に帰ったら、飲みますか(・・・・・)……?」

「はい……ぜひお願いします……」


 ヴァンパイアにとって、人間の血は重要な力の源でもあるからね。

 僕の血で、少しでも回復してくれればいいんだけど……。


 少しでもメルザが癒されるようにと、僕は彼女の艶やかな黒髪を優しく撫でる。


「あ……ふふ、気持ちいい……」


 そう呟き、メルザが目を細める。


「それにしても、サウセイル教授とモニカ教授が僕達の味方だったのはありがたいですね」

「ええ……」


 メルザがヴァンパイアであることを二人に知ってもらえ、しかも協力してもらえることで、学院に正体がバレる可能性なんてないに等しい。

 そもそも、メルザの幻影魔法を見破れる可能性があったのはサウセイル教授だけなのだから。


 とはいえ。


「……サウセイル教授が、あんなに魔術狂だとは思いませんでしたが」

「……もう、こんなことはこれっきりにしてほしいです」

「あ、あはは……」


 だけど、サウセイル教授はまたメルザを呼び出したりして、色々と面倒なことに巻き込まれそうだなあ……。


「「ハア……」」


 僕とメルザは盛大に溜息を吐き、屋敷へと帰ってくると。


「ヒューゴ様、メルトレーザ様、お帰りなさいませ!」


 満面の笑顔で、エレンが出迎えた。


「ああ……僕達は部屋で休むから……」

「かしこまりました」


 (うやうや)しく一礼するエレンとは目も合わさずに、僕は疲れたメルザを支えながら自室へと戻る。


「……あの女、見ているだけで不快です。ですが、嬉しそうな表情を見ている限り、嘘の情報(・・・・)は上手く伝わったみたいですね」

「ですね」


 そう……エレンが施した僕への洗脳による命令は、第二皇子の取り巻きの一人、ジーンを殺害すること。

 だけど、実際には洗脳されていない僕がアイツを殺すなんてことはあり得ない。


 なので、エレン本人の目的や動機についての調査を継続しつつ、噂を流した。

 グローバー侯爵家の次男、ジーン=グローバーが皇立学院で何者かに襲撃を受けた、と。


 もちろんこれはデマで、当の本人はこんな噂の存在すら知らないはず。

 でも、この大公家の使用人達とグレンヴィル侯爵家に縁のある者達には、その噂を流してある。


 そして、噂を知ったエレンは、成功はしていないものの僕が命令どおりに動いたと思って満足している、というわけだ。


「このあたりは、大公殿下と執事長のおかげですね」

「ええ……ですが」


 僕の言葉に頷くメルザは、眉根を寄せると。


「サウセイル教授のことを私に内緒にしていた罪に関しては、別ですから」

「あ、あははー……」


 そんなメルザに、僕はただ苦笑した。

お読みいただき、ありがとうございました!


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