仕合の申込み
「待てというのが聞こえんのか!」
廊下に響き渡るほど大きな声で僕達を怒鳴りつける声。
本当は無視してもいいんだけど、僕はともかくメルザに対してそんな口調だったので、ムッとなった僕は眉根を寄せて振り返ってみると。
案の定……第二皇子の取り巻きの一人、“サイラス=マクレガン”だった。
「……何の用?」
「ヒューゴ=グレンヴィル、この俺と仕合え!」
は? この馬鹿、いきなり何を言ってるんだ?
それにコイツの態度、気に入らない。
「メルザ……少しだけすいません」
「はい」
静かに頷いてくれたメルザに微笑みかけると、僕はゆっくりとサイラスに近づく。
「受ける気になったか……っ!?」
「黙れ」
口の端を持ち上げる無駄に背の高いサイラスに対し、僕は胸襟をつかんでグイ、と引っ張った。
「オマエは伯爵家で僕は侯爵家、なにより、メルザに至っては大公家だ。口の利き方に気をつけろ」
「ぐ……! は、離せっ!?」
サイラスが無理やり僕の手を引き離そうとするけど……本当に馬鹿だなあ。
僕は、オマエと違ってやわな鍛え方をしていないのに。
「う、動かぬ……っ!?」
「うるさい。それより、メルザに謝罪しろ」
「っ!?」
低い声でそう告げると、サイラスは目を見開いた。
その時。
「やあ、すまないな。サイラスも悪気があったわけじゃないのだ」
第二皇子が現れ、僕の肩をポン、と叩いて微笑みかける。
その後ろには、もう一人の取り巻きであるジーンが控えていた。
「……アーネスト殿下。ではお尋ねしますが、この男はどういう理由があって無礼な態度をとったのでしょうか?」
「ハハ……いや、先程の私と君の試合を見て思うところがあったようでな。剣術の授業中もずっと君と対戦したいと息巻いておるのだ」
「…………………………」
「ついては、サイラスの意を汲んで仕合をしてはもらえんだろうか?」
ハア……この第二皇子は何を言っているんだろうか。
何故この僕が、こんな馬鹿の相手をしてやらないといけないんだ……。
「殿下、誠に申し訳ありません。僕にはこの男と仕合をする理由がありませんので、お断りいたします」
「なんだと! 怖気づいたか!」
僕が断ったことで調子に乗ったのか、サイラスが吠える。
「……そう受け取ってもらっても結構。そんなことより、早くメルザに謝罪しろ」
「ハハ、彼女にはこの私から謝っておく。メルトレーザ殿、済まなかった」
謝っているのかどうか分からないような軽い口調で、第二皇子は軽く頭を下げた。
はっきり言って、こんなもの謝罪どころか馬鹿にしているとしか思えない。
なのに、取り巻きの二人は第二皇子が謝罪したこと自体が許せないようで、ますます表情を険しくする。
許せないのは僕のほうなのに。
「そういうことだからヒューゴ、サイラスと対戦してやってくれ」
「ハア……分かりました」
「っ!? ヒュー、わざわざ受ける必要はありません!」
僕の様子を見守っていたメルザが、見かねて声を掛けた。
あなたの言うとおり、僕も受ける必要はないと思っていた。でも、第二皇子まで担ぎ出して引かないというなら、僕にだって考えがある。
「殿下。先程も申し上げましたとおり、この男と仕合をしても僕に何のメリットもありません。むしろデメリットばかりです」
「うむ……」
「なので、仕合をするにあたって三つ条件を付けさせてください」
そう言って、僕は三本の指を突き立てる。
「ほう……条件とはなんだ?」
「はい。一つ目は、この仕合が終わったら、殿下の取り巻き二人を二度と僕とメルザに近寄らせないこと。二つ目は、メルザへの先程の無礼を正式に謝罪すること」
「っ! 殿下が既に誠意ある謝罪をされたというのに無礼な!」
「殿下! この男のこのような態度、許してはなりませんよ!」
僕の二つ目の条件が気に入らなかったのか、取り巻き二人が同時に声を上げた。
自分達の無礼を棚に上げ、コイツ等は何を言っているんだろうか。
「まあまあ……すまんがヒューゴ、このままでは二人も納得せんだろうから、その条件は君がサイラスに勝てば、ということではどうだ?」
「……構いません」
「サイラス、分かったな」
「……はっ」
殿下が念を押すと、サイラスも渋々了承した。
「それでヒューゴ、最後の三つ目はなんだ?」
「はい。此度の仕合で、たとえどのような結果になったとしても、何人たりとも後で物申したりすることがないようにお願いします」
「よかろう。このアーネスト=フォン=サウザンクレインの名にかけて誓おう。では、仕合だが……今日の全ての授業が終わった後、ということでよいか?」
「ええ」
本当は学院から帰り次第、例の武器商人に面会する手筈ではあるけど、すぐに終わるから構わないだろう。
「では、僕達はこれで失礼します」
「ああ。観客の一人として、二人の仕合を楽しみにしているよ」
第二皇子の話を聞き終える前にメルザの元へ向かい、その白い手を取る。
「ヒュー……本当に、よろしいのですか……?」
「はい。まだあと三年も学院生活が続くんです。その度に相手をしていられませんので、ここで芽を摘んでおきます。何より……アイツ等はメルザを侮辱した」
「あ……私のことなら、あのような連中など最初から相手にしておりませんから、気にしなくてもよろしいですのに……」
「いいえ、この僕が気にするんです」
そうとも。僕の世界一大切なメルザにあのような態度を取ったんだ。
必ず、報いは受けさせる。
「ふふ……こんなことを言うのは不謹慎なのかもしれませんが……ヒュー、あなたのそんな私への想いが、言葉で言い表せないほど嬉しくて仕方ありません…」
「はは……ですが、メルザだって僕以上に想いをくれるじゃないですか……」
「もう……」
ほんの少し苦笑しながら、恥ずかしそうにうつむくメルザ。
僕は、そんな彼女の仕草一つ一つが、愛おしくて仕方なかった。
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