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武器商人

「ふふ……それにしても、やっぱりヒューは強いですね」


 帰りの馬車の中、メルザが嬉しそうに微笑みながら褒めてくれた。


「はは、当然です。僕の師匠は皇国最強の武人、シリル=オブ=ウッドストック大公殿下ですし、何より、メルザの騎士を名乗った時点で無様な戦いはできませんから」


 うん……僕にはメルザという戦う理由があれば、それこそどんな相手であっても完勝してみせる。

 もちろんメルザが心配しないよう、傷一つなく。


「それに、随分とお優しいですね」

「え?」


 メルザの言葉に、思わずキョトン、としてしまった。


「ふふ……サイラス子息の腕がすぐに繋がるように、いたずらに刻んだりせず綺麗に斬り落としたではありませんか」

「ああ……」


 確かに僕は、できる限り断面が綺麗になるように斬ったけど……。


「メルザ、よくそれが分かりましたね……」

「私だって、お爺様の孫ですから」


 そう言うと、ちろ、とメルザは舌を出した。

 その仕草が、どうしようもなく可愛くて。


「あ……ヒュー、どうしましたか?」

「い、いえ……」


 僕は思わずメルザの手を握ると、顔を伏せて悶絶した。

 こんなの、尊くて反則過ぎる。


 そうこうしているうちに馬車が大公邸に到着し、僕達は着替えて大公殿下の執務室へと向かった。


「お爺様、ただいま戻りました」

「はっは! メルザ、婿殿、よくぞ帰った!」


 仕事をしていた大公殿下が、僕達を見た瞬間豪快に笑った。


「それで、今日は帰りが少々遅かったが、何あったかの?」


 大公殿下に尋ねられ、僕とメルザは顔を見合わせる。


「そ、その……実は……」


 僕は第二皇子達との件について説明した。

 別に隠すような話じゃないし、何より大公殿下からも皇帝陛下や取り巻き二人の実家に物申してもらったほうがいいし。


「ふむう……全く、親の教育がなっておらんからつけあがるのじゃ。明日、皇宮に行った時にでも捕まえて説教してやるわい」

「お爺様、そろそろ……」

「おっと、そうじゃったの」


 眉根を寄せる大公殿下を、メルザが促した。

 そう……僕達はこれから、例の武器商人との交渉の場に向かう。


「はっは……私達の提案に乗るならばよし、そうでなければ……」

「……ですね」


 僕と大公殿下は口の端を持ち上げ、腰に差すサーベルの柄に触れた。


 ◇


「はっは! それはマクレガン卿の(せがれ)も災難じゃったのう!」


 武器商人との交渉場所へと向かう馬車の中で、大公殿下が膝を叩いて笑う。


「大公殿下、笑いごとではありませんよ……」

「じゃが私の一番弟子である婿殿に、あやつの(せがれ)ごときが勝てるわけはないのじゃから、ある意味(あわ)れじゃぞ?」

「……そもそも、アーネスト殿下がメルザに絡んできたのがいけないのです。そのせいで取り巻き二人に目をつけられたのですから」


 そうだとも。いくら皇族だからって、僕の(・・)メルザに触れようだなんて……。

 あのまま黙っていたら、絶対にこの白くて綺麗な手に、性懲りもなく口づけをしたに違いない。


「はっは! 全く婿殿は、独占欲が強いからのう!」

「ふふ……違いますよお爺様。ヒューは独占欲が強いのではなくて、一途なんです」


 少しからかい気味に笑う大公殿下に、メルザが僕の手を取りながら訂正してくれた。

 まあ……一途で独占欲が強いことは認めるけど。


 すると。


「む、着いたようじゃわい」

「ここが……」


 馬車が停まったところは、皇都の外れにある住宅街の一角だった。

 でも、ここは……。


「貧民街、ですか……」

「まあの。裏の話(・・・)をするのであれば、皇都ではここ以外にあるまい」


 僕達は貧民街の入口で馬車を降り、そこからしばらく歩く。

 もちろん服装も、目立たないように平民の富豪が着るような服に着替えてきている。


「あ……ふふ、そのように見つめられると、照れてしまいます……」


 駄目だ……夕陽に照らされたメルザの姿が、普段とは違う服装ということも相まって新鮮で、綺麗で見とれてしまった。


「そ、その、すいません……」

「いえ……もちろん嬉しいですよ?」


 クスリ、と微笑んだメルザは、普段とは違う手の繋ぎ方をした。

 これは……平民の恋人達がする、繋ぎ方じゃないだろうか……。


「一度、ヒューとこうして手を繋いでみたかったんです……」

「僕も、です……」


 僕とメルザは、寄り添い合いながら大公殿下の後に続いて歩く。


「お、ここじゃここじゃ」


 大公殿下が指差したのは、外壁が()がれてレンガが()き出しになった家だった。


「……誰だ?」

「商売の話をしにまいった、シリルという者じゃ」

「……入れ」


 扉の隙間から顔を出した愛想の悪い男が大公殿下の名前を確認すると、僕達を中へと招き入れてくれた。


「この下だ」


 男が床を開き、地下へと続く階段が現れる。


「ふむ……私には少々狭いのう……」


 顔をしかめながらそんなことを呟く大公殿下を先頭に、メルザ、僕の順で階段を下りた。


「はっは、地下室は意外と広いんじゃの」


 階段を下りた先は応接室となっており、天井も高く立派なつくりとなっていた。


「ようこそ。お待ちしておりました」


 カーテンで仕切られた部屋から、背広を着た背の低い中年の男が現れる。


「ふむ……お主が今日の相手かの?」

「申し遅れました。私は“ハリス”商会を営んでおります“ネイサン=ハリス”と申します。本日はどうぞよろしくお願いします、ウッドストック大公殿下」


 そう告げると、ネイサンという男は人のよさそうな笑顔を見せた。

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