真剣の意味
「ギャアアアアアアアアアアアッッッ!?」
左腕が地面に転がり、サイラスが絶叫と共に地面にもんどり打って倒れた。
「「「「「…………………………」」」」
まさか、こんなことになるだなんて思っていなかったんだろう。
観客の生徒達、そして第二皇子は、悲鳴を上げるサイラスを凝視しながら声を失っていた。
他の生徒達はともかく、第二皇子まで真剣で仕合をするという意味が分かっていないなんてね。
だけど……まだ終わらせない。
「オイ」
「っ!? ヒイイッ!?」
僕に声を掛けられ、サイラスは顔を引きつらせながら、僕から逃げるように這いずる。
「どうした、まだ仕合は終わっていないだろう。剣を取れ」
「むむむ、無理だ!? こんなのでどうやって……「右腕がまだ残ってるだろう」……っ!?」
そう冷たく言い放つと、サイラスの表情が絶望に染まる。
「ホラ、手伝ってやろう」
地面に投げ捨てられた長剣を拾い、残された右腕に無理やり握らせた。
「さあ、続きだ」
――ざん。
「っ!? うわあああああああああッッッ!?」
今度は右腕を斬り落としてやると、サイラスは涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃになった顔を地面に擦りつけながらうずくまった。
当然、その両腕からは血が噴き出し、地面が赤く染まっている。
「サイラス、さあ続きを……「ま、待て! もう仕合は終わりだ! この勝負、君の勝ちだ!」」
さらに仕合を続行しようとしたところで、第二皇子が止めに入った。
「誰か! 今すぐ治癒師をここに連れてまいれ!」
「は、はい!」
第二皇子が大声で指示を出すと、我に返った数人の生徒が慌てて訓練場を出て行った。
……まあ、これだけやれば第二皇子も取り巻き二人も、身の程を弁えるだろう。
それに。
「…………………………っ」
観客の中で口を開けて固まっている、ルイスも同様に。
僕はサーベルを素早く振り下ろしてサイラスの汚い血を払い落とし、ポケットからハンカチを取り出して綺麗に刀身を拭う。
そして僕は、訓練場の端で見守ってくれていた最愛の女性の元へ向かった。
「ヒュー、お疲れ様でした」
「メルザ……この勝利をあなたに捧げます」
彼女の前で跪き、微笑むメルザから鞘を受け取ると、サーベルを収めた。
すると。
「きき、貴様! このような真似をして、ただで済むと思っているのですか!」
もう一人の取り巻き、ジーンが僕を指差しながら叫んだ。
とはいえ、サイラスの惨状を目の当たりにしているので、声も震えているし、かなり及び腰ではあるけど。
「……ジーン子息、私のヒューは正々堂々と戦いました。なのに、何か文句がおありですか?」
「と、当然です! 近衛騎士団長の後継者で、いずれアーネスト殿下の……いや、皇国の剣となり盾となる男の腕を斬り落としたのですよ! つまり、この皇国に多大な損失を与えたのですから、相応の罰を受けるべきです!」
はは……あの両腕を僕に斬り落とされてめそめそと泣いている、あのサイラスが皇国の剣と盾、だって?
だとしたら、この皇国は大公殿下がいなくなった時点で終わりだな。
とりあえず、それは置いといて。
「殿下、あなたの従者はあのようなことを申しておりますが」
「…………………………」
第二皇子に話を振ると、彼は唇を噛みながら僕を睨んだ。
「まさかとは思いますが、殿下がご自身の名にかけてお約束された三つの条件を違えるなんて、そんな恥知らずな真似はなさいませんよね?」
「っ!? ……と、当然だ」
まあ、あとで難癖をつけらえないようにするために、あの三つ目の条件を課したんだからね。
たとえどのような結果になったとしても、何人たりとも後で物申したりすることがないように、と。
「では、子犬のようにキャンキャン吠えているあの者を何とかしていただけませんでしょうか? 差し支えなければ、この僕が黙らせますが」
「……ジーン、静かにしろ」
「で、ですが殿下……「静かにしろと言っている」……は、はい……」
このままだと、サイラスに続きジーンまで同じ目に遭うと判断した第二皇子は、なおも何か言おうとするジーンを黙らせた。
それが賢明だろうね。
「では、もう一つの条件である謝罪をお願いしたいのですが」
「っ! そ、それに関しては待ってくれ! サイラスは今すぐ回復魔法をかけてやらねば、本当に両腕を失くしてしまう! 治療したあかつきには、必ず誠意ある謝罪をさせる!」
「……メルザ、どうしますか?」
「私はサイラス子息の治療後で構いません」
第二皇子の申し出を受けてメルザに尋ねると、彼女は頷きながらそう答えた。
「ということだ。僕のメルザが優しくてよかったな」
「うう……」
転がるサイラスを一瞥しながらそう告げるけど、うめき声を出すだけで返事をしたのかよく分からない。
「では殿下、僕達はこの後用事がありますので、これで失礼します」
「あ、ああ……」
メルザの手を取り、僕達は訓練場を出て行こうとしたところで。
「ああ、そうそう」
「っ!?」
僕は振り返り、第二皇子達を見据える。
「最後の条件。その二人を、今後二度と僕達に近づかせないようにしてくださいね」
「わ、分かった……」
そして、今度こそ僕達はこの場を去った。
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