真剣での仕合
「では、授業はここまでとする」
今日最後の授業を担当した教授が終了の合図を告げると、教室は騒がしくなる。
というのも。
「ヒューゴ=グレンヴィル、分かっているだろうな!」
「黙れ。口の利き方に気をつけろと注意しただろう」
早速僕の前にやって来たサイラスが、腕組みをしながら居丈高に声を掛けてきたので、僕は注意した。
全く……誰かこの馬鹿に、貴族としての礼儀を教えてやってくれ……って、まあ、それも仕合が終われば関係ないか。
仕合の後には、こんな馬鹿を育てたマクレガン伯爵も理解するだろう。
いや、後悔と言ったほうが正しいか。
「では行くぞ! 貴様、剣は持っているか!」
「……サーベルなら持っているけど……まさか」
「当然だろう! これは仕合なのだ! 真剣でせねば意味がない!」
教室内で、そんなことを大声でのたまうサイラス。
僕は第二皇子へと視線を向けると、彼は苦笑しながら頷いた。
つまり、今日の仕合は真剣勝負だと。
「ヒュー……」
心配そうな表情で僕を見つめるメルザ。
もちろん僕の勝ちは疑ってはいないけど、それでも僕がほんの少しでも傷つくかもしれないと考えているんだろう。
「メルザ、心配いりません。傷どころか、一切触れさせることなくあの馬鹿を倒して見せます。あなたの騎士としての名にかけて」
「はい……信じています、ヒュー」
僕達は教室を出て、サーベルを取りに一旦馬車へと向かう。
第二皇子や取り巻き二人も同様、剣を取りに寄宿舎へ寄ってくるようだ。
「ハア……大公殿下からいただいたサーベルの試し斬りが、まさかあの馬鹿になるだなんて……」
サイラスと戦うのにはこのサーベルはもったいなさすぎるので、訓練場に置いてある剣でも構わないんだけど、これはメルザの名誉がかかった仕合でもある。
なら、それに相応しい形で、完膚なきまでに倒さないといけないからね……。
「ヒュー、では行きましょう」
「ええ」
メルザの手を取り、訓練場へとやって来ると。
「遅いぞ!」
既に来ていたサイラスが、通常よりも一.五倍長い剣を携え、僕達を睨む。
それにしても……あの柄や鞘のしつらえを見る限り、かなり良い剣みたいだな。まあ、宝の持ち腐れだけど。
「ヒューゴよ、よくぞまいった」
「殿下……ところで、これはどういうことですか?」
僕は開口一番、周囲を見回しながら尋ねた。
というのも、何故かクラスの生徒達……いや、他のクラスの子息令嬢まで、観客としているじゃないか。
これじゃまるで、完全に見世物だ。
「ハハ……やはり仕合ともなれば、観客が多いほうがいいだろう?」
「フン! 無様な姿をさらすのが、そんなに怖いか!」
ふうん……この仕合、決してサイラスだけが僕を叩きのめしたいわけじゃなく、第二皇子自身もそんな結果を希望しているってわけか。
まあ、つまりは剣術の授業で僕に負けたことが、そんなに気に入らなかったんだな。
はは……二回目の人生では、単にルイスのことが嫌いなだけなのかと思ってたけど、ね。
入学式の答辞や普段の態度ではその心の広さを見せていたが、本当はこんなにも器が小さかったのか。
だからといって、別に思うところもないけど。
「……時間もないので、サッサと始めましょうか」
「貴様! 殿下に向かってその態度はなんだ!」
「うるさい」
今にもつかみかかろうとするサイラスに、僕は低い声でたしなめる。
うん……すぐに終わらせよう。
ここにいるメルザ以外の全員に、絶望を味わわせて。
「では、ただ今からサイラス=マクレガンとヒューゴ=グレンヴィルの仕合を行う。両者、構え!」
第二皇子の合図で、僕とサイラスは鞘から刀を抜くと。
「! お、おい! どこへ行くのだ!」
「貴様あっ! この期に及んで逃げる気か!」
踵を返して無言で離れる僕に、二人が怒号を浴びせる。
訓練場にいる他の生徒達も、ガヤガヤと騒ぎ出した。
ハア……五月蠅い。
「メルザ……すいませんが、終わるまでこの鞘を持っていてくれませんか?」
「ふふ、分かりました」
微笑むメルザに鞘を手渡し、もう一度二人の元へと戻る。
「フン! あのようなみすぼらしい鞘、その辺に捨て置いても問題ないであろうに。サーベルの刀身も、普通とは違うようだし、それで奇を衒っているつもりか」
「…………………………」
サイラスは鼻を鳴らし、吐き捨てるように言った。
ああ……僕はもう我慢の限界だ。
メルザを侮辱し、大公殿下が僕のためにくださったサーベルまで侮辱した。
コイツは……絶対に地獄を見せる。
「では……始め!」
「うおおおおおおおおおッッッ!」
第二皇子の開始の合図と共に、サイラスは長剣を肩に担いで突進してきた。
どうやらそのリーチで、一気に畳みかけるつもりらしい。
それに、サイラス自身の強さはともかく、この僕に向けて殺気をみなぎらせている。
要は、この仕合で僕を殺すつもりなんだろう。
「死ねえええええええええッッッ!」
サイラスが振りかぶり、その剣先を僕の脳天目がけて振り下ろす。
――ざしゅ。
人間の肉と、骨が絶たれる音。
そして。
「ギャアアアアアアアアアアアッッッ!?」
左腕が地面に転がり、サイラスが絶叫と共にもんどり打って倒れた。
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