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復讐に向けての進展

「本当に、キモチワルイですね」


 帰りの馬車の中、メルザが静かに怒っている。

 まあ、最後の最後でルイスの奴に出くわした……いや、待ち構えていたんだ。そうなるのも頷ける。


「それにしても……ルイスの奴、まだメルザに懸想しているとでもいうんだろうか……」

「ヒュー……冗談でもそんなことを言わないでください……」

「あ、す、すいません……」


 メルザにジト目で睨まれ、僕は思わず肩を(すく)めた。


「ふう……とにかく、このままでは学院生活に悪影響を及ぼしかねないので、それとなくエレン経由でグレンヴィル侯爵の耳に入れるようにしましょう」

「そうですね……」


 エレンなら、ルイスのせいで僕とメルザの関係にひびが入りそうで大公家の乗っ取りに失敗するかもと匂わせれば、すぐにでも動くだろう。


「ですが……エレンも実家が子爵家なのに、どうして侯爵家のメイドなどしているのでしょうか……」

「ああ……」


 エレンが僕と一緒に大公家に入るにあたり、大公殿下が執事長に命じて身辺調査を行ったところ、実は彼女が“ミラー”子爵家の令嬢だということが判明した。

 ちなみに、このミラー子爵家はグレンヴィル侯爵家の()でもない。だから、わざわざメイドとして仕える理由なんてないはずなんだけど……。


「……理由は分かりませんが、執事長が引き続き理由などを調査しているので、まずはその結果を待ちましょう……」

「ええ……」


 さすがに、こんなことはこれまでの人生でも知らなかった事実なので、僕にもどうしようもない。

 分かっているのは、エレンはグレンヴィル側の人間で、僕の復讐対象の一人だということだけだ。


「それよりもヒュー、朝の約束(・・)、覚えていらっしゃいますよね?」


 メルザが話題を変えるため、僕の顔を(のぞ)き込みながらそんなことを言った。

 うん、例のお預けの件(・・・・・)だね。


「はは、もちろんですよ。屋敷に帰ったら、その……お好きなだけどうぞ」


 僕は首筋を手でさすりながら微笑んだ。

 でも、本当はメルザに血を吸われるのは、その……少し恥ずかしかったりする。


 いや、牙が痛かったりとか、そういうことはないんだけど……その時に触れるメルザの桜色の唇が柔らかいというか……息遣いが耳やうなじをくすぐるというか……。


 なお、前にメルザに教えてもらったんだけど、ヴァンパイアが血を吸う行為については、求愛行動の意味もあるらしい。

 要は、口づけを交わすのと同じような意味もあるわけで……。


「あう……そんなに恥ずかしそうにされてしまうと、そ、その……私まで恥ずかしくなってしまいます……」

「あ、あははー……」


 頬を紅く染めて上目遣いでモジモジするメルザに、僕は余計に照れてしまい、苦笑してごまかした。


 ◇


「んく……ん……ぷは……」


 屋敷に帰って早々、メルザの部屋で僕は血を吸われた。


「もういいんですか?」

「はああ……ええ、幸せ過ぎてこのまま余韻に浸らせてください……」


 恍惚(こうこつ)の表情を浮かべながら、メルザは僕にしなだれかかる。


 すると。


 ――コン、コン。


「メル、婿殿、帰ったかの!」


 おそらく使用人から聞いたのだろう。

 大公殿下がわざわざメルザの部屋まで喜び勇んでやって来た。


 だけど。


「…………………………」


 至福の時間を邪魔されたメルザは、無言で絶対零度の視線を向けた。


「お、おおう……す、すまんわい……と、ところで、実は例の準備(・・・・)について一つ進展があったんじゃ。それについて話しておこうと思っての」

「本当ですか!」

「うむ。詳しくは、下で話そう」


 僕達は大公殿下の後に続き、下の執務室へと向かう。

 ここならエレンに聞かれる心配もないので、復讐に関するあれこれについてはいつもそこで話をしている。


 そして、僕の隣で憮然とした表情のメルザ。

 邪魔をされてすこぶる機嫌が悪い。


 だから。


「メルザ……この話が終わったら、また一緒にあなたの部屋でゆっくりしましょう……」

「あ……は、はい!」


 そう告げた瞬間、メルザはパアア、と満面の笑みを浮かべた。

 はは……僕だって、メルザと一緒に過ごしたいからね。


「それで……進展があったというのは……?」


 執務室にあるソファーに座り、大公殿下に尋ねる。


「うむ。婿殿が話してくれた、グレンヴィル侯爵と取引のある武器商人じゃが、ようやくこちらの交渉に応じる気になったようじゃ」

「! やりましたね!」

「うむうむ」


 そう……グレンヴィル侯爵家に復讐するにあたり、アイツ等を絶望させるため僕達はアイツ等の取引相手である武器商人を抱き込むことにした。

 そして、グレンヴィル侯爵が国家転覆を図って動き出したその時、武器に細工をしておいて本番で使えなくしてしまうようにする。


 後は、皇国の軍の全権を預かる大公殿下が、グレンヴィル侯爵以下を一網打尽にし、絶望の中で断罪する。これが僕達のシナリオの一つ(・・)だ。


 はは……やっぱり絶頂の時に奈落の底へ叩き落したほうが、人は絶望するからね……。


「これから引き続き、向こうと取引を続けるのじゃが……婿殿、もしよければ私と一緒に交渉の場に来ぬか?」

「よろしいのですか?」

「おう! 何と言っても、婿殿はいずれ大公となってこの家を背負うのじゃ! こういったことにも慣れておかねばの!」


 そう言うと、大公殿下は豪快に笑って身を乗り出した僕の肩をバシバシと叩いた。

 はは……痛いけど嬉しい。


「ふふ……その時は私も同席いたしますね?」

「メルザがですか!?」


 クスリ、と微笑みながらそう告げるメルザに、僕は思わず驚きの声を上げた。

 い、いや、さすがにそういった場に一緒にいるのは、場合によっては危険な目に……。


「大丈夫ですよ。だって……私には、私だけの(・・・・)騎士様(・・・)がいらっしゃいますもの……」


 そう言って、メルザが僕の頬を撫でながら見つめる。

 はは……そう言われてしまったら、ここで僕が彼女を守らなくてどうするんだよ。


「はい……このヒューゴ=グレンヴィル、必ずやあなたをお守りいたします」


 僕は彼女の前で(ひざまず)き、彼女の白く透き通るような手に、そっと誓いの口づけをした。

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