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交渉と襲撃

「では、どうぞおかけください」

「うむ……」


 取引相手である武器商人、ネイサンに勧められ、大公殿下とメルザがソファーに座り、僕は二人の後ろに立った。

 もちろん、いざという時にすぐに動けるように。


「どうぞ。“マルワール”王国産の、最高級のお茶ですから美味しいですよ」

「ふむ……」


 ネイサンにお茶を勧められ、大公殿下はチラリ、と頷くメルザを見てから口に含んだ。

 どうやら、このネイサンからは悪意(・・)は感じられなかったようだ。


「それで……あらかじめお話は伺っておりますが、うちの商会から武器を大量に買い付けたい、ということでよろしいでしょうか?」

「うむ」

「……大公殿下といえば先代皇帝陛下の弟君。なのに武器が御入用とは、どのような理由で……?」


 顔は笑顔のままだけど、ネイサンの瞳が鋭いものに変わる。

 なるほど……なかなか一筋縄ではいかない性格をしているみたいだな……。


「まあ、理由としては(きた)るオルレアン王国との戦に備えて、というところかの」

「ほう……?」


 大公殿下の言葉に、ネイサンが興味深そうに頷いた。

 他国との戦争になった時こそが武器商人の稼ぎ時。だからこそ、こういった情報には飛びつく。

 何より、これが皇国の武を司る大公殿下の言葉だけに、その信ぴょう性は確かだと考えるだろう。


「ですが……それであれば、皇国から正式に発注をいただければよろしいのに、このように極秘で会われることが()に落ちません」


 まあ、だろうね。

 そうなると、ネイサンとしては大公殿下が武器を欲しがる別の理由に考えがいく。


 つまり……大公殿下が、皇国に対して蜂起(ほうき)すること。


「はっは、私は皇国に……いや、兄である先代皇帝に忠誠を誓った身。お主が考えているようなことは元よりない」

「では……?」

「うむ……お主の商会に、最近特に武器の買い付けを希望する貴族がいるじゃろう?」

「…………………………」


 そう告げた瞬間、表情は変えないものの、ネイサンは押し黙ってしまった。


「それで、そやつ等に武器を流すくらいなら、私が全部買い占めてやろうと思ったのじゃ。その上で、不良品(・・・)を横流ししてくれると嬉しいんじゃがの」


 大公殿下はからからと笑いながら、楽しそうに話す。

 さあ……この男は、どちらを選ぶのか。


 大公殿下か、それとも……グレンヴィル侯爵か。


「ふう……こんなことを聞いてはなんですが、その情報をどこで仕入れたのですか?」


 深く息を吐き、ネイサンはまるでオペラで使う仮面のように表情を消して尋ねた。


「はっは、さすがにそれは明かせぬ」

「…………………………」


 大公殿下がそう告げた瞬間、メルザがこちらへと振り向いた。

 ……どうやら、この男から悪意(・・)を感じたみたいだ。


「じゃが……少なくとも、お主の商会から話が漏れた、ということはないとだけは言っておこうかの」

「……そうですか」


 ネイサンは軽くうつむいた後、すぐに先程までのにこやかな表情に戻った。


「でしたら、私共ハリス商会はウッドストック大公殿下に武器を卸させていただきます。もちろん、その横流し(・・・)についてもお任せください」

「おう! それは助かるわい!」


 大公殿下とネイサンががっちりと握手を交わす。

 どうやら、上手く話がまとまったようだ。


「そうしましたら、さる貴族家(・・・・・)からの武器の発注リストを持ってまいりますので、少々お待ちください」

「うむ」


 ネイサンが席を立ち、カーテンの向こう側の部屋へと戻っていく。


「上手くいきましたね」

「そうじゃな」


 僕と大公殿下は口の端を持ち上げる。


「ふふ……ヒューもお爺様も、悪い顔をされておられますよ?」

「ええ!? そ、そうかなあ……」


 クスクスと笑うメルザに指摘され、僕は思わず顔を触る。

 ひょっとしてメルザ、悪人顔は嫌いなのかな……気をつけよう。


「すいません、お待たせしました」

「いや、構わぬ」

「それで、これとこれが……」


 それから大公殿下は、リストを広げて説明するネイサンと話を詰めた。


 ◇


「では、失礼する」

「ありがとうございました」


 大公殿下とネイサンが握手を交わした後、僕達はボロボロの建物を出た。


「さて……これで武器に関しては片づいた。次は、傭兵のほうじゃの」

「ですね……」


 武器についてはこちらで先に抑えたし、何よりもネイサン自身が打算的な性格だったことがよかった。

 おかげで話もスムーズにまとまった上に、グレンヴィル侯爵には引き続き上手く付き合ってもらうフリをすることについても引き受けてもらえた。


 とりあえず、武器についてはこれでいい。

 それよりも。


「……尾行されていますね」

「うむ……」

「数は三人しかおりませんが」


 メルザが何食わぬ顔で小声で呟く。

 それにしても、メルザの能力は本当に優秀だなあ……。


「っ! 来ます!」

「婿殿」

「はい!」


 大公殿下は剣を、僕はサーベルを抜き、身構える。


「シッ!」


 勢いよく吐いた息を共に、尾行していた敵のうち二人が僕達に襲い掛かる。

 だけど。


「ぬうんッッッ!」


 待ってましたとばかりに剣を下段に構えていた大公殿下が、敵が飛び込むと同時に剣を横薙ぎにして敵の胴体を真っ二つにした。


「僕も!」


 もう一人の敵の剣をサーベルで弾き、僕は肩口から一刀両断にする。


 あと一人!


「ヒュー! 上です!」

「ありがとうございます!」


 メルザの声を受けて上を見た僕は、敵の両腕を素早く斬り落とした。


「ぐああっ!?」


 両腕を失い、血を流しながら痛みで転げまわる敵。


「おい」

「っ!?」


 そんな敵を僕は足で踏みつけて動きを止めた。


「オマエ達は何者だ。なんで僕達を襲った」

「…………………………」

「答えろ」

「イイイイイッッッ!?」


 腕があった場所の断面をあえて踏みつけると、無言を貫いていた敵が聞くに()えない声で悲鳴を上げる。


「もう一度聞く。オマエ達は何者だ。なんで僕達を襲った」

「うう……ハ、ハリス商会の者だ……」


 敵がそう告げると、僕はメルザを見る。

 首を左右に振っているということは……はは、そういうことか。


「ギャッ!?」

「嘘を吐くな。次はその断面をサーベルで突き刺してやる」

「わ、わかった……だから、やめてくれえ……」


 泣きそうな声でそう懇願する敵。

 だけど、普通は暗殺者であればその正体や雇い主の正体は絶対に明かさない。

 つまりは、二流以下だということだろう。


「で、誰だ?」

「お、俺達はグレンヴィル侯爵家から雇われた監視役だよ……ハリス商会が裏切ったりしないか、見張っているように、と」

「へええ」


 僕は気の抜けた返事をする。

 だけど、そうか……あの男は既にここまで仕組んでいたのか……。


「分かった。なら、すぐに楽にしてやる」

「へ……!?」


 僕はサーベルで瞬く間に首を斬り落とし、敵の頭が呆けた表情のままで地面に転がった。


「ヒュー……」

「……もう一度、あの武器商人のところに戻りましょう……」

「そうじゃの」


 斬り捨てたグレンヴィル侯爵の手下三人をそのままに、僕達は先程の建物へと戻った。

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