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力になりたい

「おや? 大公殿下、どうなさいましたか?」


 グレンヴィル侯爵に雇われた者達を始末し、僕達はあの建物へとやって来てネイサンと再度面会している。

 もちろん、グレンヴィル侯爵によって監視されていることを伝えるために。


「うむ……先程、貧民街を抜ける途中で襲われてな……」

「ほう……?」


 大公殿下の説明を聞き、ネイサンは眉根を寄せる。


 だけど。


「……ヒュー」

「? どうかしましたか?」


 ソファーに座るメルザが手招きをしたので、僕は顔を近づけると。


「……この男は嘘を吐いています」

「っ!?」


 メルザが僕に、そっと耳打ちした。

 ……なるほど。つまり、グレンヴィル侯爵が監視していることも、ひょっとしたら僕達が襲われることも、ネイサンは知ってたってことか……。


「……それで、もうネズミは(・・・・・・)いないの(・・・・)ですか(・・・)?」


 僕は低い声でネイサンに尋ねる。

 お前がグレンヴィル侯爵の監視や僕達が襲撃を受けたことを知っていて、僕達に嘘を吐いていることを言外に告げるために。


「……なるほど、のう」


 言葉の意味に気づいた大公殿下が、ソファーの背もたれに体重を預けた。

 その左手を、剣の柄に置きながら。

 もちろん僕も、いつでも抜けるようにソファーの陰で構えている。


「……いやはや、ネズミ(・・・)に関してはあと二匹おりますが、我々も今後の付き合いというものがございますので、そのままにしております。まあ、あの三匹についても、こちらから手出ししては私の身が危うくなりますので……」


 ネイサンはもっともらしい理由を述べるが、これも全て話しているわけじゃない。

 何より、メルザが静かにかぶりを振っているからね。


「まあ、ネズミ(・・・)を別の方が駆除していただけるのであれば、こちらとしても困りませんし、そもそもネズミ(・・・)に後れを取るような方々とは、取引をする上で信頼を置けませんから」


 ふう、と深い息を吐き、ネイサンは一切悪びれることなく、肩を(すく)めて苦笑しながら明後日の方向を見た。

 はは……コイツ、僕達を試したというわけか。


 だけど。


「次はないぞ」

「っ!? も、申し訳ございません……」


 大公殿下に恐ろしく低い声で告げられ、一瞬にしてネイサンの表情が変わり、すぐさま謝罪した。

 そもそも皇国最強の武人相手にこんな真似をしたんだ。見誤るにも程がある。


「はっは、では、今度こそ帰るとするかの」

「そうですね」

「あ、お、お見送りを……「いらん」」


 ピシャリ、と断られ、ネイサンはその場で固まった。


 そして僕達は建物を出て、貧民街の外に待たせてある馬車へと乗り込んだ。


「はっは! あの男の顔を見たか! 完全に私にビビッておったわい!」


 そう言って、大公殿下は豪快に笑う。


「それはそうですよ。大公殿下にあのように凄まれ、平静でいられる者など皇国にはおりませんから」

「はっは、そんなことはあるまい。少なくとも、メルと婿殿は違うではないか」


 いやいや、大公殿下は身内には甘いですから……。


「ふふ……ですが、あの男は内心でヒューやお爺様が考えている以上に焦りと戦慄の色が(うかが)えました」

「なら、作戦は成功じゃのう」


 クスクスと笑うメルザの言葉に、大公殿下はそう言って口の端を持ち上げた。

 実はあのネイサンがグレンヴィル侯爵の監視や僕達への襲撃を知っていることは、僕達も気づいていた。


 そもそも、人に恨まれ常に身の危険の可能性がある武器商人が、身辺について気を配らないはずがない。

 にもかかわらず、何も手を打っていないのは、そういうことなのだろう。


 だから僕達は、ネイサンにもう一度会う前に口裏を合わせておいた。

 このことを理由にあの男に脅しをかけることで、今後の立場を明確にするとともに、より忠実に動くようにするために。


「ですが、この作戦はメルザがいるからこそできたのですから、少々複雑な気分です……」


 そう呟き、僕はうつむいてしまう。

 だって、僕としてはこういった危険なところにメルザを連れて行きたくない。

 もちろん、この僕が絶対にメルザを守るけど、それでも万に一つのことがあるかもしれないから。


「……ヒュー、あなたの気持ちはすごく嬉しく思います。ですが……私もまた、あなたの力になりたいんです。支えたいんです。ですから、どうかあなたの手助けをさせてください……」

「メルザ……」


 僕の手を握り、真紅の瞳で必死に訴えるメルザ。

 ここまで言われてしまったら、僕には断る(すべ)を持たない。


「……だったら、僕も今以上に強くならないと、ですね」

「ヒュー……ありがとうございます」


 優しく握るメルザの白い手を、僕は宝物のように、包み込むように握り返した。

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