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サウセイル教授

「すいません……少し体調が悪いので、医務室に行ってきてもよろしいでしょうか……」


 次の生徒達の試合が始まっている中、僕はモニカ教授に顔をしかめながらそう告げる。


「そうなのか? 先程のアーネスト殿下との試合では、そのようには感じなかったが……」

「そ、それが、突然腹痛が襲ってきたんです……」


 モニカ教授に訝し気に尋ねられ、咄嗟に僕はお腹を押さえた。


「ふむ……分かった。なら剣術の時間は医務室でゆっくり休んでおくように」

「あ、ありがとうございます……」


 (きびす)を返し、おぼつかない足取りで訓練場を後にしようとすると。


「ヒューゴ君」

「は、はい……?」


 急に声を掛けられ、僕はおそるおそる振り向く。


「……たゆまぬ修練の跡がうかがえる、見事な剣術だった」


 そう言って、モニカ教授がクスリ、と微笑んだ。

 はは……この七回目の人生でも、モニカ教授は変わらないですね。


 僕は今度こそ訓練場から立ち去り、医務室には行かずに魔術の授業が行われている教室へとやって来ると、入口の扉を少し開けて中の様子を(うかが)う。


 メルザ……大丈夫かな……。


 すると。


「あらあら、メルトレーザさんはお利口さんですね~」

「……ありがとうございます」


 教壇に立つ眼鏡を掛けた、銀髪のおっとりとした女性に間延びした声で褒められ、メルザが少し顔を伏せながら頭を下げた。


 なお、そんなのんびりした女性こそが、この皇国の誇る魔法使い、“シェリル=サウセイル”教授だ。


 以前の人生では魔術の素養が一切なかった僕との接点はなかったものの、その噂だけはすごかったからなあ……。

 やれ災害級の魔物の襲来を大規模魔法であっという間に殲滅(せんめつ)したという噂があったかと思えば、夜な夜な魔法の研究と称して人間・魔族問わずに実験を繰り返していた等々……。


 僕だって、いくらサウセイル教授が美人で抜群のスタイルを誇っていても、是非とも接触は避けたいところだ。

 まあ……そもそも僕には世界一の婚約者がいるから、一切興味はないんだけどね。


 そんなことを考えながら再び教室を(のぞ)いていると。


「むむ! そこで覗き見している人は誰ですか~?」

「(っ!?)」


 え!? な、なんでバレたの!?

 僕だって暗殺術を駆使して気配を消していたはずなのに!? というか、あんなおっとりした教授が僕に気づくなんてあり得ないんだけど!?


 と、とにかく一旦ここから離れないと!


 そう考え、僕は(ひるがえ)って……!?


「あらあら、残念でした~」

「い、いつの間に……」


 教壇にいたはずのサウセイル教授が、(ひるがえ)った僕を待ち構えていたかのように目の前にいて、頬を指で押された!?

 こ、これは一体……。


「ところで、どうして(のぞ)き見なんてしてたんですか~?」


 サウセイル教授に尋ねられ、僕は答えに(きゅう)する。

 い、いや……まさかメルザがヴァンパイアだということがあなたにバレた時に、いつでも助けに入れるようにしていたなんて言えない……。


「あ」

「っ!?」


 ま、まさか、バレた……?


「ひょっとして、私の授業に興味があるんですね~? でしたら最初から、そう言ってくれればいいのに~!」

「は、はは……そうですよね……」


 何を勘違いしたのか、サウセイル教授はポン、と手を叩き、笑顔でそう告げた。

 ま、まあ、とりあえずは変な疑われ方をしないでよかった……。


「でしたら、ちゃんと教室の中に入って授業を受けてください~! 大歓迎ですよ~!」

「は、はあ……」


 背中をグイグイ押され、僕はよろけながら教室に入ると。


「あ……」

「はは……」


 僕の顔を見て、口元を押さえて驚くメルザ。

 そんな彼女に、僕は苦笑するしかない。


「それでは、あなたにはどの席に座って……「サウセイル教授、私の隣が空いております」……あらあら、本当ですね~」


 僕の席を探していたサウセイル教授に、メルザがすかさず名乗りを挙げた。


「ということで、あなたの席はメルトレーザさんの隣です~」

「わ、分かりました……」


 僕は他の生徒達の『なんでここにいるの?』とか『剣術を選択してたんじゃないの?』みたいな視線から逃げるように、そそくさとメルザの隣へと向かう。


「ふふ……ヒューは心配性ですね……」

「あ、あはは……」


 はい、メルザにはすぐに理由がバレました。

 とはいえ、メルザが嬉しそうにしてるし、よしとしよう。


「はい! 授業を再開します~!」


 またもやいつの間にか教壇に立っているサウセイル教授に、僕は目を丸くした。


「あれは、簡易の転移魔法です。そして、ヒューが見つかってしまったのは教室の入口に仕掛けられている罠魔法を応用したもののようですね」


 そう言って、メルザが教室の入口の扉を指差したので目を凝らして見ると……ああ、本当だ。魔法陣が描かれている。


「はは……僕もまだまだですね……」

「いえ、普通は気づかないですから」


 苦笑しながら頭を掻く僕に、メルザが即座にフォローしてくれた。

 でも……彼女を守るなら、あんな転移魔法や罠魔法にも気づかないと……。


 僕は、机の下でギュ、と拳を握った。


 ◇


「では、授業は終わりです~。お疲れ様でした~」


 ようやく魔術の授業が終わり、僕はメルザと急いで教室から出ようとして。


「うふふ、また授業を受けに来てくださいね~」

「は、はい」


 またもや転移魔法で僕達の前に現れたサウセイル教授に、僕は戸惑いながら返事した。

 でもまあ……メルザのことが心配だから、また受けに来るだろうなあ……。


「ふふ……これでしたら、ヒューは最初から魔術の授業を選択したほうが早かったかもしれませんね」

「あはは……」


 今から考えれば、そのほうが早かったかもしれない。

 でもその場合、間違いなく魔術の科目は単位を落としそうだけど……。


 メルザの手を取り、次の授業が行われる教室へと向かう途中。


「おい」

「「…………………………」」


 背後から声を掛けてきた奴がいるけど、僕とメルザは無視をして同じ足取りで引き続き教室を目指す。


「待てというのが聞こえんのか!」


 廊下に響き渡るほど大きな声で僕達を怒鳴りつける声。

 本当は無視してもいいんだけど、僕はともかくメルザに対してそんな口調だったので、ムッとなった僕は眉根を寄せて振り返ってみると。


 案の定……第二皇子の取り巻きの一人、“サイラス=マクレガン”だった。

お読みいただき、ありがとうございました!


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